岸田首相「所得倍増」の掛け声はどこへ? 大増税&社会保険料負担増で「これじゃ所得倍減」の指摘(マネ―ポストWEB)、トマホーク―手土産に買うのは誰か(「東京」)、日本経済―弱肉強食のゆがみ正してこそ(「赤旗」)

2023年1月7日
【マネーポストWEB】1月2日 岸田首相「所得倍増」の掛け声はどこへ? 大増税&社会保険料負担増で「これじゃ所得倍減」の指摘
 岸田内閣の支持率が急落している。一部メディアでは20%台の危険水域に突入した。その主たる要因は、防衛費増額のうちの1兆円分の財源を岸田文雄・首相が「増税」によって賄うと打ち出した点にあるだろう。国民が物価高に苦しむなかで負担増につながる施策が相次ぎ、“話が違う”という声があがっている。
 2021年秋の自民党総裁選に立候補した岸田氏はもともと、「所得倍増」を掲げていた。「中間層の拡大に向けて分配機能を強化し、所得を広げる。令和版の所得倍増を目指す」とぶち上げ、自身が領袖を務める派閥「宏池会」を立ち上げた池田勇人首相の所得倍増計画に重ねるようにしてアピールしたのは岸田氏自身であった。
 しかし、昨年末の与党税制改正大綱では防衛費増額の財源を確保するために、所得税やたばこ税、法人税の増税の方針が打ち出された。自民党内からの反発があって増税の時期こそ明記されなかったものの、なし崩し的に増税の方針が既定路線となった。さらには相続・贈与税の課税強化の方針も盛り込まれ、ウクライナ戦争や米国の利上げなどによる急激な物価高に苦しむ国民にとっては、負担増の話ばかりが聞こえてくる状況だ。
 経済ジャーナリスト・荻原博子氏は「まさに大増税時代の到来ですが、負担が増すのは税金ばかりではありません」と指摘する。
 「社会保険料の引き上げも続いています。2022年10月から雇用保険料が上がりました。新型コロナによる影響で失業した人たちの失業保険の利用が増えたこともあり、保険料が引き上げられた。これについてはさらに上がるかもしれないという声が出ている。国民年金も、現在は20歳から60歳まで40年間保険料を払えばよかったのが、65歳までへと5年延びることが議論されている。月1万6590円の保険料を5年払うとなれば、100万円の負担が増えます。介護保険も保険料が上がるという話が出てきて、お先真っ暗という感じですよね」(荻原氏)
 岸田氏は首相就任に先立って高度経済成長期になぞらえるような景気のいい「所得倍増」を唱えていたが、現実には賃金上昇を上回るスピードで物価上昇が続いている状況で、実質賃金は下がっている。そのうえ、給料から天引きされる税金や社会保険料がどんどんが上がっては手取りが減っていくばかりだ。たとえば、雇用保険の料率を見ると、2022年10月から一般事業の場合、0.3%が0.5%(労働者負担分)になっており、天引きなどの負担額が“倍近くに増える”のだ。荻原氏が続ける。
 「これでは所得倍増どころか税金や保険料の天引きばかり増えて『所得倍減』です。はっきりいって人災ですよ」
 所得が増えるどころか、減る分が倍になっていく──。これは「所得倍減」と言ったほうがしっくりくるようだ。総裁選や所信表明演説で使われた「令和版所得倍増計画」は、いつの間にか「資産所得倍増計画」へと変わり、NISA(少額投資非課税制度)の拡充などが打ち出されたが、“話が違う”と感じている人は、決して少なくないのではないか。(了)
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【東京新聞】1月6日<視点>米国製トマホーク―手土産に買うのは誰か―私はこう見る=斉場保伸(経済部長)
 バタバタと憲法に基づく「専守防衛」の姿を閣議決定で塗り替えて、防衛費増額の根拠となる増税の方針を決めた二〇二二年が去り、二三年が明けた。岸田文雄首相は、バイデン米大統領との日米首脳会談を十三日にワシントンで行う。「端的に申し上げれば、戦闘機やミサイルを購入すること」と年末の記者会見で述べた首相には、バイデン氏への「手土産」がいっぱいだ。
 昨年五月に東京で開かれた日米首脳会談。首相はバイデン氏に敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を含め「あらゆる選択肢を検討する」、防衛費は「相当な増額を確保する」と述べ、バイデン氏から「強く支持する」との言葉を取り付けた。 
 昨年末に日本政府が閣議決定した「防衛力整備計画」を見てみよう。敵のミサイル基地などに打撃を加える敵基地攻撃能力として米国製巡航ミサイル「トマホーク」を導入することが明記されている。トマホーク購入のために二三年度当初予算では二千百十三億円を計上した。射程は千六百㌔。過去には実践で先制攻撃にも使われた実績がある武器だ。
