補助金や給付金よ税の方が効果的(第一生命経済研究所レポート)、安倍氏―アベノミクス破綻に反省なし(「赤旗」)、ウクライナ危機と経済(「赤旗」

2022年5月14日
【Economic Trends】5月10日 需要喚起を優先すれば、補助金や給付金より減税の方が効果的
《要旨―PDF》
● 政府はウクライナ戦争に伴う物価高に対する支援などを掲げた緊急経済対策を決めたが、政策効果が未知数の事業や不公平感が強い支援も混じったものになっている印象。
● エコノミストコンセンサス通りにGDPが推移した場合のGDPギャップを試算すると、2024年1-3月期時点でのGDPギャップは▲1兆円まで縮小することになる。しかし、内閣府のGDPギャップと消費者物価の関係によれば、2%インフレ目標を達成するためには、GDPギャップは+15兆円の需要超過になることが必要と推定される。したがって、インフレ目標達成のために必要な需要額は、GDPギャップを埋めるため必要な1兆円に加え、+2%の超過需要を発生させるための+15兆円を加えた 16兆円以上が必要となる。
● 内閣府の最新マクロ計量モデルを基に、各種財政政策の乗数を比較した結果から純粋に考えれば、もらえる人とそうではない人との不公平感が高い給付金や補助金よりも、使った人が恩恵を受ける減税の方が需要喚起の効果が高いことになる。このため、特に物価高対策という意味では、ウクライナ戦争で物価高を余儀なくされる生活必需品の価格を抑制する消費税の軽減税率引き下げが効果的。
● 原油価格高騰への対応では1㍑当たり最大 25円の石油元売りへの補助金について上限を引き上げ、4月末の期限も延長することになったが、この対策も給付金同様に需要喚起の効果は未知数。消費者ではなく元売りに補助金を出す仕組みになるため、ガソリンの小売価格がそのまま下がるとは限らない。
● 小売価格値下げ=需要喚起効果をより高めるには、現在凍結されている減税措置「トリガー条項」を活用した方が効果的。トリガー条項発動の効果を考えると、地方経済活性化策としても期待される。今年度の経済対策は2段階での実施が見込まれ、今回の物価高に伴う総合緊急対策はその第1弾に当たることを考えれば、引き続き凍結解除を検討すべき。
  (第一生命経済研究所 経済調査部―筆者は永濱 利廣氏)

【赤旗】5月14日 <主張>安倍氏日銀発言―アベノミクス破綻に反省なし
 安倍晋三元首相が「日本銀行は政府の子会社」と述べて国債を大量に買わせてもいいと発言したことが批判を浴びています。アベノミクス(安倍政権の経済政策)の破綻に開き直り、財政と金融のルールを踏みにじった暴論です。
◆本音あらわれた「子会社」
 言うまでもなく日銀は紙幣を発行する中央銀行です。通貨の発行や金融の調整にあたって「物価の安定」を図ることが日銀法で定められています。政策を誤ってインフレなどを招けば、被害を受けるのは国民です。政権の思惑に金融政策が左右されることのないよう、日銀の「自主性」の尊重が同法に明記されています。
 それを踏みにじり、日銀を自分の意のままに動かせる機関と扱ってきたのが安倍氏です。「子会社」は本音のあらわれです。安倍氏が導入した政策は岸田文雄政権も継承しており、元首相の発言と見過ごすわけにはいきません。
 安倍氏は第2次政権発足前、「輪転機をグルグル回して無制限にお札を刷る」「建設国債を日銀に全部買ってもらう」と公言しました。
 首相就任後は「大胆な金融政策」をアベノミクスの「第1の柱」に位置づけました。異常な金融緩和の導入に抵抗を示していた白川方明(まさあき)日銀総裁を任期満了前の退任に追い込み、黒田東彦(はるひこ)氏を総裁につけて「異次元の金融緩和」を実行させました。
 日銀が「2%の物価上昇」を目標に、国債を大規模に買い入れてお金の供給を増やせば、物価が上がり、それに伴って賃金も上がり、「経済の好循環」が生まれるということでした。
 実際に起きたのは「好循環」ではなく格差の拡大でした。日銀が供給した大量のお金は株式市場に流れ込み、株価は2倍に上がりました。恩恵を受けたのは大企業と富裕層です。その一方、実質賃金は低下しました。
 日銀を株価つり上げの道具に使ったことは国民に多大な被害をもたらしています。大規模な金融緩和は円安を加速し、物価を押し上げて国民を苦しめています。いま総合指数では1・2%(3月)の上昇ですが、生鮮食品やエネルギーは2桁の高騰です。
 そもそも日銀に国の借金である国債を引き受けさせることは財政法第5条で禁じられています。日銀は、直接の国債引き受けではなく、金融政策の手段として市場から国債を買い入れているとして正当化しています。しかしこれほど大規模な国債購入は事実上、財政赤字の穴埋めです。
 日銀が保有する国債は500兆円を超え、国の借金のほぼ半分です。日銀が大量の国債を抱えることについては、資産価格が下落した場合に財政、金融の信認が損なわれる危険性などが経済、金融専門家から警告されています。
◆異次元緩和を転換せよ
 黒田総裁は異次元緩和を見直すどころか緩和の「出口」を議論することすら拒んでいます。異次元緩和は安倍氏が日銀を「子会社」扱いして始めた政策です。政府が転換に責任を持ち、実体経済の回復に力を尽くすべきです。
 日本共産党は当初から異次元緩和の危険性を指摘し、無謀な政策に反対してきました。間違った金融政策をただす上でも7月の参議院選挙での審判が重要です。

