安保法成立10年 地球の裏側まで、現実に(「東京新聞」)、安保法制強行10年―廃止が一層切実さ増している(「赤旗」)
2025年9月19日
【東京新聞】9月19日<社説>安保法成立10年 地球の裏側まで、現実に
多くの国民が懸念を表明していたにもかかわらず、当時の安倍晋三政権が安全保障関連法の成立を強行して19日で10年。この間、他国との軍事協力は米国以外にも広がり、国内総生産(GDP)比1%程度だった防衛費は2%に向けて異様なまでに膨張を続ける。
安保法の目的は抑止力を高め、「日本国民全体のリスク」を減らすことだったが、日本周辺を見渡せば、リスク減少にはほど遠く、逆に軍拡競争を促して「安全保障のジレンマ」に陥っている。専守防衛に徹する原点に返り、安保政策を見直す時期に来ている。
安保法に基づく自衛隊と他国軍との軍事協力は拡大の一途だ。
海上自衛隊の護衛艦「かが」と「てるづき」が8月4~12日、西太平洋での共同訓練の際、英海軍空母「プリンス・オブ・ウェールズ」を中核とする空母打撃群を対象に「武器等防護」を行った。
◆海自艦が英空母を防護
武器等防護は平時から自衛隊が他国の艦艇や航空機を警護する活動。安保法で任務に加わり、すでに米国、オーストラリアを対象に実施。英軍には初適用だが、詳しい実施日時や場所は「特定秘密」として明らかにされていない。
この訓練中、英空母艦載のF35B戦闘機が「かが」に初めて着艦した。「かが」はヘリコプター搭載型護衛艦だが、戦闘機が発着艦できるよう改造されている。
アジア・太平洋地域では中国の軍事的な台頭や海洋進出、北朝鮮の核・ミサイル開発、ロシアの軍事的圧力など緊張が高まる。
自衛隊と英軍との協力強化には中朝ロの軍事活動をけん制する意味があるのだろうが、同時に、自衛隊の活動が日本周辺にとどまらず、世界にも広がる可能性を指摘しておかねばなるまい。
中谷元・防衛相とヒーリー英国防相は8月の会談後に発表した共同声明で「日本の戦闘機及び輸送機が英国を含む欧州へ展開することを歓迎した」と明記。9月14日から航空自衛隊のF15戦闘機や空中給油機、輸送機が米国、カナダ、英国、ドイツに派遣された。
今回は親善を目的とするが、長距離航続の訓練にもなる。欧州などで緊張が高まった際、自衛隊機が「地球の裏側」にも遠方展開するための準備にほかならない。
安保法以前、日本周辺での軍事衝突や緊張に対処する旧周辺事態法は「中東とか、インド洋とか、地球の裏側は考えられない」(小渕恵三首相)としていた。
その後、自衛隊はアフガニスタンやイラクでの戦争に派遣されたが、例外措置と位置付け、その都度、特別措置法が制定された。
こうした活動が随時できるよう恒久法化し、歴代内閣が違憲としてきた「集団的自衛権の行使」を一転容認した安倍内閣の閣議決定を反映して他国同士の戦争への参加も可能にしたのが安保法だ。
その成立は、戦後日本が戦争放棄と戦力不保持の憲法9条の下で築いてきた「専守防衛」の法体系や、国民が憲法を通じて権力を律する「立憲主義」を崩壊させた。
◆違憲性は拭い去れない
安保法成立後、自衛隊の他国軍との軍事協力や海外活動の拡大に限らず、憲法の趣旨でないとされた「敵基地攻撃能力の保有」も容認され、他国領域を直接攻撃できる国産長射程ミサイルの配備も計画される。厳しく制限されてきた武器輸出も、殺傷能力を持つ戦闘機までが解禁され、英伊両国とは次期戦闘機の共同開発も進む。
GDP比1%程度で推移してきた防衛費は、関連予算を含めてGDP比2%に倍増させる方針に大きくかじを切り、26年度の概算要求は約8兆8千億円にまで膨張。米国の要求によりさらに膨らむ可能性がある。
