官僚の給付金詐取―悪質極まる国民への背信行為(「赤旗」)7月2日、コロナ禍と「骨太」―国民の願いに反する財界主導(同6月19日)

2021年7月3日
【赤旗】7月2日<主張>官僚の給付金詐取―悪質極まる国民への背信行為
 経済産業省の若手キャリア官僚2人がコロナ対策の家賃支援給付金を詐取した容疑で警視庁に逮捕され、国民の怒りを招いています。同給付金は、コロナ感染拡大の影響で売り上げが減少した中小企業を支えるために設けられました。この制度を所管する官庁の官僚が、給付金をだまし取る行為はまれにみる悪質さです。2人は省内で主要政策の立案を担う部局に配属されていました。なぜこのような不正がまかり通ったのか。動機や背景はもちろん、同省の体質も含め全容を徹底的に究明することが欠かせません。
◆業者支援の制度を悪用
 2人の逮捕容疑は、昨年12月に虚偽の内容で家賃支援給付金を申請し、今年1月に約550万円を詐取したというものです。2人が2019年に設立した実態のないペーパー会社を給付金の受け皿にし、自宅を会社の事務所に装って書類を偽造するなどしていました。詐取した給付金は、海外ブランドの高級腕時計の代金の返済などにあてたとされます。
 家賃支援給付金は、コロナ禍で売り上げが大幅に減って、家賃支払いに苦しむ飲食店などを支援するためにつくられた制度です。しかし、申請手続きは煩雑なうえ、実情に合わない支給要件や、支給までの時間が長くかかることなどが問題になりました。再度の支給を求める声も切実です。
 給付金事業を担当する中小企業庁は経産省の外局です。2人の所属する同省経済産業政策局は直接の担当ではありませんが、事業の仕組みを詳しく知っていた可能性が指摘されています。コロナで苦境に立たされている業者に給付金を迅速に届けるために力を注ぐことが経産省に求められる本来の役割です。制度を熟知する立場を使い、私利私欲のために税金をだまし取っていたとなれば、国民への背信行為という他ありません。
 警視庁は経産省を家宅捜索しました。2人は、捜査を免れるために勤務時間内に職場で証拠隠滅の相談をしていたと報じられています。副業に規制がある国家公務員の2人が在職中にペーパー会社を持つことができた経過も不透明です。経産省としての監督責任は免れません。2人だけの問題にとどめるのでなく、組織全体の体制なども徹底検証することが必要です。事実関係を明らかにするためには、国会で閉会中審査を行うべきです。
 中央官庁の官僚の倫理感の欠如とモラル崩壊があらわになっているのは経産省だけではありません。総務省では、菅義偉首相の長男が勤務する放送関連会社「東北新社」やNTTからの接待がまん延していました。農林水産省では、元農水相の汚職事件にからむ鶏卵生産会社から接待された官僚が処分されています。しかし、菅政権はこれらの癒着や不祥事を徹底解明する姿勢がありません。
◆政権のモラル崩壊の下で
 安倍晋三前政権では官房長官の菅氏が中央官庁人事を握る「強権支配」が大問題になりました。「森友」疑惑では、政権の意向に沿って公文書を改ざんし、国会で虚偽答弁を続けた官僚が国民の批判を浴びました。閣僚の「政治とカネ」疑惑も後を絶ちません。官僚で相次ぐ不正は、政権の「国政私物化」「モラル崩壊」と無縁ではありません。この問題でも政治のあり方が問われています。

【赤旗】6月19日<主張>コロナ禍と「骨太」―国民の願いに反する財界主導
 菅義偉内閣が同政権で初めてとなる2021年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定しました。社会保障の削減を続ける方針を示し、大企業の要求に沿う「デジタル化」やカジノ推進を掲げました。コロナ危機に便乗して「これまで進められなかった課題を一気に進めるチャンスが到来している」といいます。危機に学ばず、医療の強化や生活支援に背を向けた姿勢は国民の願いからかけ離れています。
◆社会保障費の削減さらに
 「骨太の方針」は次年度の政府予算案に反映されます。政府と財界代表らで構成する経済財政諮問会議が作成します。財界の要求が最優先される仕組みです。
 「団塊の世代」が22年度から75歳以上になり始めるとして、「給付と負担のバランス」の名で社会保障費のさらなる削減を打ち出しました。政府はすでに16~21年度の6年間で社会保障費の伸びを合計8300億円削減しました。「その方針を継続する」として高齢化などによる自然増分も削り込む姿勢を示しました。
 「感染症対応の医療提供体制を強化」といいますが、コロナ危機で顕在化した医療の弱体化に反省はありません。病床削減を図る「地域医療構想」や、都道府県の医療費削減を促す「医療費適正化計画」を推進します。菅政権は先の通常国会で「高齢者医療費2倍化法」と「病床削減推進法」を成立させました。これに拍車をかける方針です。保健所の増設、人員増には触れずじまいです。
 国民の暮らしについては「コロナ禍が格差の拡大・固定化につながらないよう、目配りの効いた政策運営を行っていく」としています。しかし菅政権は格差、貧困に苦しんでいる人たちには手を差し伸べようとしません。持続化給付金、家賃支援給付金を1回で打ち切り、生活困窮者への支援にも消極的です。支援を求める声に今すぐ応えるべきです。
 骨太は「賃上げを通じた経済の底上げ」に言及し、最低賃金の引き上げが不可欠と述べました。「より早期に全国加重平均1000円」をめざすというだけで、いつまでに実現するか明らかにしません。全国一律制や大幅引き上げに踏み出さなければ、消費や経済を底上げする力になりません。
 「新たな成長」の柱に掲げたのが「官民挙げたデジタル化の加速」です。マイナンバーカードを22年度末までに全国民に行き渡らせる方針です。健康保険証、運転免許証との一体化に取り組むとしています。菅政権が進める「デジタル化」は、大企業のもうけのために個人データの利活用を広げる政策です。個人情報の保護をはじめ権利を守る法規制をなおざりにすることは許されません。
◆暮らし主導の成長こそ
 骨太は日本経済が世界から立ち遅れていることに危機感を表明しました。日本が1990年代から低迷し続けている最大の原因は3度にわたる消費税増税や賃金抑制によって国民や中小企業が疲弊していることにあります。
 「ポストコロナの持続的な成長」をはかるために必要なのは大企業を優遇する政治から国民の暮らしをなによりも優先する政治への転換です。消費税の減税・廃止、大幅な賃上げ、社会保障の拡充こそ必要です。