株取引の低税率―富裕層優遇する不公平改めよ(「赤旗」主張)、税務相談停止命令―自主申告を弾圧納税者の権利侵害(浦野広明さん「赤旗日曜版」)

2023年3月25日
【赤旗】3月22日〈主張〉株取引の低税率―富裕層優遇する不公平改めよ
 岸田文雄政権は、消費税にインボイス(適格請求書)制度を導入して売上高の低い非課税業者に新たな負担を強いる一方、大資産家が優遇される税制には手をつけようとしません。年間所得が1億円を超すと所得税の負担率が下がってしまう「1億円の壁」が大きな問題になっています。税の不公平を正して富裕層に応分の負担を求め、暮らしを守る財源を確保することは、格差を是正するうえで待ったなしの課題です。
◆少なくとも欧米並みに
 「1億円の壁」の原因は、株式の売却益などの金融所得に課される税率が一律20%の分離課税になっていることにあります。
 富裕層では、株式の配当や土地や株式を譲渡して得た所得が多くを占めています。分離課税方式はこれらの金融所得を他の所得と分けて税金を計算します。高額所得者ほど、分離課税となる金融所得の割合が高いため、所得税の負担率が下がってしまうのです。
 欧米諸国と比べても日本の富裕層優遇は異常です。日本共産党の小池晃書記局長に財務省が示した国際比較によると、所得が上場企業の株譲渡益のみの夫婦子ども2人世帯にかかる税率と税額は、所得10億円の場合、米国で51・8%、4億9200万円(株の保有期間1年以下)です。短期間の株保有による譲渡益を、投機的な利益とみなして重く課税しています。
 またフランスでは30%、3億円、ドイツで26・4%、2億6307万円でした。日本は20・3%、2億270万円と著しく低くなっています。
 高額所得者の株譲渡益については、欧米諸国並みに30%以上の税率が適用されるようにすべきです。将来的には、勤労所得などと合算して課税する総合課税を検討する必要があります。
 株式配当については、少額の配当や低所得者を除いて、総合課税を義務づけ、富裕層の高額の配当には所得税・住民税の最高税率が適用されるよう改めなければなりません。
 岸田首相は就任前、「1億円の壁の打破」「金融所得課税の強化」を公約しましたが、政権に就いてからは、経団連など財界の抵抗を受けてすっかり腰砕けです。
 いま開かれている通常国会に政府が提出している「所得税法等の一部改定法案」では、所得が30億円を超える人に、一定の基準を設けて追加の税負担を求めるだけです。対象となるのはわずか200人程度です。所得50億円の人で2~3%負担が増えるだけといわれます。しかも施行は3年後です。不公平税制の是正にほど遠い内容です。
◆格差広げる税制でなく
 この法案では、少額投資非課税制度(NISA)の枠を大幅に拡大します。非課税限度額を1800万円に引き上げます。多額の投資ができる、所得の多い人はますます有利になります。多くの国民は投資の余力はなく、元本保証のある預貯金で資産を保有しています。
 預貯金を対象から外し、リスクのある投資だけを税で優遇する制度では国民の資産形成を支援することになりません。
 年金など社会保障を削減しながら、「貯蓄から投資へ」とあおる政府の姿勢では、格差をますます広げることにしかなりません。

【赤旗日曜版】3月19日 経済これって何? 税務相談停止命令―自主申告を弾圧納税者の権利侵害
 2023年度税制改定法案は、税理士法に「税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令」(以下命令制度)を規定しました。
 概要は、①財務大臣は、納税義務の適正な実現への重大な影響を防止するために、必要があると認めるときは、税理士等でない者に対し、税務相談の停止を命ずることができる。命令違反者は1 年以下の懲役または100万円以下の罰金②財務大臣は、命令を受けた者を3年間、インターネツトや官報で公告③税務署員は、命令に関して税務相談関係者を調査する。調査拒否または虚偽答弁は30 万円以下の罰金④24年4月1日施行ーというものです。
 戦前は賦課課税制度の下で、納税者は無権利でした。
 それは、①所得税の納税義務者は所得・扶養の内訳書を税務署へ毎年4月30日までに提出②無申告・虚偽の内訳書で所得税を免れると納税額の3倍の罰金③全国の税務署は連絡を取り合い、課税前に全力で内訳書を調査④税務署は納税者に「所得金額決定通知書」を送付、税額を各市区町村長に通知⑤各市区町村長は通知に基づき納税者に納付書を送り徴収する(税額は税務署が決める)―というものでした。
 1947年度税制改革は、日本国憲法の制定(46 年公布)に伴う税制の民主的改革として、所得税の総合課税による申告納税制度(同時に法人税・相続税も)の採用が中心でした。
 申告納税制度は納税者が納付税額を確定させます(国税通則法16条)。ところが、給与所得者は源泉徴収・年末調整制度が強制され申告ができません。源泉徴収制度は戦費調達のため1940年に創設されました。42年には戦費調達の職業として、税務代理士法(51年廃止)ができました。
 現行の税理士は、他人の求めに応じ、租税に関する事務を行う職業です(税理士法2条1項)。納税者の自主的な団体は「他人の求めに応じ、租税に関する事務」を行うのではなく、会員の営業と生活を守る運動をしています。これらの団体は税金に関する自主的な活動をしており、財務大臣命令の「税務相談」とはまったく無関係です。
 停止命令の重要な論点は「乱用の必然性」です。乱用の必然性は、一つは法案そのものが乱用を予定してつくられている点から、もうーつは現行の税務行政が「強きを助け弱きをくじく」実態から論証できます。
 憲法21条は「笑本、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と規定しています。
 命令制度は結社の自由などを無視し、納税者団体を検閲するものであり、岸田自公政権が進める大軍拡・大増税やインボイス導入と立場を同じくしています。自主申告運動への弾圧と同時に、税理士自体を徴税の下請化する危険性もはらんでいます。 浦野広明(うらのひろあき立正大学法制研究所特別研究員・税理士)