「所得税の103万円の壁」とは?、 軍事ローン膨張9,4兆円―19年度比2倍超

2024年11月7日
【赤旗】11月6日、7日「所得税の103万円の壁」とは?
 衆議院で過半数割れした自公両党が、政権の延命を図るため、国民民主党などを抱き込もうと工作を強めています。その中で論点に上がっている「所得税の103万円の壁」について、「どういうことか?」という質問が寄せられているので、解説します。(日本共産党政策委員会 垣内亮)
Q「103万円」とは何?
A 所得税の課税最低限のこと
Q「103万円」というのは何のことで、どのように計算されるのですか?
A いわゆる「所得税の課税最低限」のことです。国民が納める所得税の額は、収入そのものの金額に税率をかけるのではなく、収入から各種の金額を差し引いた残りに税率をかけて計算されます。会社員やパート・アルバイトなどの給与所得者の場合は、給与所得控除と基礎控除が差し引かれます。人によっては、このほかに社会保険料控除や配偶者控除、扶養控除なども引かれる場合もあります。
 基礎控除は所得税で48万円、住民税で43万円、給与所得控除は最低額が55万円となっています。「103万円」というのは、所得税の基礎控除と給与所得控除の最低額55万円を合わせた金額です。年間の収入が103万円以下なら、この二つの控除を差し引けば残りがゼロになってしまうため、所得税が課税されないのです。
Q 103万円超だと手取り減る?
A 本人の手取りは減らない
Q 年収が103万円を超えると、手取り額が減ってしまうのですか?
A 本人の手取りが減るわけではありません。年収が103万円を超えても、その年収全体に所得税がかかるわけではなく、103万円を超えた分についてだけかかります。
 年収が104万円ならば、超えた額は1万円ですから、これに5%の税率をかけて計算した500円の所得税がかかるのです。他に住民税が10%で1000円、復興特別所得税が「所得税額の2・1%」で10円かかりますから、税の合計は1510円です。年収が1万円増えるごとに税金が1510円かかることになりますが、税引き後の手取り額は、8490円ずつ増えていきます。
 このように、103万円を超えたからといって、本人の手取りが逆に減ってしまうことにはなりません。なお、学生アルバイトの場合は、基礎控除と給与所得控除のほかに、「勤労学生控除」(所得税27万円、住民税26万円)が適用されるため、所得税は年収130万円を超えないと課税されません。
Q それなら、なぜ「壁」という?
A 家族の手取りが減る場合があるから
Q 103万円を超えても手取りが減るわけではないのなら、なぜ「壁」と言うのですか?
A 場合によっては、本人ではなく家族の手取りが減ってしまう場合があるからです。
 たとえば、学生などが親の扶養親族の形でアルバイトをしている場合、親の所得税や住民税の計算上、「扶養控除」(所得税38万円、住民税33万円)が適用されます。大学生の場合は「特定扶養控除」といって控除額が増えます(所得税63万円、住民税45万円)。扶養控除による税の軽減額は、「控除額×親の税率」なので、親の所得によっても違ってきますが、大学生で親が平均的な会社員ならば、所得税と住民税あわせて7万~13万円くらいになります(親が高額所得だと、最大で33万円程度)。
 子どもの年収が103万円を超えて親の扶養親族でなくなってしまうと、親の税金が7万~13万円も増えてしまうことになります。学生本人の手取りは増えても、世帯全体の手取りが大きく減ってしまいます。このため、103万円を超えないように働く時間数を制限することになる―このことが「103万円の壁」と呼ばれるのです。
Q 共産党の政策は?
A「課税最低限の引き上げ」を主張
Q「103万円の壁」について、日本共産党はどう考えているのですか?
