国際金融都市構想―優遇税制で格差の拡大を招く(「赤旗」23日)、最低賃金の目安―政治の責任で1500円早く(同28日)
2024年7月28日
【赤旗】7月23日<主張>国際金融都市構想―優遇税制で格差の拡大を招く
新NISA(少額投資非課税制度)が今年1月から始まりました。昨年の通常国会の税制改正で大幅に拡充されたもので、岸田政権の「資産所得倍増プラン」(2022年11月)に沿ったものです。家計の預貯金を投資に誘導する「貯蓄から投資」政策の一環です。
「倍増プラン」では、日本を世界的な金融ビジネスの拠点とする「国際金融センターの実現」も掲げられ、海外の金融業者・金融人材の誘致を進めるとしました。特に、日本の税負担は競争相手である香港、シンガポールより重いことが問題だとされ、「必要な見直しを行う」との方針が示されました。呼び込み型の減税競争による、大企業・富裕層と一般庶民との格差拡大が懸念されます。
■減税打ち出す特区
23年12月の「資産運用立国実現プラン」では、国際金融センター実現への具体策として「金融・資産運用特区の創設」が打ち出されました。金融・資産運用業者を集めるため、手を挙げた自治体を政府が支援するものです。誘致に必要なビジネス・生活環境を整備するため都市再開発の規制緩和の手法として国家戦略特区の活用も促されています。
東京都、大阪府・大阪市、福岡県・福岡市、北海道・札幌市の4都市が2月、「金融・資産運用特区」の提案書を政府に提出し、6月に特区として指定を受けました。4都市の提案書では政府の方針を受け、金融業者・金融人材を呼び込むための減税政策が打ち出されています。
各自治体の独自施策として「市に初進出の金融系外国企業への市税優遇を検討」(札幌市)、さらに国への要望には「金融系外国企業への法人税(国税)の軽減」(大阪府・市)などの減税要求が並びました。
■世界の流れに逆行
一方、世界では、格差拡大を招く税制見直しの動きが強まっています。21年には法人税の最低税率導入の国際的合意がされました。
東京都が国際金融センターのモデルとしたのが英国のシティー(ロンドンの特別行政区)ですが、その英国では今年3月、保守党政権の下で海外富裕層を呼び込むための優遇税制を見直しました。「公正で持続可能な税制」を確立するため、外国人富裕層の海外所得への減税を大幅に縮小。その税収は、社会保障財源として国民保険料率の引き下げに活用します。今後は相続税も同様の優遇を是正する方針です。
また海外のファンドマネジャー(資産運用の専門家)を誘致するための税制優遇を見直す動きもあります。英国では新たに政権についた労働党が選挙公約で掲げ、米国バイデン政権も同様の提案をしています。
一方、菅義偉前政権は21年度税制改正で誘致のためのファンドマネジャー減税を実施しました。岸田文雄政権の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」(6月21日)も海外投資呼び込みのための減税の検討を盛り込んでいます。
日本共産党の小池晃書記局長が参院財政金融委員会(5月14日)で強調したように、世界の流れは呼び込み型の減税競争ではなく格差是正のための優遇税制見直しです。世界の流れに沿った税制改革が必要です。
【赤旗】7月28日<主張>最低賃金の目安―政治の責任で1500円早く
厚労省の国民生活基礎調査で「生活が苦しい」が過去最悪の6割となり、物価を上回る賃上げが切実に求められるのに、この金額ではまったく不十分です。
中央最低賃金審議会が答申(25日)した2024年度の最低賃金額(最賃)引き上げの目安です。全国加重平均で50円(5%)増の1054円としました。「過去最大」の上げ幅と言われますが、広範な労働者が求める全国一律1500円とはかけ離れています。
各地の食料支援の現場では、仕事があっても、困窮と生活不安から食料を求める人が増えています。実質賃金は過去最悪の26カ月連続マイナスです。いまこそ最賃の大幅引き上げで賃金の底上げを図るときです。
最賃の大幅アップは全世代の切実な要求です。厚労省の調査では、25歳以下の若年層と60歳以上の高齢者層では最賃に近い労働者(最賃の1・1倍未満)の割合が2割を超えています。非正規をはじめ最賃ぎりぎりで働く労働者、高学費のため長時間アルバイトをする学生、年金だけでは生活できずパートで働く高齢者、男女賃金格差の是正にとっても、最賃の大幅引き上げが求められます。
■残る地域間の格差
地域格差の是正も大問題です。地域ごとのA~Cランクいずれも50円の引き上げで、目安通りの引き上げなら最も高い東京都が1163円、最も低い岩手県で943円と格差はそのままです。全労連の生計費調査では都市と地方の生計費の格差はありません。
「最賃の目安」は、全国一律制度を求める世論に追いつめられ、一律制度の代わりに「地域格差を縮小する」と言って導入されました。しかし、格差は拡大したままです。全国一律制度に踏み切るべきです。
世界各国は最賃を大幅に引き上げています。物価水準を考慮した購買力平価でみて、日本の最賃は経済協力開発機構(OECD)諸国で最低水準です。
岸田文雄政権は、30年代半ばまでに最賃1500円を目指すとしますが、遅すぎます。「骨太方針」で「あらゆる政策を動員して賃上げを後押し」「地域間格差の是正を図る」としながら、実際には何の手も打っていません。
■中小企業の支援を
最賃引き上げのためには政治の責任で、日本の企業の99・7%、労働者の7割が働く中小企業を支援することが不可欠です。日本共産党は、大企業がこの10年間で増やした180兆円近くに上る内部留保に対して5年間、2%の時限的課税を行い、中小企業の賃上げ支援を行うことを求めています。価格転嫁に応じず、中小企業の経営を圧迫し賃上げの足かせとなっている発注元の大企業をただすことも重要です。
一刻も早く最賃時給1500円、月額で手取り20万円へ引き上げ全国一律最賃制を確立する必要があります。今後、都道府県ごとの地方審議会で目安を参考に実際の改定額が決定されます。目安への上乗せのカギは労働者の闘いです。
日本共産党は賃上げに無策な政治を転換し、労働者・労働組合と連帯して「8時間働けば普通に暮らせる社会」「自由な時間の拡大」を実現し、暮らしに希望を開くために奮闘します。