デジタル赤字急拡大―進む米国企業による、植民地化
2024年12月22日
【赤旗日曜版】12月22日<経済 これって何>デジタル赤字急拡大―進む米国企業による、植民地化
日本の貿易や投資の収支を表す国際収支のうち、「デジタル赤字」と呼ばれるものが近年急拡大しています。
貿易収支は、原燃料の輸入や、国際分業の進展で部品、機械などの輸入が増え、円安の影響もあり、2023年で6兆5009億円の赤字と、2年連続の赤字です。
サービス収支も赤字傾向です。サービス収支のうち旅行収支は、海外からの観光客の増大を受け23年で3兆6313億円の大幅黒字です。しかし、著作権等使用料、通信・コンピューター・情報サービス、専門•経営コンサルティングサービスからなるデジタル分野の収支は、5兆5194億円と大幅な赤字です。これは最近、デジタル赤字と呼ばれるようになり、その赤字額は貿易赤字額に近づいています。
デジタル赤字拡大は、コロナ禍でのリモートワークや動画配信サービス利用の増大で、米国企業が開発したアプリケーションを利用することが多く、それだけ米国への支払いが増大したことに原因があります。日本企業のデジタル分野での競争力が弱く、世界で通用するデジタルサービスが展開できていないのです。
対話型AI (人工知能)「チャットGPT」が登場し、自然言語でさまざまな文章や画像、動画などの生成、データ分析などが可能になり、生成AIの開発やそれを組み込んだサービスが展開されていますが、Open AIや「GAFAM」(グーグルなど巨大IT5社の頭文字)など米国企業が圧倒的に世界市場を支配しています。日本企業は、米国企業が開発した技術基盤の上でサービスを展開しています。そうなると、ますます日本のデジタル赤字が増えると予想されます。
デジタル赤字の増大は、国内で労働者が生み出した富が海外に流出しているということでもあります。日米デジタル貿易協定は「国境を越えるデータ(個人情報含む)の自由な移転」を決め、圧倒的に競争力を有するGAFAMの日本国内での「自由な活動」を保障し、収集したデータを米国内に送信し自社のサービス強化に役立てることを保障するものです。
米国企業が日本で収集したデータを自社のビジネス展開に「自由」に利用し、収益源にしていることは、米国による日本のデジタル植民地化と言えるでしょう。IT • AI技術における日本の競争力の弱さがデジタル赤字を増大させ、米国企業によるデジタル植民地化を強めています。
この状況を打開する鍵は、米国の技術とは異なる、日本独自のデジタル技術の開発とデジタルサ—ビスの展開です。そのために研究開発分野での政府投資の拡大や人材育成を担う大学への投資の大幅な拡大が必要です。
企業も、長期的視野でデジタル技術・サービスの開発や展開に注力し、労働者や技術者も安心して新しい技術やサービス展開に専念できる環境の整備が必要です。そうしないと日本経済自体も衰退傾向から逃れられないでしょう。
藤田実(ふじた«みのる桜美林大学教授)