政府は≪危機感の共有不十分だ≫ー「産経」、感染急拡大と首相―今が正念場との危機感がないー「赤旗」

2020年12月5日
【産経新聞】11月28日<主張>感染拡大深刻化 政府の強い意思を示せ 「トラベル」さらに見直しを
 新型コロナウイルスの感染拡大防止と経済を両立させることは極めて重要である。経済がストップしても、感染が蔓延(まんえん)しても、社会生活は成り立たない。
 ただ今、最も恐れるべきは、経済を止めても感染拡大の収拾がつかなくなる最悪の事態である。
 政府は27日、新型コロナ感染症対策本部を開き、菅義偉首相は観光支援事業「Go To トラベル」について、「札幌市、大阪市の出発分についても利用を控えるよう直ちに呼びかける」と述べた。感染が急増する両市を目的地とする同事業については、すでに旅行の割引を停止している。
 半歩前進だが、判断は遅く、矮小(わいしょう)なものと断じざるを得ない。
 ≪正念場を乗り切れるか≫
 西村康稔経済再生担当相は「ステージ4(爆発的感染拡大)となれば緊急事態宣言が視野に入る」と述べ、感染爆発を防ぐためには「今後3週間が正念場だ」と述べてきた。
 菅首相も同様に「この3週間が極めて重要な時期だ」と強調したが、言葉の危機感に政策が追いついているとはいえない。
 菅首相は26日、「国民の皆さんには、ぜひともマスク着用、手洗い、3密の回避という基本的な対策に協力いただきたい。一緒になって感染拡大を何としても乗り越えていきたい」と呼びかけた。これはただの「お願い」であり、強い危機感は伝わらない。
 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は27日の衆院厚生労働委員会で「人々の個人の努力に頼るステージは過ぎた」と述べ、「個人の努力に加えて、飲食店の営業時間の短縮、感染拡大地域とそうでない地域の行き来を控えるのは必須だ」と強調した。
 「Go To トラベル」を念頭に置いた発言である。こうした提言を受けて札幌、大阪両市出発の事業停止に踏み切った格好だが、分科会は25日の提言でも、トラベル事業について一時停止を行う際は「出発分についても検討すること」と明記していた。
 尾身氏は国民や国、自治体について「当事者意識を持って危機感を共有することが極めて重要だ」とも述べた。危機感を共有できていないとの認識が言わせた言葉だろう。政府と分科会の危機認識には、明らかな差異がある。
 トラベル事業の対応が重要なのは、それが国民への政府のアナウンス、意思表示になるからだ。
 国が人の移動にお墨付きを与えているのだから、外出や旅行を控える必要はあるまい。さらに、ここが正念場といわれても実際には大したことはないだろう-。このように受け取られてきたのではないか。日本医師会の中川俊男会長は「国が(人の移動を)推進することで、国民が完全に緩んでいる」と指摘している。
 27日も新規感染者数が過去最多を更新した東京都については、トラベル事業からの除外が見送られたままだ。
 政府は「知事の判断を尊重する」としている。小池百合子知事は27日の会見でも「感染拡大地域への入りと出の両方を止めないといけない。都だけではなく全国的な視点が必要となる」「最初から国が決めるという設計ではなかったのか」と、判断を都に任せる政府の対応を批判した。
 国民や都民には、互いに判断を押し付けあっているようにしかみえない。これで危機感の共有を呼び掛けることができるのか。ここは政府が主導して、事業の早期見直しを図るべきである。
 ≪危機感の共有不十分だ≫
 分科会はすでに、ステージ3相当の地域が複数あると指摘し、札幌市、東京23区、名古屋市、大阪市を例示していた。
 大阪府では新規感染者数や陽性率、感染経路不明割合など、分科会が示す6項目の指標のうち5項目でステージ4の基準を超過している。吉村洋文知事は26日、「3から4に移りつつある状況」と述べた。事態は深刻である
 菅首相は対策本部の冒頭、「国民の命と暮らしを守る。このことを最優先に、国民の皆さんとともに感染拡大を何とか乗り越えていきたい」と述べた。
 そのために菅首相は、政策による強いメッセージを適宜出し続ける必要がある。政府と自治体、分科会との間から不協和音が漏れ聞こえる現状は、決して満足のいくものとはいえない。

【赤旗】11月29日<主張>感染急拡大と首相―今が正念場との危機感がない
 新型コロナウイルス感染の急拡大は、重症者増加で各地の医療機関がひっ迫するなど重大な局面です。有効な手だてを講じない菅義偉政権のもとで「人災」としての様相を強めています。専門家から「Go To トラベル」への批判が続出しているのに、首相は同事業の抜本見直しに踏み切ろうとしません。検査・医療への支援も立ち遅れたままです。菅政権に、今が感染爆発を抑止する正念場という危機意識があるのか。国民の命と健康、暮らしを守るために一刻も早く姿勢を改めるべきです。
GoTo固執は変わらず
 菅首相は27日の政府の対策本部で、札幌市と大阪市を出発地とする旅行で「Go To トラベル」の利用を控えることを呼びかけました。24日に両市を目的地にする同事業の新規予約の停止を発表したばかりですが、出発も停止すべきだとの声が続出する中で、数日で修正に追い込まれました。
 しかし、あくまで「自粛」の要請であり、利用するかしないかの判断は国民に丸投げです。感染拡大と重症者が増加している東京都については除外したままです。これで全国的な感染急拡大を抑え込む効果が出るとは思えません。
 そもそも菅政権の対応は遅すぎます。11月前半から「第3波」を警戒する声は上がっていました。人が活発に動くことを税金で後押しする政策「Go To」事業の見直し・縮小を求める意見も相次いでいました。ところが菅政権は、「Go To」は感染を拡大させていないと言い張りました。
 専門家が参加する政府の会議が20日、感染拡大地域の適用除外を提言したことを受け、やっと一部見直しを21日に表明したものの、「Go To」に固執する姿勢は変わりません。政策の失敗を認めず、後手で小出しの修正の繰り返しでは、急速に広がる感染を抑え込むことは不可能です。
 感染拡大時に人の移動を国が推奨する事業の枠組みを変えず漫然と続けること自体が誤ったメッセージです。この政府の姿勢が、感染予防に対する国民の意識の緩みにつながっているとの医療現場からの指摘は後を絶ちません。「Go To」の大幅見直しをせず、いくら首相が「この3週間が極めて重要な時期」と口にしても国民の心に響きません。全国一律の「Go To」は直ちに中止を決断し、苦境にある観光や飲食などの事業者を直接支えることを組み合わせた支援に切り替えるべきです。
 菅首相がコロナで時間を取った記者会見を一度も行わないことも大問題です。官邸への出入りの際に立ち止まり応じる取材でも、26日は「Go To」についての質問に答えず立ち去りました。言いたいことだけを一方的に主張する首相に国民の不信は募ります。
国民に語る言葉ないのか
 「コロナ第1波」の山を越えた今年6月、政府の専門家会議の構成員は、感染拡大時の政府の情報発信のあり方について「広く人々の声を聴き、市民の暮らしに与える影響や被害にまで心を砕いたコミュニケーションを実施しなければならない」と提言しました。安倍晋三前政権の発信方法はあまりに拙劣でしたが、それでもコロナだけで首相記者会見を8回しました。菅首相はなぜ会見しないのか。リスクに際し、国民に語る言葉を持たない政権は失格です。