安保転換と原発回帰 歴史の教訓、忘却の先に(「東京」)、メディア幹部 大軍拡後押し(「赤旗」)、「新しい資本主義」―経済のゆがみをまず直視せよ(「赤旗」)
2023年1月28日
【東京新聞】1月23日<社説>安保転換と原発回帰 歴史の教訓、忘却の先に
昨年十二月、岸田文雄首相=写真=は安全保障や原発を巡る政策転換に踏み切りました。国際情勢の変化、脱炭素の要請とエネルギー危機に対応するためとしていますが、戦争や原発事故という歴史の教訓を忘れてはなりません。
新年早々、林芳正外相と浜田靖一防衛相に続き、首相がワシントンを訪問しました。新たな国家安保戦略に敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛予算「倍増」を明記したことを伝え、米政権から支持を取り付けるためです。
米側は「同盟の抑止力を強化する重要な進化」と支持。バイデン大統領は首相の「果敢なリーダーシップを称賛」したそうです。
日米の首脳や閣僚同士が結束を固める背景には、軍事的台頭著しい中国やミサイル発射を繰り返す北朝鮮、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの警戒感があります。
日米など民主主義国が協調して対処する必要があるとしても、日本の対応には限界があります。
◆敵基地攻撃という威嚇
憲法九条はこう定めます。
《日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又(また)は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する》
戦後日本は「軍隊」を持たず、日米安保条約で米軍の日本駐留を認める道を選びました。その後、必要最小限の自衛力として発足した自衛隊は専守防衛の「盾」に徹し、攻撃力の「矛」は米軍に委ねる役割分担が定着しました。
これを根本から変え、自衛隊も攻撃力を持ち、米軍の役割を一部肩代わりするのが、敵基地攻撃能力の保有です。政府は、日本攻撃を思いとどまらせる「抑止力」を高め、結果的に日本の平和と安全が維持できる、と説明します。
安倍晋三内閣当時の二〇一四年に憲法が禁じてきた「集団的自衛権の行使」が内閣の一存で容認され、翌年の安保関連法成立の強行で、外国同士の戦争への参加が法的には可能になっています。
その上、自衛隊が、海を越えて外国の領域にある施設を攻撃できる装備を実際に持てば、地域の軍拡競争の火に油を注ぎ、逆に情勢が不安定化する「安全保障のジレンマ」に陥るのは必至です。
そもそも、そうした攻撃的兵器を大量に備えることは憲法九条が禁じる「武力による威嚇」にほかなりません。歴代内閣も「憲法の趣旨でない」としてきました。
日本周辺で衝突が起き、日本も参戦すれば損害は甚大です。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は中国の台湾侵攻に日米が参戦した場合、日米は艦艇数十隻や航空機数百機を失うほか人的被害も数千人に上ると報告します。民間被害も不可避です。
戦争をしない、他国に軍事的脅威を与えるような国にならないという戦後日本の「平和国家としての歩み」は、国内外に多大な犠牲を強いた先の戦争への反省に基づく誓いそのものです。そうした安保政策を根本から転換した岸田首相には、過ちの歴史で得た教訓と誠実に向き合う姿勢が感じられません。歴史への冒涜(ぼうとく)です。
◆「死亡事故なし」の虚言
原発への回帰も同様です。
岸田内閣は六十年としてきた原発運転期間の延長を認めました。政府は福島第一原発事故後「新増設や建て替えは想定していない」と繰り返してきましたが、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組むともしています。
事故が起きれば収束が困難で、多くの人から故郷を奪い続ける原発は、徐々に依存度を下げ、廃止することが歴史の教訓です。
再稼働にとどまらず、老朽原発を延命し、将来の新増設まで視野に入れるとは、過酷な事故を忘れているとしか思えません。
自民党の麻生太郎副総裁は講演で「原発は危ないというが、死亡事故が起きた例はゼロだ」と強調しましたが、実際には死者は出ています。首相経験者が事実を曲げてでも原発を推し進める。日本の指導層はいつからそんな恥知らずになってしまったのでしょう。
ドイツの宰相ビスマルクの格言に「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」があります。愚かなる者は歴史から学ばず、自らの経験にしか学ばないとの意味です。
戦争や原発事故を再び経験しないと学ばないのか。でも起きたら取り返しがつかない。歴史の教訓を忘れた先にあるのは破局です。きょうから始まる通常国会が、先人たちが残した教訓をいま一度思い起こす場となるよう願います。
【赤旗】1月26日 メディア幹部 大軍拡後押し―“軍事力強化で世論誘導を”―「有識者会議」議事録公開
