原油価格上昇の背景―トランプ関税への対抗も波及

2025年8月6日
【赤旗日曜版】8月3日 <経済これって何>原油価格上昇の背景―トランプ関税への対抗も波及
 イスラエルと米国が6月にイランの軍事・核施設を先制攻撃、空爆し、その影響を受けて原油価格が大幅に上昇しました。
 6月に原油価格(米国市場のWTI価格)は1バレル(約159㍑)あたり00㌦台でしたが、75・14㌦(18日)へ上昇しました。停戦合意を契機に64~68㌦で推移しています。日本が輸入する原油の代表油種であるアラビアン・ライト(A・L)価格も7月1~24日で前月比0・22㌦上昇の71・49㌦です。
 中東原油は、WTIや欧州市場のブレント原油が停戦合意後値下がりしたのに、意外な高値です。
 背景にあるのが、中国やインドといったアジアや非OECD(経済協力開発機構)諸国の石油需要の増加です。今年のOECDの石油需要量は1日あたり4559万バレル、前年比0・2%減で推移。これに対して非OECDは5795万バレル、前年比1・5%増で推移。中国とインドなどの石油需要は引き続き伸びています。中等輸入量が増えています。
 米国の原油・ガス輸出企業は世界市場を一段と席巻するようになっています。2005年から「シエールガス、シェールオイル」(貢岩(げっがん)と呼ばれる岩石から採取されるガスや原油)の生産が本格化し、15年にオバマ大統領(当時)が米国の「原油輸出自由化」を行いました。数年前から米国はシュールガス由来のLNG(液化天然ガス)などの最大の輸出国となりました。米国の生産・輸出増が原油価格を大幅に引き下げたのです。
 米国のエネルギー・原料の最大の輸出先が中国です。石油精製能力、石油化学生産力などの拡大が中国産業を拡大させ、中国は、それまで日本・韓国・西欧などからの輸入に依存してきた自動車燃料、石油化学製品などを自国生産に置き換えました
 中国に続くのがインドです。中国ほど米国に依存せず、中東からの原油・LPガスなどの輸入を増やし、ロシア原油の輸入も急増させています。
 トランプ関税に対抗して中国は、米国からの原油などの輸入を大幅に減らしています。この輸入減少分の代替を中東に求めています。「エネルギー・原料の非米国産への置き換え」です。これも中東原油高の一因であり、WTIなど米国市場の大幅下げにもつながっています。 
 イラン・イスラエルの軍事衝突、米国のイラン空爆、イランによる海峡封鎖などの地政学リスクによる原油急騰の可能性は続きます。トランプ関税とこれへの対抗措置がインド、EU(欧州連合)などでとられることは必至で、この面からも原油高傾向は続きます。 
 中東原油の輸入停止はありえます。この事態に備えて日本では石油備蓄制度が一定整備されています。実態は①国家備蓄138日分 (4274万㌔㍑)、②民間備蓄93日分(1251万㌔㍑ですが、この他に③産油国共同備蓄9日分(274万㌔㍑)もあり、日本の石油基地を利用して危機時には日本に優先供給することになっています。 
  萩村武(はぎむら・たけし 石油ジャーナリスト