大企業優遇税制―能力に応じる原則に背く不公平(「赤旗」)、目でみる経済1,2

2021年11月27日
【赤旗日曜版】11月28日 経済これって何? 大企業優遇税制―能力に応じる原則に背く不公平
 岸田文雄首相は「新しい資本主義」を起動し「新しい分配の仕組み」をつくると言っています(10 臼の記者会見)。しかし、岸田首相が議長を務める「新しい資本主義実現会議」がとりまとめた緊急提言(8 日)は、貧富の格差を正すために必要な不公平税制の是正にはひとことも触れていません。
 法人税では、大企業の税の実質負担率は中小企業よりも低くなっています。大企業優遇税制を改め、大企業にも応分の負担を求めるべきです。
 株式会社などの法人は法人税法と租税特別措置法に基づいて法人税を負担します。この二つの税法には、憲法の「応能負担」の原則を軽視して、負担能力のある大企業の税負相だ軽くする否口理な厚遇措置が盛り込まれています。
 大企業に対する厚遇措置は「法の下の平等」を定めた憲法14 条などに反します。他方、所得の低い山小J 零細法人に対する負担軽減措置は、「法の下の平等」など憲法上の要請に基づくもので、厚遇には当たりません。
 租税特別措置法は主に財界の要望に従って、法人税法をさらにゆがめる内容となっています。法人税は、法人税法だけでなく租税特別措置法も見ないと理解できません。
 代表的な大企業厚遇措置を見てみましょう。
<法人税法に基づくもの>
▽法人税の比例税率
 資本金1 億円以上の法人の法人税率は、課税所得の大小に関係なく23・20%(66 条)。「応能負担」の原則に反し、課税所得が大きく、税負担の能力が大きい法人ほど有利になります。
▽受取配当等の益金不算入
 受取配当などは益金として課税すべき企業の収益ですが、一定金額が課税対象から除かれます。(23 条)
▽外国子会社配当等の益金不算入
 日本の親会社が外国子会社から受け取る配当などは、その95 %が課税されません。(23 条の2 ) 
▽連結納税(2022 年度から「グループ通算制度」に移行)
 親会社と子会社(企業集団)をーつの納税単位として、子法人の赤字を更」社の黒字から控除することなどによって納税額を減らします。(4 条の2 ) 
<租税特別措置法に基づくもの>
▽研究開発減税(試験研究を行った場合の法人税の特別控除)
 試験研究費の支出がある場合に、その試験研究費に一定割合を乗じて計算した金額を、その事業年度の法人税額から控除します。(42 条の4 ) 
 試験研究費は、おおむね次のような費用です。
 ①製品の製造または技術の改良、考案、発明にかかわる原材料費、人件費、経費、外注費など
 ②新たなサービス(ビッグデータの収集、取得、分析によって設計されたサービス)の開発にかかわる費用このように、大企業優遇税制の適用範囲は、とてつもなく広範囲に及んでいます。浦野広明(うらの・ひろあき立正大学法制研究所特別研究員)

【赤旗】11月25日 目でみる経済―税逃れ 世界の損失144兆円 英国は〝租税回避地の親玉〟
 多国籍企業と富裕者の税逃れによってどれくらいの税収が失われているか。国際NGOのタックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)などが試算しています。
<原因は米英に>
 国別にみると税収損失が最も大きいのは米国です(グラフ①)。
グラフ①

