最低賃金の上げ幅最大 国は継続へ道筋示さねば(「毎日新聞」)、最低賃金の目安―抜本的引き上げは政治の責任(「赤旗」)、トランプ2.0 統計局長の解任 信頼損なう暴君の手法だ(「毎日新聞」)
2025年8月7日
【毎日新聞】8月7日<社説>最低賃金の上げ幅最大 国は継続へ道筋示さねば
最低賃金が大幅に引き上げられる。企業がコスト増に対応し、持続的に賃上げできる環境を整えなければならない。
今年度の最低賃金の目安について、時給を全国加重平均で63円引き上げて1118円とする答申を国の審議会がまとめた。伸び率は6・0%となり、5年連続で過去最大を更新した。
今後は各都道府県の審議会が目安を踏まえて金額を正式決定し、10月ごろ適用される。答申通りに改定されれば全国で1000円を超える。
食料品や光熱費の高騰が続いており、最低賃金の水準で働く人の待遇改善は不可欠である。一方、急ピッチの賃上げにより、中小・零細企業の収益が圧迫されているのも事実だ。
引き上げの根拠として政府が持ち出したのは、平均で6・4%に上る食料品の上昇率だった。だが、米価の高騰という一時的現象が主因で、政府が議論を誘導したとの印象はぬぐえない。経営側が難色を示したため、審議は44年ぶりに7回にも及んだ。
経営者が働き手の待遇改善に責任を持つのは当然だ。就労人口は今後減る見通しで、安価な労働力に頼って経営を維持する時代は終わりつつある。人手不足による倒産も増えている。
とはいえ企業の支払い能力を踏まえた賃金水準でなければ、経営体力をそぎかねないことに留意が必要だ。
政府は高い目標を掲げるだけでなく、経営者に意識改革を促し、生産性向上や収益拡大のための支援を強化すべきだ。
人件費上昇分を取引価格に適切に転嫁できるようにすることも重要だ。公正取引委員会などによる監視強化が求められる。
石破首相は「物価上昇を上回る賃上げ」を訴える。企業の体力を強化する改革が欠かせない。それを後押しすることこそ政府の役割である。
【赤旗】8月7日<主張>最低賃金の目安―抜本的引き上げは政治の責任
ダブルワーク、トリプルワークで仕事の掛け持ちを余儀なくされる労働者、離職者が相次ぐ介護現場―最低賃金に近い水準で働く人たちの生活は物価高で厳しさを増しています。政治の責任で最低賃金を抜本的に引き上げることが強く求められています。
中央最低賃金審議会が4日、2025年度の最低賃金額(最賃)引き上げの目安を答申しました。約6%、全国加重平均で63円増の1055円となり、全都道府県が1000円を超えることになりました。
しかし多くの労働者が求める「ただちに全国一律1500円」には遠く及びません。石破茂政権は「5年後までに全国平均1500円」を掲げます。この目標自体遅すぎますが、今回の引き上げ幅はそのために必要な毎年7・3%の引き上げにも及びません。
■中小の直接支援を
引き上げのカギは、賃上げした中小企業への国の直接支援です。原材料や人件費の高騰を価格転嫁できず、多くの中小企業が困難を抱えています。そのなかで岩手、徳島、奈良、群馬などの県では最賃アップと中小企業直接支援をセットで行っています。
日本共産党の小池晃参院議員は先の通常国会で、国の直接支援の検討を求めました。石破首相も、「それぞれの地域にふさわしい活用を国の財政を用いて支援する」と答弁しました。いまこそ直接支援に踏み出し、最賃引き上げに政府が積極的役割を発揮すべきです。
地方ごとの最賃引き上げも重要です。都市部と地方の格差は24年度212円で、賃金の低い地方から、高い都市部への人口流出が社会問題になっています。都市と地方で生計費の格差はありません。地域ごとの最賃のランク分けをやめ、全国一律に踏み出すべきです。
■共産党の財源提案
中小企業が物価高で苦境にある一方、大企業の内部留保は過去最高です。日本共産党は、大企業の内部留保の一部への時限的課税で10兆円の財源をつくり、中小企業を直接支援し、大幅な賃上げを実現することを提案しています。この提案は政府でさえ否定できなくなっています。
25年度の中小企業予算の伸びはわずか0・1%、総額1695億円です。一方、アメリカの言うがままの空前の大軍拡で、軍事費は9・5%増、総額8・7兆円となっています。「トランプ関税」の影響も深刻です。
低賃金と生活苦は、「財界・大企業中心」「アメリカ言いなり」の自民党政治の「二つのゆがみ」がもたらしたものです。外国人や高齢者「優遇」に原因を求める主張は国民の分断と対立をあおるものです。
いまこそ、自民党政治の「二つのゆがみ」を根本から転換する立場で財源的裏付けも示して改善に取り組む日本共産党の頑張りどころです。
今後、都道府県ごとの地方審議会で目安を参考に実際の改定額が決定されます。日本共産党は労働者・労働組合と連帯し、職場のたたかいとともに政治の責任での賃上げを求める国民的運動を広げるため奮闘します。
【毎日新聞】8月7日<社説>トランプ2.0 統計局長の解任 信頼損なう暴君の手法だ
米国への信頼を大きく損なう愚行というほかない。
トランプ米大統領が、労働省で雇用関連の統計を担当する局長を解任した。極めて異例の人事だ。
きっかけは、米国の雇用者数を示す統計で、7月の増加幅が市場予想を下回ったことだ。5、6月分も大幅に下方修正された。
トランプ氏は局長がバイデン前政権下で任命されたことを強調し「共和党と私を悪く見せるために不正に操作した」と決めつけた。
だが、具体的な根拠は示していない。下方修正を問題視しているが、最初の集計に回答が間に合わない企業が多かったという事務的な理由だ。前政権の時も含めて、たびたび行われている。
トランプ政権1期目に任命された元局長も米メディアで「統計を操作する余地は全くない。解任に正当な理由があるとは到底思えない」と批判している。
雇用統計は国民生活に深く関わり、金融市場も注視している。これまでは堅調に推移し、トランプ氏は政策の正当性をアピールする材料にしてきた。
自らに都合のいい結果が出なかったことに憤慨し、腹いせに解任したと思われても仕方がない。これでは専制国家の暴君の手法と変わらない。
統計は政策を立案する際の基盤となるものだ。理不尽な介入がまかり通れば、政権の意向を忖度(そんたく)してデータが改ざんされ、政策もゆがむ恐れがある。
米国への信頼が低下すれば、大幅なドル安など「米国売り」を引き起こし、国際金融市場が混乱しかねない。
トランプ氏は世界経済をけん引する大国の立場を自覚する必要がある。責任を転嫁するのではなく、独善的な政策を見直すべきだ。