政府は24日、安保3文書改定に向けた「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の議事録を公開しました。委員に名を連ねているメディア幹部・元幹部がいずれも、歴代政権が違憲としてきた敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や軍事費増額のための増税を当然視し、さらなる軍事力強化・国家総動員体制を主張していたことが判明しました。
読売新聞グループ本社の山口寿一社長は、初会合で「岸田総理は防衛力の抜本的強化という歴史的な決断をされた」と称賛。第2回会合では、敵基地攻撃能力の保有を当然視した上で、米国製の巡航ミサイル・トマホークを念頭に「当面は外国製ミサイル購入も検討対象になる」と発言しました。「外国製ミサイル」購入を主張したのは山口氏だけです。
日本経済新聞社の喜多恒雄顧問は、増税を念頭に、軍拡の財源について「国民全体で負担するのが必要だ」と強調しました。また、軍需産業の育成を主張。武器輸出の制約を取り除き、「民間企業が防衛分野に積極的に投資する環境が必要だ」と述べました。
元朝日新聞主筆の船橋洋一氏は、日米共同で敵基地攻撃能力を強化するために基地の日米共同使用を促進すべきだとし、「特に南西諸島と先島での共同使用態勢を整えるべきだ」と主張。財源について「所得税の引き上げも視野に入れるべきだ」と強調しました。
重大なのは、「読売」の山口氏が、最終回となる第4回会合で、「メディアにも防衛力強化の必要性について理解が広がるようにする責任がある」と、軍拡を容認する世論づくりをする決意を表明したことです。
戦後の新聞は侵略戦争推進の過ちの反省からスタートしました。しかし、この反省を忘れ去り、再び戦争推進の過ちを繰り返そうとしています。
「有識者会議」は昨年9~11月に計4回実施され、11月22日、敵基地攻撃能力の保有や公共インフラ、科学技術など国力のあらゆる分野の軍事動員などを盛り込んだ報告書を政府に提出しました。
【赤旗】1月25日<主張>「新しい資本主義」―経済のゆがみをまず直視せよ
岸田文雄首相は施政方針演説で昨年に続き「新しい資本主義」を掲げました。新自由主義の弊害についての記述がなくなり、中国、ロシアを念頭に、経済でも対決に勝つことが前面に据えられました。「権威主義的国家からの挑戦に直面する中で、市場に任せるだけでなく、官と民が連携し、国家間の競争に勝ち抜くための、経済モデル」が世界で求められていると言います。世界を敵と味方に分け、相手を排除することで得られるものは何もありません。
◆矛盾さらに広げる大軍拡
昨年の施政方針演説では「市場に依存しすぎたことで、公平な分配が行われず生じた」として格差、貧困など「新自由主義的な考え方が生んだ、さまざまな弊害」の克服を主張しました。
ことしの演説で格差には一言触れただけです。力説したのは「重要物資や重要技術を守り、強靱(きょうじん)なサプライチェーンを維持する経済モデル」です。昨年、成立させた経済安保法の柱が「新しい資本主義」の中心となりました。
米中の覇権争いの中で日本が米国と一体となり、中国との競争に勝つために、政府が大企業を支援したり、統制したりするのが経済安保法です。
重要物資・技術の保護については、施政方針演説とほぼ同じ文言が13日の日米首脳会談の共同声明に盛り込まれています。米国に対する公約です。
「市場に任せず」といっても国民の暮らしや労働者の権利を守るために大企業を規制するわけではありません。経済安保のための国家による介入です。
対決と排除の経済モデルは、すでに深刻化している日本経済のゆがみをさらに拡大させます。最大の貿易相手である中国を経済的に排除しようとしても、打撃を受けるのは日本の経済と国民の暮らしです。
中国の覇権主義的行動を正面から批判しつつ、中国を含む平和の枠組みをアジアに築く外交に転換することこそ喫緊の課題です。岸田政権が進める大軍拡はアジアの緊張を高め、日本経済の発展を妨げます。
施政方針演説は経済安保を強調する一方、国民が最も切実に求めている物価対策や賃上げにはおざなりです。具体策もありません。
「国家間の競争に勝ち抜く」と言いますが、国際競争に勝つとの名目で1980年代以降、日本企業の海外移転が進み、賃上げは抑えられました。
アベノミクスは金融頼みで円安・株高をつくり出し、内需と実体経済をさらに落ち込ませました。2022年の貿易赤字は過去最大です。かつて輸出で巨額の貿易黒字をあげた日本経済はいまや製造業の衰退が言われるほどです。
◆アベノミクスへの反省を
施政方針演説はイノベーションやスタートアップの育成を成長戦略の柱としますが、日本経済の構造的なゆがみを正すことなくして「成長しない国」から抜け出すことは不可能です。
大企業がため込んだ内部留保を賃上げにどう活用させるのか。円安・物価高を加速させた「異次元の金融緩和」の出口戦略をどうするのか。首相が一言も触れなかった問題こそ直視すべきです。10年間のアベノミクスへの反省がまず必要です。