A 日本共産党は課税最低限を引き上げることが必要だとして、総選挙の政策でも「課税最低限の引き上げ」を主張してきました。
 課税最低限が現在の103万円になったのは、1995年ですが、その当時と昨年2023年の物価を比べると、10%以上も上がっています。物価が上がっても、同程度に収入が増えれば実質収入は減りませんが、税の控除などがそのままだと、税引き後の手取り額の伸びは物価に追いつかず、「実質手取り額」の伸びはマイナスになってしまいます。これを防ぐために、控除の額を増やして課税最低限を引き上げることが必要です。物価や賃金が上がれば所得税収も自然に増えますから、物価上昇に見合う程度の引き上げなら、その財源は税の自然増収分の一部を還元することで確保でき、財源の心配もいりません。
 もっとも、学生のアルバイトの場合には、「壁」の引き上げも重要ですが、そもそも学生がそんなに働かなくても済むように、授業料の引き下げや給付制奨学金の充実を進めることが大事です。
Q 国民民主党の案は?
A 膨大な財源が必要 負担増の恐れも
Q 自公政権と協議がされている国民民主党の減税案について、どう考えたらいいのでしょうか?
A 物価高騰の中で、課税最低限の引き上げが必要だという点では、日本共産党も同じ立場です。ただ、国民民主党の案は103万円を178万円に引き上げる(72・8%増)というもので、物価の伸びをはるかに上回る提案です。当然、財源もたくさん必要になり、政府の試算では7・6兆円といわれています。これは、国の高等教育予算の4倍以上に当たります。所得税の自然増収の範囲では全く足らないため、他から財源を持ってくることが必要になってしまいます。
 財源をどこに求めるかによっては、かえって負担増になってしまう人が出る場合も考えられます。たとえば、消費税増税で財源をつくるのなら、いまでも課税最低限以下の低所得の人には所得税は1円の減税にもならず、消費税の増税だけがかぶさることになります。また、所得税の減税財源のために教育予算がさらに削られ、大学の授業料が値上げされたりしたら、学生にとってもかえってマイナスです。
 ですから、課税最低限の引き上げ自体は必要なことですが、その財源をどうするのかによっては、国民のためにならないおそれがあります。

「所得税の103万円の壁」とは?(下)
Q パートの主婦の場合は?
A 法改正で夫の税金は増えず
Q 学生だけでなく、パートで働く主婦にも「103万円の壁」があるのですか?
A 主婦がパートで働いている場合も、昔は「103万円の壁」がありました。103万円を超えると「配偶者控除」が適用されなくなり、夫の税金が増えてしまうという問題があったのです。
 しかし、7年前に法律が改正され、2018年からは、年収103万円を超えても150万円までは配偶者控除と同額の「配偶者特別控除」が適用されることになったため、妻の年収が103万円を超えても夫の税金が増えることはなくなりました。さらに、150万円を超えても控除が一気になくなるのではなく、徐々になくなる方式になったため、税金が急激に増えることはありません。
 税の問題としては、パート主婦の「壁」はなくなったのです。人によって、夫の会社の給与に「家族手当」があって、その年収基準が103万円となっている場合には、それが「壁」となる場合もありますが、それは企業が決めることで、直接には税制の問題ではありません。
Q「壁」を気にしている人は多いようだが?
A「保険料の壁」で収入大幅減
Q でも、パート主婦で「壁」を気にしている人は多いようですが?
A パート主婦の多くが気にしているのは「103万円」よりも「106万円の壁」や「130万円の壁」の方です。こちらは、「税の壁」ではなく、年金や健康保険の「保険料の壁」です。
 会社員や公務員などの厚生年金加入者の配偶者は、年収130万円以内ならば、健康保険の扶養家族、年金の「3号被保険者」になれるので、保険料を払わなくて済みます。でも、年収が106万円に達すると、職場の厚生年金と健康保険に加入して、自分で保険料を払わなければならない場合が出てきます。保険料率は合計で15%くらいなので、106万円でも約16万円の保険料が天引きされ、手取りが逆に90万円くらいに減ってしまいます。
 一方、職場が社会保険に入っていない場合などは、年収130万円までは保険料を払うことになりませんが、130万円を超えると国民健康保険と国民年金の保険料を払うことになり、こちらは30万円前後の保険料と、さらに高い負担になります。人によって「106万円」または「130万円」で手取りが大きく減ってしまうので、これが「保険料の壁」になっているのです。
Q「壁」はどうやったらなくせる?
