円安時代④、⑤。大企業の利益史上最高に(いずれも「赤旗」)

2022年11月6日
【赤旗】11月1日 円安時代④―所得低下し将来不安
 大企業と富裕層を優遇してきた自民・公明政権の税・財政政策が製造業の空洞化を促進し、自国窮乏化をさらにひどくしています。
◆大企業の税逃れ
 そのーつは麻生太郎政権が2009年度「税制改正」で導入した海外子会社配当益金不算入という制度です。これは日本の企業が海外にもつ子会社から受け取る配当金のうち95%相当額を非課税とするもの。子会社のある国と日本での「二重課税」を防ぎ、海外でのもっけを日本に還流させるとの触れ込みでした。
 しかし、外資を呼び込んで経済を成長させよつとする国の多くが低税率の特区などを設定しています。それらを利用すれば天「社のある国でも日本でもほとんど課税されない「二重非課税」を実現できるため、同制度は大企業の海外展開と税逃れを促進する役割を果たしてきました。
 TPP(環太平洋連携協定)やEPA(経済連携協定)などの「自由貿易投資協定」も製造業の空洞化を推し進めました。これらの協定は、関税を引き下げて外国製商品を日本に輸入しやすくさせるとともに、多国籍企業にとって好都合な投資ルールを確立して海外展開を容易にするものでした。電機産業などの海外移転が進んで国内製造業は弱体化し、家電製品などの輸入依存度が高まっています。
◆再分配機能破壊
 さらに、国内で大企業のコストを削減するために国民の負担を増やし、税と社会保障による所得再分配機能を壊したのがアベノミクスでした。
 とりわけ、14年4月と19年10月に安倍晋三政権が強行した消費税増税は低所得者ほど重い負担を課すものでした。一方で大企業には法人税減税をばらまきました。所得税でも、富裕層に有利な不労所得(利子・配当・株式譲渡所得など)の分離・優遇課税を温存しました。その結果、消費税は法人税や所得税を抜いて最大の税収源となっています。 
 社会保険料負担も増加させ、国民の可処分所得を減らしました。直接税(所得税や住民税)と社会保険料を合わせた「非消費支出」が勤労世帯の実収入に占める割合は、2000年代まで15%程度だったのに、12 年以降、18%を超えて推移しています。 
 社会保障分野では、年金支給額の削減、医療・介護の自己負担増、生活保護費の引き下げなどの負担増・給付減を繰り返しました。大企業の税・社会保険料負担を抑制するねらいです。社会保障改悪は国民の実質可処分所得を低下させるだけでなく、将来不安を増幅し、内需をいっそう冷え込ませています。
 SBI生命保険が20~60代を対象に行った2019年のアンケート調査では、将来不安の1位は「病気」、5位は「年金」、6位は「介護」でした。将来不安解消のためにとりたい手段のトップは「貯金」でした。(つづく)