 年1135億㌦の税収を失っています。日本も152億㌦(約兆7千億円)の損失を被っています。全世界では年4830億㌦の税収が失われています。
 これらは、企業と個人の税逃れによる直接的な損失額です。法人税減税競争などの波及効果を含めると、全世界で年1兆㌦(約114兆円)を超す税収損失が生じているとTJNは試算します。
 他方、TJNは税逃れに責任がある国とぞの額についても試算しています(グラフ②)。
グラフ②
 ここからわかるのは、大きな損失を被っている米英両国が、自ら税逃れの原因をつくっていることです。特に英国は〝租税回避地の親玉〟ともいえる重大な役割を担っています。海外領土のケイマン諸島・バージン諸島や王室属領のジャージー島などを含めると、英国グループは企業による税逃れの約3分の1に責任があります。
 欧州とアジアの人口の少ない国・地域が税逃れに深く関わっていることもわかります。シンガポール、ルクセンブルク、オランダ、香港、スイス、アイルランドなどです。
 これらの国・地域では実体経済に見合わない巨額の投資の流出入がみられます。例えば2014年時点で香港に名目GDP(国内総生産)の5・6倍の直接投資が流入し、同5・5倍の直接投資が香港から流出しました(16年5月26日、政府税制調査会国際課税ディスカッショングループ資料)。香港への直接投資元は主にバージン諸島と中国。香港からの直接投資先は主に中国とバージン諸島です。
 財務省は「企業・投資家の実質的な税負担を相当程度軽減」するために「『実質的な経済活動とは関係の薄い第三国』を導管のように経由する取引」が行われていると指摘しました。バージン諸島は典型的な租税回避地であり、香港は中国とバージン諸島を結ぶ「導管国」だというわけです。
 税逃れに責任がある国の中に「世界の工場」中国が入っていることも見逃せません。
<不公正な世界>
 政治経済研究所の合田寛理事は「租税回避地はグローバル資本主義の中心的要素として組み込まれている」と話します。
 「国境を越えた資本移動が自由化されるにつれて、多国籍企業は世界市場への支配を強めました。同時にその力を、各国政府への影響力を強めるために行使してきました。米英両国をはじめとする主要国政府は、国際機関での指導的立場を利用して、多国籍企業に都合の良い国際課税のルールをつくってきました」
 諸国民が知らないうちに、多国籍企業と富裕者だけが国境をまたいで課税を逃れることができる、不公正な世界がつくられていたのです。(杉本恒如)

【赤旗】11月26日 目でみる経済―富裕層だけに漁夫の利 国際競争の不公平
 1980年代に英国のサッチャー政権と米国のレーガン政権が法人税減税にかじを切って以来、全世界的な法人税率引き下げ競争が続いてきました。
<減税競争激化>
 経済協力開発機構(OECD)が7月29日に発表した「法人税統計(第3版)」でも、その傾向が確認できます。世界を四つのグループに分けて2000 年以降の法人税の平均法定税率を調べたところ、全グループで持続的に税率が低下してきたのです。特に18年ごろから減税競争に拍車がかかっています。
 四つのグループとは①OECD 加盟国②アフリカ諸国③アジア諸国④中南米諸国―です。このうち、法人税の平均法定税率が最も大幅に下落したのはOECD 加盟国でした。2000年の32・3% から21年の22・9%へ9・4㌽下がりました。
 21年に最も平均法定税率が低かったのは中南米諸国で19・1%。次いでアジア諸国が19・2%でした。最も高かったのはアフリカ諸国で26・8%でした。法定税率ゼロの法域がアジア諸国に二つ、中南米諸国に六つありました。OECD 加盟国とアフリカ諸国にはありませんでした。
 現代のグローバル資本主義の下で資本は簡単に国境を越え、より低い税負担を求めて移動します。その方法は多様です。優遇税制のある経済特区に生産拠点を丸でと移転する方法。租税同避地の子会社に無形資産を保有させて利益だけを移す方法。租税回避地に地域統括会社を置いて周辺国で得た利益を集める方法などです。
 各国は他国に先んじて減税を行い、自国への投資を増やそうとして、終わりのない「底辺への競争」に引きずり込まれました。多国籍企業は租税回避地や各国の優遇税制を利用して実際の税負担率を法定税率より大幅に引き下げています。
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 政治経済研究所の合田寛理事は指摘します。
 「租税回避地や法人税減税競争は、他国が本来得るはずの税収を奪います。しかし奪う側も税率が低いので大きな税収を得ません。結局、利益を得るのは巨大多国籍企業とその支配的株主です。損失を受けるのはすべての国の財政基盤であり、消費税増税や社会保障費削減の憂き目にあう市民です」
<制限 課すべき>
 法人税減税は税引き後の企業利益を大幅に増やし、配当の増額や株価の高騰で株主の資産を膨張させます。諸国民を分断し、資本誘致の国際競争に駆り立てるグローバル経済の構造は、資本家階級の理想郷なのです。一握りの富裕者だけに漁夫の利をもたらす不公平な国際競争には制限を課すべきです。
 反撃は始まっています。136カ国・地域は多国籍企業に15%の最低税負担率を課すルールの創設で合意しました。世界が連帯して国際競争に歯止めをかける現実的な方法は見いだされました。「底辺への競争」を逆転させる未来は、夢物語ではありません。(杉本恒如)