しかし、いくら運用を拡大し、防衛費を膨張させて安保法を既成事実化しようとしても、その違憲性を拭い去ることはできない。
安保法は、軍事偏重の風潮を政治家や社会にも広げ、日本国民だけで310万人という多大の犠牲を強いた先の戦争への反省を忘れたかのような言動も相次ぐ。
厳しさを増す国際情勢には軍事的な対応ではなく、緊張緩和に知恵を絞り、外交努力を重ねることこそが、平和国家の道を歩んできた日本の役割ではないのか。
安保政策を専守防衛という本来の姿に戻すには、集団的自衛権の行使を容認した閣議決定と安保法を全面的に見直すしかない。
再び軍事大国にならず、平和国家として国際社会の信頼を得てきた日本の立ち位置を、安保法成立10年を機にいま一度確認したい。
【赤旗】9月19日<主張>安保法制強行10年―廃止が一層切実さ増している
2015年9月19日に安倍晋三・自公政権が、国民的な反対運動と世論を無視し、憲法の平和主義、立憲主義を破壊して安保法制=戦争法の成立を強行して10年です。
安保法制は、集団的自衛権の行使について歴代政府が憲法違反としてきた見解を百八十度覆して可能にするなど「戦争国家づくり」を“法制面”で整備するものでした。これを受け、22年12月16日に岸田文雄・自公政権が閣議決定を強行した「国家安全保障戦略」など安保3文書の下、敵基地攻撃能力の保有や5年間で43兆円の軍事費という空前の大軍拡によって“実践面”での「戦争国家づくり」が進められています。
実際、国家安全保障戦略は、安保法制が「安全保障上の事態に切れ目なく対応できる枠組みを整えた」と指摘。安保3文書は「その枠組みに基づき戦後のわが国の安全保障政策を実践面から大きく転換するもの」と述べています。
■進んで戦争に参加
安保法制が可能にした集団的自衛権の行使とは、日本は武力攻撃を受けていないのに、米国が第三国と始めた戦争を政府が「日本の存立が脅かされる事態」(存立危機事態)と判断すれば、戦争をしている米軍を支援するため、自衛隊が参戦し、武力を行使することです。
元内閣法制局長官の阪田雅裕氏は、安保法制を審議した衆院特別委員会で「集団的自衛権を行使するということは、進んで戦争に参加するということだから、敵となる相手国にわが国領土を攻撃する大義名分を与えるということでもある」「国民を守るというよりは、進んで国民を危険にさらすという結果しかもたらさない」と指摘していました(15年6月22日)。
■日本に大きな被害
そうした米国の戦争に参加する準備が今、急ピッチで進んでいます。集団的自衛権の行使と同様、歴代政府が憲法違反としてきた敵基地攻撃能力の保有です。
防衛省は8月、敵基地攻撃能力保有に向け、中国大陸にも届く国産長距離ミサイルの配備を25年度から開始する具体的な計画を公表しました。
今月11日から始まった日米共同訓練(レゾリュート・ドラゴン)では、長距離巡航ミサイル・トマホークを発射できる米軍のミサイルシステム(タイフォン)を岩国基地(山口県)に展開するなど、日米一体で敵基地攻撃能力の強化が図られています。
政府は敵基地攻撃について「わが国と密接な関係にある他国(米国)に対する武力攻撃が発生した場合など、武力行使の3要件を満たす場合に行使し得る」(23年4月6日、岸田首相、衆院本会議)とし、集団的自衛権の行使として可能としています。
また、日本が集団的自衛権を行使する場合、「(敵国から)わが国に対する武力攻撃が発生し、わが国に被害を及ぼす場合もあり得る」(同年2月6日、衆院予算委員会、浜田靖一防衛相)と認め、「大規模な被害が生ずる可能性も完全に否定できるものではない」としています(同)。
「戦争の準備」を止め、安保法制を廃止することが切実な課題になっています。