A「最低保障年金」制度の創設が必要
Q「106万円」「130万円」の壁はどうやったらなくせるのでしょうか?
A この二つの「保険料の壁」の最大の原因は、「3号年金制度」(会社員配偶者の保険料免除制度)にありますが、この「3号年金」ができたのは、日本の年金制度に「最低保障年金」の仕組みがないためです。多くの先進国の年金制度には、保険料を払わなくても老後に一定額までの年金が支給される「最低保障年金」がありますが、日本にはまったくありません。この欠陥を補う形で「3号年金」がつくられているのです。
 「3号年金」は、会社員の配偶者だけが対象で、自営業者の配偶者や独身者には適用されず、不公平な面もあります。職種や性別に関係なく、誰にでも適用される「最低保障年金」の制度をつくれば、「3号年金」を廃止することができます。そうすれば「保険料の壁」の解消に向かうことになります。
Q 当面の対策は?
A 最賃の引き上げと社保料減で対応を
Q でも「最低保障年金」はすぐには難しいと思いますが?
A 確かに、最低保障年金で問題を根本的に解決するには、まだ時間が必要です。当面の対策としては、多くの人が「保険料の壁」を気にせずに、これを乗り越えて働けるようにすることです。そのためには、二つのことが重要です。
 一つは、最低賃金をすみやかに時給1500円にすることです。今のように、毎年50円くらいの引き上げでは、「壁」にぶつかることを繰り返すだけになり、いつまでも乗り越えられません。たとえば、時給1000円で年間1000時間働く人は、年収100万円で「壁」の範囲です。時給が1060円に上がっても、年収が106万円になって保険料負担が生じると、逆に手取りが減ってしまいます。時給が1500円になれば、年収が150万円になり、保険料や税金を差し引いても、手取りは今より大幅に増えます。こうすれば、「壁」を乗り越えて働けます。
 もう一つは、低所得者の社会保険料を軽減することで「壁」の高さを下げることです。とくに、国民健康保険の保険料の負担は大変重くなっています。年収130万円のパート主婦の場合、会社の健康保険ならば保険料率が5%程度で6・5万円ですが、国保料の場合、たとえば大阪府では最高16万円にもなってしまいます。日本共産党は、国保財政に1兆円の予算を追加することで、国保料を下げることを提案しています。これを実施すれば、大阪のパート主婦の国保料は5万円まで下がります。

【赤旗】11月7日 軍事ローン膨張9,4兆円―23年度末武器調達契約額 19年度比2倍超―会計検査院が決算検査報告
 武器・装備品の調達契約を巡り、翌年度以降に支払う軍事ローン「後年度負担」が生じる契約額が2023年度末時点で約9兆4500億円に上り、19年度末に比べ2倍以上に膨らんでいることが6日、会計検査院の決算検査報告で明らかになりました。
 後年度負担は、翌年度以降の軍事費(防衛省予算)にローン返済分である「歳出化経費」として計上され、原則5年以内に支払われます。政府は憲法に基づき予算の「単年度主義」をとっており、後年度負担が増えると予算の硬直化を招きます。
 検査院によると、軍事費の拡大に伴い、後年度負担の契約額は19年度末時点で約4兆6900億円でしたが、23年度末には約9兆4500億円にまで膨らんでいました。
 政府は安保3文書の一つ「防衛力整備計画」に基づき、23~27年度で約43兆円の軍事費を投じる方針。従来の計画よりも約15兆5300億円増加したことに伴い、後年度負担額も増えています。
 また、23年度の輸入調達の予算額は約2兆1200億円で、前年度より約4倍に増加。大半は、米政府の武器輸出制度である有償軍事援助(FMS)に基づく契約であり、検査院は今後の為替変動により支払額が大きく変動する可能性があると指摘しました。
 FMSが急増するきっかけとなったのが、16年に発足したトランプ米政権から「バイ・アメリカン(米国製を買え)」と迫られ、安倍晋三首相(当時)が米国製高額兵器の大量購入を約束したことです。
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