日米関税交渉で合意 これで国益を守れるのか([毎日]24日<社説>,「防衛白書」―米言いなりの同盟強化許すな([赤旗」24日主張)

2025年7月24日
【毎日新聞】7月24日<社説>日米関税交渉で合意 これで国益を守れるのか
日本の国益を守れる内容と言えるのだろうか。
 トランプ米大統領による高関税政策を巡る交渉で、日米両政府が合意した。
 米国が日本からの輸入品に課す「相互関税」の税率を25%から15%に下げる。これとは別に、25%を上乗せしていた日本車への税率は15%とする。日本は米国産コメなどの輸入を拡大し、企業の対米投資を促進する。
 25%の相互関税は8月1日から発動される予定だった。既に課されている自動車関税とともに日本経済に深刻な打撃を及ぼす恐れがあった。
日本政府は見直しを求めてきたが、米国は譲ろうとせず、「発動は不可避」との見方が広がっていた。合意を受けて、日経平均株価が急騰したのは、想定したほど影響は大きくならないと受け止められたためだ。
■理不尽なトランプ政権
 石破茂首相は「税率は対米貿易黒字を抱える国で最も低い。日米両国の国益に一致する」と強調した。米国と合意したベトナムなどの税率20%程度を下回ったことをアピールした。
 難しいとみられていた自動車関税の引き下げを勝ち取ったことは一定の成果と言える。
 とはいえ合意には疑問が多い。
 引き下げられても、関税は10%を超す高水準だ。米国が以前、日本車に課していた税率は2・5%だった。鉄鋼製品への関税50%はそのままだ。日本経済に逆風となる状況に変わりはない。
 「米国第一」を振りかざすトランプ氏の政策は極めて乱暴だ。
 政権1期目に日本と貿易協定を結び、自動車関税は引き下げを約束していたが、一方的にほごにした。日本が今回、受け入れたことで理不尽な手法を結果的に許した形になる。
関税の軽減と引き換えに、米国の要求に応じて、日本政府が提示した内容にも懸念が残る。
 トランプ氏が強く求めていたコメの輸入拡大をのんだ。日本は年間消費量の約1割を無関税で輸入している。その枠は維持した上で米国からの輸入割合を増やす。
 石破首相は「日本の関税を下げることは含まれていない。守るべきものは守った」と主張した。
 ただコメは日本の主食であり、食料安全保障に関わる問題だ。米国の圧力に屈するのではなく、現在のコメ不足も踏まえ、長期的な農政のあり方を検討する観点から輸入の可否を判断するのが筋だ。
 日本企業の対米投資を促進するため、政府系金融機関が80兆円規模の出資や融資で後押しする枠も設ける。「米国の製造業復活」を掲げるトランプ政権が重視する造船や半導体などが対象となる。
 トランプ氏は「史上最大の取引だ。日本は、私の指揮の下に米国に投資し、米国はその利益の90%を得る」と誇示した。高関税で対米投資を事実上強要するものだ。
 米国の国益も損ないかねない。高関税で輸入品価格が上昇すれば、消費が冷え込み、景気を悪化させる。保護主義で自国企業を守ろうとしても、高コスト体質が温存され、競争力が低下する。
■撤廃へ働きかけ継続を
 日本政府は国内対策に万全を期さなければならない。
 対米輸出が減少し、自動車メーカーなどの業績が悪化すれば、しわ寄せが下請けの中小・零細企業に及ぶ恐れがある。支援に手を尽くすべきだ。
 参院選で与党が大敗した後も、石破首相は続投する理由の一つに関税交渉を挙げていた。基盤が弱体化した政権が合意内容に責任を持つことができるのだろうか。
 世界の自由貿易体制にも禍根を残す。
 トランプ政権による一方的な高関税の発動は、世界貿易機関(WTO)のルールに反する。世界経済を悪化させるだけでなく、戦後の国際秩序を揺るがすものだ。
 各国はこれまで互いに関税を引き下げ、貿易を活発にすることで経済を発展させてきた。日本も自由貿易の恩恵を受けてきた。
 米国の高関税には各国が抵抗し、合意に至ったケースは限られる。日本だけ交渉がまとまればいいというものではない。日米という主要国が高関税を容認する先例になれば問題だ。
 日本は自由貿易体制を維持する責任がある。政府は交渉をこれで終わらせてはならない。引き続き米国に対して、関税の撤廃を粘り強く働きかけるべきだ。

【赤旗】7月24日<主張>25年版「防衛白書」―米言いなりの同盟強化許すな
 防衛省が今月中旬に2025年版「防衛白書」を公表しました。白書は、今年1月に発足したばかりの第2期トランプ米政権の安全保障政策について同省としての分析・評価を避けながら、同政権に付き従って、日米軍事同盟の強化と日本の大軍拡に一層突き進む方向を強くにじませています。
■法外な要求拒否を
 白書は、第2期トランプ政権の「安全保障・国防戦略」について「今後、どのような政策を公表するか注目される」との表現にとどまっています。「現時点で国家安全保障戦略(NSS)、国家防衛戦略(NDS)といった安全保障にかかる政策文書を公表していない」(中谷元防衛相)ためだとされます。
 代わりに白書では、トランプ政権下の「米国の安全保障戦略の見通し」と題したコラムを掲載したと言います。
 同コラムは、防衛省の研究機関・防衛研究所の研究者が執筆し、「トランプ政権が掲げる『力による平和』という政策アプローチは、米国が中国との戦略的競争を優位に進めるため」だとし、「同盟国がより大きな役割を果たすことに対する期待は、トランプ政権内で強くきかれます」と指摘。「このようなトランプ政権の安全保障戦略を踏まえると、わが国をはじめとする同盟国自身の能力強化が不可欠」と強調します。
 コラムの内容について「政府としての公式見解を示すものではありません」との注釈を付けていますが、中谷防衛相は白書公表後の記者会見で「日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化を図るための協力を進めていくべく、トランプ政権と緊密に意思疎通をしていく」と表明しています。
 トランプ政権は、日本の軍事費を国内総生産(GDP)の3・5%にすることや、「台湾有事」で米国と中国が軍事衝突した際の日本の役割の明確化を求めているとされます。現在8・7兆円の日本の軍事費を20兆円を超える規模にし、米中戦争への日本の参戦を迫るという、法外かつ危険な要求はきっぱり拒否すべきです。
■平和と安全脅かす
 白書が、今年3月に発足した自衛隊の「統合作戦司令部」を特集も組んで大きく扱っていることも重大です。
 同司令部は、陸・海・空自衛隊の部隊を一元的に指揮し、「(作戦面で)米軍との調整をより緊密に行い、日米共同対処能力を強化することができる」としています。日米の司令部一体化を進め、自衛隊が事実上、米軍の指揮下に置かれる危険を生みます。
 白書はまた、同司令部が「反撃能力を活用した作戦」=長射程ミサイルなどによる敵基地攻撃の作戦を指揮することも明らかにしました。
 「反撃能力」については、日本が攻撃されていないのに、米軍が攻撃を受け、日本の存立が脅かされる事態(存立危機事態)になった場合の行使も否定していません。相手国からは日本による先制攻撃とみなされ、報復攻撃されるのは必至です。
 日本と東アジアの平和と安全を脅かす行為を許してはなりません。外交の力で平和を築く努力こそ必要です。