トランプ関税―「米国産業活性化」とはいかない

2025年4月25日
【赤旗日曜版】4月17日&5月4日 経済これって何 トランプ関税―「米国産業活性化」とはいかない
 第2次トランプ政権による高関税政策に、世界各国が振り回されています。 
 2日、全ての貿易相手国に10%、日本には上乗せ分14%を合わせて24%の関税をかけると公表しました。しかし9日、中国を除き貿易相手国ごとに設定した上乗せ分を90日間停止すると表明しました。
 そもそも関税とは、外国からの輸入に対し、輸入国がその輸入業者にかける税金のことです。当事国の輸入業者が、輸入し、まだ関税がかかっていない保税用の倉庫から輸入財を搬出するときに税関に支払う税金のことで、それは、国家の税収になります。 
 第2次世界大戦後、諸国の通商では、GATT(関税貿易一般協定)に見られるように、関税を引き下げ、国際貿易を活発にする政策をとりました。国際貿易の発展は、経済成長の大きな要因だったからです。大恐慌時代の1930年、アメリカは、ホーリー•スムート関税法を通し、前代未聞の高率保護関税政策を採用しました。各国も対抗して高率保護関税体制をとり、世界経済ブロック化した時代がありました。その結果、世界貿易は激減、経済停滞が長引き、挙げ句の果てが第2次盗だったという苦い教訓を真剣に受け止め、GATT加盟国は戦後、農業など一部産業の製品を除き、関税一括引き下げ交渉(ラウンド)をし、関税の引き下げで世界貿易を活発化させました。 
 その後、大きな変化が「1974年通商法」に始まります。通商法301条は、諸外国の政府が不公正、不適切または差別的なやり方でアメリカの通商を妨げたと思われる場合、大統領が直ちに協議に入る権限を通商代表部(USTR)に与え、関税率の引き上げ、輸入割当制(輸入枠)削減などの報復的手段に訴えることを定めました。
 通商法の制定に至った背景に、アメリカ産業の衰退があります。今日アメリカは、毎年膨大な貿易赤字を出し、その要因は、企業の多国籍化にあります。アメリカ企業は、低賃金諸国で安く製造しアメリカに持ち帰るというグローバルサプライチェーン(供給網)を形成し、国内産業の空洞化を引き起こしたのです。
 トランプ政権は、高関税政策によって海外から製造業を呼び戻し、国内産業を活性化できると考えているようですが、そう簡単に事は運ばないでしょう。中国には、145%の高関税をとり続けるとしたものの、エレクトロ二クス関連の製品の適用除外をめぐり方針が右往左往していることにもそれは表れています。 
 この高関税政策には、関税収入の増加による財政赤字の削減の意図があります。トランプ大統領は、実業家のイーロン・マスク氏を政府効率化省の責任者に任命し、極端な財政支出削減を実行し、連邦財政赤字の削減を図ろうと考えています。しかし高関税政策は物価上昇を引き起こし、雇用の減少から景気後退になると懸念され、株価急落を招いています。この高関税政策は、世界的に不安定な経済状況を生み出していることだけは確かなようです。 
    萩原伸次郎(はぎわら・しんじろう横浜国立大学名咨竅授)