防衛費増額要求 対米追随の脱却も語れ(「東京新聞」)

2025年7月7日
【東京新聞】7月7日<社説>’25 参院選 防衛費増額要求 対米追随の脱却も語れ
 日米関税交渉が難航する中、トランプ米政権が日本にも防衛費の大幅増額を求めている。参院選公約で与野党の多くが「日米同盟」を外交・安全保障政策の基軸に位置付けるが、法外な要求を繰り返す米国に追随するばかりでいいのか、明確に語る必要がある。
 米政権による防衛費の増額要求を受け、北大西洋条約機構(NATO)が2035年までに国内総生産(GDP)比5%に引き上げる目標に合意。これを受け、レビット米大統領報道官は「アジア太平洋地域の同盟国、友好国にもできるはずだ」と述べた。
 自民党総裁の石破茂首相は、参院選の党首討論会などで、防衛費は「日本が決めるべきで、外国から言われて『分かりました』という話ではない」と強調する。
 しかし、日本政府が近年、防衛費を自ら決めてきたのか疑問が募る。22年にはそれまでGDP比1%程度だった防衛費を27年度に関連予算も含めて2%に当たる約11兆円に倍増させる計画を決めた。NATOが当時、米国の要求で目標にしていたGDP比にならった「数字ありき」の決定だった。
 計画3年目の25年度防衛費はGDP比1・8%の約9兆9千億円に達した。ただ、財源の一部に充てる所得税の増税は実施時期をいまだ決められない。数字ありきの防衛費増額のツケを、将来世代に回している状況だ。
 米国の要求に唯々諾々と応じ、防衛費を25年度の名目GDP見通し(629兆円)比5%に増やせば31兆円余にまで膨らむ。単純計算で有権者1人当たり年20万円のさらなる負担増だ。現実的とは言い難く、有事への備え以前に、国民生活が破綻しかねない。
 自民、立憲民主、日本維新の会、国民民主、参政各党は参院選公約や政策集で「日米同盟」の維持や強化・深化に言及。公明、共産、れいわ新選組、社民各党の公約は「平和外交」に重点を置く。日本保守党は価値観を共有する国との連携強化を訴える。
 日米安保条約で日本防衛の義務を負う米国に一定の配慮は必要だが、国際法を無視し続けるトランプ政権の要求をそのまま受け入れていいのか。日本の平和と安全、私たちの暮らしを守るため、参院選を議論を深める機会にしたい。