【赤旗】5月11日 ウクライナ危機―目でみる経済
 ウクライナ危機のもとで進行する原材料価格の高騰を販売価格に転嫁できない業者が苦境に立たされています。原材料の高騰は、ロシアによるウクライナ侵略によって麦類や植物油、原油、天然ガス、金属などの供給不安が生じているためです。
◆輸入価格は上昇
 天候要因や新型コロナウイルスの感染状況などで世界の商品市場の需給均衡が崩れており、原材料価格は高値傾向でした。さらに、日本が原材料の多くを輸入に頼っているために、円安の進行で輸入価格はいっそう上昇。企業物価指数は3月、前年同月比9・5%増と大幅に上昇しています。
 中小呑曇未団体中央会の中小企業月次景況調査(3月分)では、原材料価格高騰の価格への転嫁が困難だとの声が目立ちました。
「昨年1 年間で5割超の値上げがあった鋼材は、いまだに多くの組合員が満足に価格転嫁できないなかでの再度の値上げは、収益を圧迫し企業の存続を危うくする恐れがある」(埼玉県/鉄骨工事業)
「原材料価格の上昇により、仕入価格が上昇しているとの組合員からの声は多い。また、価格転嫁の交渉を行っているが、なかな
か進んでいない」(鹿児島県/卸団地)
 民間信用調査会社の帝国データバンクの景気動向調査(4月)も同様の傾向です。とりわけ、仕入単価DI は51業種中28 業種で過去最高を記録しました。逆に、堅冗単価DI が過去最高を記録したのは17 業種にとどまります。業者からは、「資材高騰や景況感の悪化で案件の減少、取り止めもみられ、採算を確保できる案件がなくなった」(建築工事)、「物流量は回復がみられるが、燃料の高騰により収益があがらない」(特別積み合わせ貨物運送)、などの声が寄せられています。
 帝国データは今後1年程度の国内景気について、「ロシア・ウクライナ情勢の行方や原油・原材料価格の高止まり、急速な円安の進行など下振れリスクが懸念材料となろう」と指摘しています。
 また、仕入単価DIから墜冗単価DI を引いた値は「疑似交易条件DI」といわれ、数値が大きいほど価格転嫁できていないことを示します。疑似交易条件DIは2021年12月以降、7カ月連続で10を超えて上がり続け、4月は14・7でした。
◆中小経営を直撃
 価格転嫁できないことによる収益悪化も、価格転嫁したことによる墾元量の減少も、中小業者の経営を直撃します。政府が来年10月からの導入を狙う消費税のインボイス制度は零細の消費税免税業者に新たな負担を強いるものです。中小企業月次景況調査にも「中古自動車販売業者にとってはインボイス登録をしないと死活問題になる可能性があり、零細企業にとっては慎重に対応をする必要がある」(愛知県・中古車坐元業)などの声が寄せられています。
 いま、政府に求められているのは、国民生活と業者の経営を守るために、賃上げを実現し、消費税を減税することです。同時にインボイス制度の導入も中止すべきです。(清水渡)(随時掲載)