【赤旗】11月2日 円安時代⑤―内需産業再建がカギ
 製造業が空洞化して貿易赤字が膨らみ、賃金が伸びない中で円安と物価高騰が進み、生活水準が低下して内需産業が縮小する―アベノミクスの失政で日本経済の構造的弱点が増幅されています。
◆内部留保が増加
 日本の自国窮乏化は統計にあらわれています。大企業が海外生産などで利益を上げ、配当を増やしても、国内に有力な投資先がないため内部留保ばかりが増加しています。国内事業が拡大しないため、労働者に還元されません。主要国の中で日本だけが賃金の伸びない異常な国になってしまっています。 
 そこへ物価高騰が追い打ちをかけています。安倍晋三政権は14年4月と19年10月に消費税増税を強行しました。加えて「異次元の金融緩和」で円安が加速し、物価高騰をもたらしています。賃金が低迷するもとでの物価高騰は実質賃金の大幅な低下をもたらします。21年は年384・4万円と、ピーク時の1996 年からは60万円、2012年と比較しても20万円も減少しました。 
 日本経済を支えているのは国内総生産(GDP)の半分以上を占める個人消費です。可処分所得のうち、消費支出に回す「消費性向」は所得の低い世帯ほど高い傾向があります。消費税増税は低所得者層ほど重い負担を与え、景気の悪循環をもたらしました。世界の主要国の中で日本だけがGDPが伸びない、経済成長できない国になってしまっているのです。 
 中央大学の村上研一教授は、輸出大企業を支援するという従来型の成長戦略の転換が必要だと話します。
◆成長戦略は破綻
 「日本の経済大国化は輸出依存型だったので、輸出大企業が賃下げと円安を求めるとい「っ構造でした。低賃金・超過密労働に依存した大企業が欧米諸国に集中豪雨的に輸出し、食料やエネルギーを輸
入するための外貨を稼ぐという戦略です。しかし、製造業の海外移転で輸出が伸びなくなり、この成長戦略は破綻しています」
 力を入れるべきは、輸出産業の振興ではなく、内需産業の再建だといいます。
 「内需を高めるためには賃金を引き上げて税と社会保障による所得再分配を強化し、国民の生活を豊かにしなければなりません。ただし、それだけでは輸入が増えて物価高を悪化させる恐れがあります。安定的な国内供給力を形成するための産業政策が不可欠です。最大の輸入品目は鉱物性燃料と食料ですから、再生可能エネルギーと農林漁業への支援を抜本的に強め、地域を軸とした経済循環を形成するべきです」(おわり)

【赤旗日曜版】11月10日 大企業の利益史上最高に
 大企業の今年3月期の純利益が史上最高益と報道されています。円安による輸出増、海外でのも「つけが円換算で増えた企業、世界的な資源価格や輸送価格の上昇の恩恵を受けた石油会社や海運会社、商社などがあります。国民の暮らしや中小企業の営業に苦しさを与える円安と物価高が、大企業の利益にはプラスとなっています。
 史上最高益を上げている大企業・利益上位20社の税負担の実態を分析しました。
 各社の有価証券報告書から、①税引き前純利益の金額②法人3 税の金額(その会社の納税した法人税、法人住民税、法人事業税)③法定実効税率(その会社が公表した法定負担率)④実際の税負担率(②÷①)―明らかにしました。
 税負担率は、本来ならば、ほぼ法定実効税率と同じになるはずです。しかし、実質負担率が法定実効税率を大きく下回っている会社が多いのは、大企業優遇税制によるばく大な減税があるためです。平均の法定実効税率は30・4%であるのに、実質負担率の平均18・0%です。
 有価証券報告書から個別企業の減税額を推定すると、①トョタ自動車=受取配当益金不算入(子会社などからの受取配当金を利益から除く減税、以下受配という)2367億円、試験研究費の税額控除(研究開発費の2~14%を法人税額から差し引く減税)608億円②本田技研工業=受配1768億円③伊藤忠商事=受配3430億円④三菱商事≒受配1399億円―というように巨額の減税があります。
 「日経」(8月20日付)が「繰り返す法人税ゼロ」の見出しで、ソフトバンクG(通信会社ソフトバンクの持ち株会社)が21年3月期の決算で1兆4538億円の利益を上げながら、法人税がゼロだったことを報道しています。原因は受配4863億円の減税です。財務省出身の識者も「適法でも兆円単位の利益のあ
る会社が何生も法人税額がゼロなのは違和感がある。制度に問題がないか検討すべきだ」とコメントしています。
 アメリカやョーロッパでは大企業の税負担の軽さが問題視され、納税情報を透明化する制度づくりが進んでいます。日本でも、大企業の軽い税負担が報道されるようになっています。
 日本国憲法の言う税金の「応能負担原則」に従って、大きな利益を上げた大企業は相応の税負担をするように、法人税の不公平をただすことが必要です。大企業優遇税制を廃止し、法人税にも累進税率を導入すれば、19兆円余(20年度)の財源が生み出せます。
           菅隆徳(すが・たかのり税理士、不公平な税制をただす会共同代表)