 急激な物価上昇に苦しむ米国。中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)はその勢いをなんとか冷やそうと、教科書に書いてあるような政策金利の引き上げ(利上げ)を繰り返してきた。これが効いてくるため、物価上昇は抑制されるが、その一方で、今年半ばには米国経済の成長にブレーキがかかってくるという見立てが大勢だ。
 バイデン政権にとって、陰りつつある景気の下支えには製造業の勢いを維持すること避けられない。「米国製トマホーク」の購入という首相の手土産は。製造業の労働者から支持を取り付けたいバイデン氏の憂いにも刺さる絶妙なタイミングと言える。
 しかし、この手土産代を出すのは誰なのか。
 防衛費増額分の財源は、与党がまとめた二三年度税制改正大綱によれば、法人税と所得税、たばこ税の税率を二四年度以降、段階的に引き上げ、二七年度に年一兆円強を確保することを盛り込んだ。
 所得税、たばこ税は個人に負担を求めることはいうまでもない。一方、経済界からは、法人税に偏っている、と批判の声が噴出した。
 このタイミングで春闘が本格化する。昨年から続く物価高は、さらに今年も勢いを増すとの見通しが濃厚だ。今春闘の最大の焦点は、この生活必需品を中心に起きている物価上昇を家計が受け止めきれるような賃上げが行われるかどうかだ。
 仮に企業が法人税として負う負担の矛先を従業員の賃上げの抑制に向けるとすれば、間接的とはいえ、個人に負担が生じるのは避けられない。ただでさえ苦しい消費者は納得のいく説明のないまま、手土産のお金を出すことを認めるだろうか。

【赤旗】1月7日<主張>2023年の日本経済―弱肉強食のゆがみ正してこそ
 2023年は世界的に景気後退が予測されています。米国では大手IT(情報技術)企業がリストラを打ち出し、労働者を犠牲にする動きが強まっています。米国・中国経済の減速による影響が懸念されます。日本では経済の長期低迷の上に、40年ぶりの大幅な物価高騰が暮らしを一段と悪化させています。6日に公表された22年11月の実質賃金は前年同月比3・8%減と、消費税を8%に増税した後の14年5月以来、8年半ぶりの大きな落ち込みとなりました。賃上げは待ったなしです。新自由主義とアベノミクスがもたらした、ゆがみを正す改革が急務です。
◆破綻したトリクルダウン
 「この30年間、企業収益が伸びても、期待されたほどに賃金は伸びず、想定されたトリクルダウンは起きなかった」。岸田文雄首相は4日の記者会見で人ごとのように、こう述べました。
 大企業が利益を増やせば経済の好循環が生まれ、庶民にしたたり落ちるという考えがトリクルダウンです。安倍晋三政権は法人税減税や株価つり上げ政策で、それ以前の自民党・公明党政権にも増して大企業優遇を推し進めました。
 同政権下で閣僚や自民党役員としてアベノミクスを推進し、首相就任後も継承したのが岸田氏です。日本を「成長しない国」「賃金が上がらない国」にした当事者として責任は免れません。
 アベノミクスの「異次元の金融緩和」は、円安・物価高で国民を苦しめるとともに、日本経済を弱体化させました。大企業は、円換算で増えた海外子会社の利益によって収益を増やしましたが、国内生産は衰退し、貿易赤字が定着しました。
 個人消費を中心に内需を活発にしてこそ経済を立て直すことができます。言葉の上では岸田首相も「賃上げ」を強調しますが、政府として、なすべきことをしていないことが問題です。
 1年間働いたのに賃金が年間200万円以下のワーキングプア(働く貧困層)は10年以上にわたって1000万人を超えています。最低賃金の引き上げは一刻を争う課題です。全国どこでも時給1500円以上の最賃実現に政府が責任を果たすべきです。
 昨年、ついに500兆円を超えた大企業の内部留保に時限的に課税し、大企業に賃上げを促すとともに、その税収を財源として中小企業の賃上げを抜本的に支援する必要があります。
 低賃金の非正規雇用を増やしてきた労働法制の規制緩和をやめ、正社員が当たり前となる雇用のルールを築くことも不可欠です。
◆暮らし、権利守る運動を
 コロナ危機が日本で本格化して間もなく3年が過ぎようとしています。格差と貧困が深刻化する中で、新自由主義に対する批判がかつてなく強まっています。新自由主義は、大企業のもうけのために市場の原理を何よりも優先させる弱肉強食の経済思想です。大企業を中心とする政治の転換が求められています。
 今年は08年のリーマン・ショックから15年、異常な物価高を招いた第1次石油危機から50年となります。経済危機のたびに労働者、国民は新しいたたかいを起こし、暮らしと権利を守ってきました。経済や社会の変革に踏み出す年にしようではありませんか。