軍拡財源法案―採決は平和と暮らし破壊の道(13日)、「新しい資本主義」―経済のゆがみ広げる古い方針(16日)いずれも「赤旗」主張

2023年6月17日
【赤旗】6月13日<主張>軍拡財源法案―採決は平和と暮らし破壊の道
 自民、公明の与党は13日にも、軍拡財源法案の参院財政金融委員会での採決を狙っています。法案は、岸田文雄政権が昨年末に閣議決定した安保3文書に基づき、敵基地攻撃能力の保有など、今後5年間で43兆円にも上る大軍拡の財源確保に向け、「防衛力強化資金」を創設するものです。憲法の平和主義を踏みにじり、国民の暮らし破壊につながる法案の採決強行は許されません。
◆敵基地攻撃を日米一体で
 何より法案によって財源を確保しようとしている敵基地攻撃能力の保有そのものが大問題です。
 敵基地攻撃能力は、日本独自ではなく、他国領域へのミサイル攻撃を含む、米国の「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)の一翼を担い、米軍の指揮統制下で運用される危険が明らかになっています。
 安保3文書は、「統合防空ミサイル防衛」の強化をうたうとともに、敵基地攻撃について「日米が協力して対処」するとし、「情報収集を含め、日米共同でその能力をより効果的に発揮する協力態勢を構築する」と明記しています。
 本紙日曜版5月28日号が報じた防衛省内部文書は、敵基地攻撃での日米共同の「オペレーション」(作戦)として、攻撃目標の情報収集・分析、計画の立案、攻撃する目標の分担、実際の攻撃、戦果の評価という「サイクル」を繰り返すことを図示しています。
 自衛隊元幹部など専門家は、自衛隊には他国領域にある攻撃目標の情報を把握する能力がなく、米軍に頼るしかないのが実態だとし、そのため、自衛隊は攻撃に際し米軍の指揮統制を受けざるを得ないと指摘しています。政府は、敵基地攻撃は「必要最小限度の実力行使にとどまる」としていますが、米軍の判断で敵基地攻撃がエスカレートすれば、自衛隊も付き従うことになるのは明白です。相手国から反撃を受け、日本が深刻な被害を受けることも必至です。
 加えて、今回の軍拡財源法案をはじめ、岸田政権の大軍拡のための財源案は、将来にわたり国民に新たな負担を押し付けるものとして極めて重大です。
 同法案で創設される「防衛力強化資金」は、防衛省が複数年度にわたり自由に使えます。会計年度ごとに予算を作成し国会で審議する単年度主義=財政民主主義の破壊です。法案はまた、国立病院と社会保険病院など公的病院を運営する二つの機構の積立金を軍拡財源に回します。医療提供体制の強化や職員の待遇改善に使うべき資金の流用は認められません。
 岸田政権は昨年末、東日本大震災の復興特別所得税の課税期間を延長し軍事費に転用することを決めています。また歳出削減で財源をつくるとし、教育、中小企業、農業予算などが削られた上、社会保障予算のさらなる削減の恐れもあります。歳入・歳出の差額である決算剰余金も軍事費に充てるとしていますが、その元になる巨額の予備費は赤字国債が原資です。未来の世代にばく大な増税を強いることになりかねません。
◆平和の枠組みの発展こそ
 政府が今やるべきことは、東アジア地域の分断と対立を拡大し、際限のない軍拡競争を招く軍事力の強化ではありません。憲法9条を生かし、地域の全ての国を包摂する平和の枠組みを発展させる外交努力こそ必要です。

【赤旗】6月16日<主張>「新しい資本主義」―経済のゆがみ広げる古い方針
 岸田文雄政権で2度目となる「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)と「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」がきょうにも閣議決定されます。労働市場の流動化や大企業・富裕層支援といった新自由主義の政策が並んでいます。経済のゆがみをさらに広げる旧態依然の方針です。◆大企業のもうけを最優先
 実行計画案は、資本主義は新自由主義から「新しい資本主義」への転換を迎えていると述べています。新自由主義は格差の拡大や気候変動のような「弊害」を生んだが「成長の原動力の役割を果たした」と美化しています。
 新自由主義は、大企業や富裕層のもうけを最優先し、経済や社会を弱肉強食の市場原理にゆだねる思想です。大企業・金持ち減税が各国で長期間行われたため、税収の空洞化が世界的な問題になっています。社会保障の削減や非正規雇用の増加で格差と貧困が広がった結果、経済成長が停滞しました。日本は特に深刻です。
 「資本主義のバージョンアップ」と描かれているのは新自由主義から一歩も出ない政策です。
 実行計画案は「資本主義を超える制度は資本主義でしかあり得ない。主役はあくまでも民であり、市場である」と公言しています。「民」は国民ではなく民間大企業のことです。「官民連携」の名で、先端技術、デジタル化、AI(人工知能)など大企業の開発支援を一段と強めます。
 「労働市場改革」で狙うのは、大企業にとって安上がりで使い勝手のいい働かせ方を広げることです。導入を図る「職務給(ジョブ型人事)」には成果主義が持ち込まれています。賃下げや長時間労働につながる仕組みです。
 個人の金融投資を促進する「資産所得倍増プラン」は格差をさらに広げかねません。個人が保有する金融資産は総額2000兆円を超えています。半分以上が預貯金・現金で、株式、投資信託、債券は2割程度です。税制の優遇などで投資を倍増させる計画です。
 金融投資はいまでも税制で優遇され、富裕層が巨額の利益を得ています。所得が1億円を超えると税の負担率が下がる「1億円の壁」が大きな問題になっていますが、岸田氏が首相就任前に公約した「金融所得課税の強化」は完全に投げ捨てられています。
 超低金利が続いても預貯金の比率が高いのは年金、医療、介護が貧弱で、老後や不測の事態に備えなければならないからです。「家計所得の増大」を掲げるなら社会保障や教育を拡充すべきです。
◆新自由主義から転換を
 骨太原案は「国家安全保障戦略等に基づき、令和9年度までの5年間で防衛力を抜本的に強化する」「日米同盟の抑止力と対処力を強化する」として安保3文書を実行する43兆円の大軍拡の旗を振っています。巨額の軍事費は社会保障をはじめ暮らしを支える予算の削減と一体です。
 実行計画案も、米国を念頭に「普遍的価値を重視する国々」との「団結」を強調します。
 国民の暮らしと日本の平和を危うくする「新しい資本主義」に新しさはありません。米国言いなりで、大企業の利益を最優先させる新自由主義からの転換こそ、いま求められている新しい政治です。