納税者の権利 世界と日本(上)、(下)、経団連「財源は消費税で」少子化対策(いずれも「赤旗」)

2023年4月29日
【赤旗】4月27日 納税者の権利 世界と日本(上)―立命館大学教授望月爾さんに聞く―〝客〟として保護 最低基準
 日本には納税者の権利を保障する法律や制度がなく、人権を無視した強権的な税務調査や徴収が問題となっています。さらに今国会で、納税者が相互に行う税務相談に国が介入できる「税務相談停止命令制度」創設を盛り込んだ税理士法の改悪が自民、公明などの賛成多数で強行成立されました。納税者の権利保護をどう実現すべきか、世界の事情に詳しい、立命館大学法学部の望月爾(もちづき・ちか)教授(税法)に聞きました。(大串昌義)
 ▽世界各国の税務行政は、日本のように強権的な税務調査や徴収を行っているのでしょうか。
 以前はそうでした。1970年代オイルショックなどで経済状況が悪化する中、各国の財政がひっ迫し、徴税が強化されました。欧米でも強権的な税務調査や財産の差し押さえが社会問題になりました。米国では、ロジェスキー事件のような税務職員の職権乱用が議会で取り上げられました。
◆「サービス」提供
 それをふまえて80年代後半以降、欧米各国を中心に税務調査や徴収における納税者の権利を保障する納税者権利憲章の制定が進みました。憲章制定の動きは2000年代にかけて、アジア、中南米、アフリカ諸国に広がりました。
 それを受けて、税務行政は、権力的な作用から、納税者の自発的協力に基づき、納税者を「お客さま」と位置づけ、税に関する専門的な支援など「サーピス」を提供する方向に進んでいるのが世界の潮流です。
 米国は1988~98 年に第1~3次納税者権利保護章典を制定しました。税務行政を納税者サーピスにするために内国歳入庁(IRS、日本の国税庁に相当)の組織を抜本改革しました。2014年には「10 の権利」からなる新たな(第4次)納税者権利章典を公表し、翌15年に内国歳入法に法定しました。英国は1986年に納税者憲章を制定し、91年にお客様サービス方針を公表、2009年に新たな憲章を制定しその後も更新しています。韓国も1997年に納税者権利憲章を導入し、台湾は2016年に納税者権利保護法を制定しています。
 米国をはじめカナダや韓国などでは、税務当局から独立した納税者権利擁護官や納税者オンプズパーソンによる納税者の権利保護のための救済制度が整備されています。
 主要7カ国(G7)のうち日本とドイツだけが納税者権利憲章を持っていません。そのドイツも租税通則法(AO)に納税者の権利保護の諸規定がおかれています。
◆システムを構築
 ▽主要国で納税者権利憲章がないのは日本だけなのですね。国際機関は納税者の権利をどう保障していますか。
 経済協力開発機構(OECD)は1990年、「納税者の権利と義務」を報告書として公表しました。2003年には納税者権利憲章のモデルを含む実務指針を示し、米・英・豪・アフリカ諸国などの憲章に大きな影響を与えてきました。
 欧州連合(EU)では、EU各国の憲法や租税手続法、納税者権利憲章による保護に加え、司法機関による審査、納税者の権利保護を国際標準にする「EU納税者法のためのモデルのガイドライン」(16年)の公表などによって、国際的な納税者の権利保護のシステムが構築されています。
 国際学会の国際租税協会(IFA)は15 年のスイス・バーゼル総会の報告で、納税者権利憲章の制定を「最低基準」としています。
 15 年、国際的な税務専門家3 団体が共同で世界41 カ国の調査結果に基づき、「モデル納税者権利憲章」を公表しました。
 それに先立ち3団体のーつ、アジア・オセアニア・タックスコンサルタント協会(AOTCA)の大阪総会でモデル憲章の最終案が公表されました。総会を主催したのは、同団体の主要メンバーの日本税理士会連合会でしたが、その後このモデル憲章の話は一切聞きません。(つづく)

【赤旗】4月28日 納税者の権利 世界と日本(下)―憲章の制定は急務
 ▽日本で納税者権利憲章制定の動きはなかったのですか。
 2010年、民主党政権の時代に国税通則法の見直しに伴い、納税者権利憲章の制定に向けてその機運が盛り上がったことがありました。11年度「税制改正大綱」で、憲章の策定を含む通則法の見直しによる納税者の権利保護が強調されました。
◆進む国際的調和
 ところが、その後の与野覚協議により納税者の権利保護に露する一連の改正が見送られました。それ以来、憲章麓定の動きはありません。
 ▽日本政府は納税者の権利を認めようとしません。
 与党の政治家や官僚、専門家の一部に、「納税者の権利」に〝アレルギー〟があるようです。
 しかし世界の流れは、イデオロギーや政治的党派や立場の違いを超えて、税務行政は納税者サービスに移行しており、納税者権利憲章があることが当然となってきました。さらに納税者の権利保護の国際的調和・標準化が進みつつあります。
 多国籍企業による脱税や行き過ぎた租税回避に対して、国際的な税務行政の協力が求められるようになっています。そのような中で、各国が納税者の権利をどの程度保護しているかは、国際的な協力の重要な判断基準になっています。
 例えば、相手国と情報交換をする際、その国がデータ保護やプライバシー権、徴収手続きにおける納税者の権利を守らないと、自国の国民が権利を侵害される可能性があります。そうならないように、一定の納税者の権利保護の国際的な標準化、調和が進みつつあります。
◆置いていかれる
 一方、日本は納税者の権利を規定する法律や納税者権利憲章を持っていません。それでは今後、国際的な税務行政の協調路線から置いていかれる可能性があります。
 データ保護やプライバシー権の法整備もまだ途上です。各国の状況から、インボイス(適格請求書)制度の導入は、デジタル・インボイスへの移行につながり、税務当局が個別取引を把握できるようになります。インボイスデータによる納税者の集中管理や申告納税制度の空洞化が懸念されます。
 世界の税務行政の潮流は、税金を少しでも多く徴収することから、「お客様」である納税者の自発的協力に基づく「サービス」を提供する方向へ移っています。ここで日本が変わらなければ、納税者に信頼される新たな税務行政は実現できません。
 ▽遅れている日本の税務行政をどう変えるべきですか。
 納税者権利憲章の制定は急務です。権力的な税務行政を前提とする国税通則法や国税徴収法を改正し、納税者の権利を明記する必要があります。
 今国会で成立した「税務相談停止命令制度」は、納税者の自発的協力を支援する世界の税務行政の潮流に逆行しています。規制や罰則ではなく、世界の納税者の権利保護の動向を多くの人に正しく理解してもらい、日本の税務行政を草の根から変えていくことが重要です。(おわり)

【赤旗】4月28日 経団連「財源は消費税で」少子化対策
 経団連は26日、少子化対策を含めた社会保障の財源について、消費税も選択肢とすべきだとする提言を発表しました。
 消費税率の10%への引き上げが日本経済の活力を奪っているもとで、さらなる消費税増税は国民生活を破壊するものです。消費税は低所得者ほど負担が重くなり、経済丕女から結婚や出産をためらっ若い世代の実態からも乖離(かいり)するもので、本末転倒の提案です。
 社会保障の財源について提言は、社会保険料を「現役世代の稼働所得に偏って」いると指摘。所得税や法人税に対しては「景気変動の影響を直接受けやすく、税収の変動幅が大きい」と否定的に描きます。一方で消費税については「景気変動にも安定的であり、財源確保の安定性は相対的に高い」と評価。「消費税を含めたさまざまな税財源の組み合わせによる新たな負担も選択肢とすべき」だと強調しています。