政府が無能なら「財界が内部留保460兆円を吐き出せ」―水野和夫氏

2020年7月18日
【赤旗】7月16日 世界の富豪「課税 私たちに」―各国政府に求める書簡―“即時、実質的・恒久的な増税を”
 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)で貧困層の増加や、失業や廃業、学業が続けられない子どもの増加など人々の生活が困窮するなか、世界の富豪らが、「私たちには果たすべき重要な役割がある」とし、自分たちのような富裕層に増税するよう求める書簡を発表しました。15日現在、米国を中心に欧州やカナダ、ニュージーランドの富豪92人が名を連ねています。
 世界の富豪らでつくる団体「ミリオネアズ・フォー・ヒューマニティ」は13日、感染拡大が世界に打撃を与えるなか、自分たちは医療の最前線で働いたり、スーパーで商品補充をするなどはできないが、「私たちには財産がある。たくさんの財産だ」と述べ、各国政府に対し、「私たちのような人々に、即時、実質的で恒久的な増税を」と求めました。ディズニー創業家のアビゲイル・ディズニー氏や、アイスクリームメーカー「ベン&ジェリーズ」のジェリー・グリーンフィールズ氏などが賛同しています。
 書簡は、感染拡大によって明らかになった諸問題は「いくら寛容であっても慈善活動では解決できない」と表明。「政府の指導者たちは、必要な資金を調達し、公平に支出する責任を果たさなければならない」と述べ、「われわれのような地球上で最も裕福な人々への恒久的な増税によって、医療、学校、治安維持のために十分な資金を確保することができる」と強調しました。
 富裕層は、仕事や家、家族を養う手段を失う心配もなく、最前線で働いてもおらず、コロナ禍の犠牲となる可能性も少ない、と指摘。富裕層への課税こそ「正しい選択であり、唯一の選択肢だ」と強調しています。(鎌塚由美)

【 ハーバー・ビジネス・オンライン】新型コロナで一層広がる格差。政府が無能なら「財界が内部留保460兆円を吐き出せ」(4月29日インタビュー、聞き手・構成 中村友哉)<月刊日本6月号より>【月刊日本】―抜粋―)
<Q> 新型コロナウイルスのため、世界は大混乱に陥っています。まさに水野さんが『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(集英社新書)などで述べている「歴史の危機」だと思います。
水野和夫氏(以下、A): 現在の状況は、フランスの歴史学者であるフェルナン・ブローデルが言う「長い16世紀」に似ています。「長い16世紀」とは、中世の封建システムから近代資本主義へ移行する大転換期のことです。ブローデルはその期間を1450年から1650年までと考えており、構造転換するまでに100年の2倍を要したため、「長い16世紀」と呼んだわけです。
 この時期のヨーロッパでは、ヴァスコ・ダ・ガマがアフリカ大陸の最南端を経由してインド航路を切り開いたり、ルターが宗教改革を行うなど、既存の権威を揺るがす大事件が次々に起きたりしました。経済的には、人々は貴族階級と貧困層に二分され、大きな格差が生じていました。ブローデルはこれを「深い割れ目」と呼んでいます。
 この「長い16世紀」に先立って起こったのが、ペストの流行です。ペストは14世紀中頃から断続的に流行し、正確な統計はないようですが、ヨーロッパの人口の3分の1が亡くなったと言われています。あまりにも死者が多かったため、教会が対応しきれず、きちんとした埋葬も行われませんでした。ちょうど同じ頃、カトリック教会では2人のローマ教皇が並び立つ「教会大分裂」(1378―1417年)が起こっています。それは英仏100年戦争(1337―1453年)の最中でした。世俗の二大権力が対立すると、聖界も混乱しました。こうした出来事によって教会の権威は地に堕ち、それが宗教改革の導火線になったのです。
 いま起こっていることもこれと同じです。今日では教会に代わって国家が権力を持っていますが、多くの国々は新型コロナウイルスにうまく対応できず、その権威を失墜させています。
 特に日本ではその傾向が顕著です。象徴的なのはマスクでしょう。日本ではマスクがなかなか手に入らず、多くの人たちが朝からドラッグストアに並んでマスクを買い求めています。使い捨てマスクを何日も使い続けている人もいるはずです。それにもかかわらず、安倍総理をはじめ国会議員たちはみな当たり前のようにマスクをしている。これは言うなれば、国民を戦争の最前線に立たせ、自分たちは鉄砲玉の飛んでこない地下室に閉じこもっているようなものです。
 安倍総理は全世帯に布マスクを2枚配布しましたが、その是非はともかく、マスクはまだ国民に行き渡っていません。安倍総理がトップとしての自覚があるなら、国民の最後の一人にまでマスクが届いたことを確認し、その上で初めてマスクをつけるべきです。
 私はアメリカのトランプ大統領のことは好きではないですが、彼はマスクをしていないでしょう。単にマスクをつけるのが嫌なのかもしれませんが、感染覚悟でコロナ対策に取り組んでいるように見えますから、国民の心をつかむという点では成功していると思います。ニューヨーク州のクオモ知事もマスクをしていません。リーダーとはそういうものです。
 そもそも安倍総理が本気でコロナ対策に取り組んでいるなら、髪を振り乱し、徹夜状態で国会に出てくるはずです。しかし、彼にはそうした様子は見られない。それどころか、紅茶を飲みながら優雅に犬と遊ぶ動画を配信する始末です。全くふざけた話だと思います。

<Q> 現在の状況が「長い16世紀」と類似しているなら、新型コロナウイルスのあとに来るのは格差の拡大です。すでに日本では大きな格差が生じていますが、これがさらに拡大する恐れがあります。
(A):何の対策もとらなければ、格差の拡大は避けられません。いま日本では非正規労働者は2千万人を超えており、年収200万円以下の人たちも1千万人を超えています。金融資産を保有していない2人以上の世帯の割合は1990年代になって急増し、2019年時点で27・6%に達しています。1987年には3・3%だったことからすれば、驚くべき急上昇です。(中略)

―内部留保金460兆円を活用せよ
<Q> 安倍政権に任せていては、コロナに対応できず、格差は拡大するばかりです。何か手はありませんか。
(A):政府がモタモタしているなら、いまこそ「財界総理」の出番です。「財界総理」は最近あまり使われなくなった言葉ですが、経団連(日本経済団体連合会)会長の異名です。安倍総理に期待できないなら、財界総理たる中西宏明経団連会長が音頭を取るべきです。
 その際に活用すべきは、これまで企業が積み上げてきた460兆円に及ぶ内部留保金です。これは企業がまさかのときに備えて貯め込んでいたお金です。いまがその「まさかのとき」でしょう。いまこそ内部留保金を使うべきです。
 そもそもこの460兆円には、企業が労働者から不当に奪いとったお金が含まれています。この間、労働生産性は緩やかに上昇していましたが、企業は賃金を抑えていました。つまり、この内部留保金には賃金の未払い分が含まれているのです。
                    (―以下略)