消費増税断行なら、リーマン級の危機が
【ダイヤモンド・オンライン 】5月31日「消費増税断行なら、リーマン級の危機がくる」説の真実味
消費税が予定通り10%へ増税されたら――
根強い「リーマン級の大不況」説
今年10月に消費税が予定通り10%に引き上げられたら、そのときに大きな不況がやってくるのではないかという説は根強くあります。政府はポイント還元などの政策で増税の悪影響を小さくしようとしていますが、それでも何かを購入するたびに10%の税金を取られるようになれば、誰もが増税を実感するはずです。消費の冷え込みは確実に起きるでしょう。
7月に国政選挙(参議院議員選)があるので、ひょっとすると増税の見直しがあるのでは、という説も根強くありました。足もとの経済もそれほどよくないということで、政府が方針を見直すのではないかという説ですが、その噂を打ち消すような発表がありました。
それは、5月20日に発表された今年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値が、私も含め経済評論家の予想よりもかなり高かったことです。年率換算すると実質経済成長率は2.1%となり、とてもではないですが、増税を止める理由になるような数字ではありません。むしろ財政を健全にするために、増税すべきだという意見を後押しするような結果でした。
その直前の5月13日には、3月の景気動向指数が発表され、その内容は6年2ヵ月ぶりに経済が「悪化」したと判断されていただけに、この数字は意外でした。
消費増税を行うと政権の評判は悪くなります。過去の消費税導入や消費増税の際には、何度も内閣の退陣が起きています。世の中には、「重要な発表の裏には必ず政治家の何らかの意図が隠されている」という陰謀論者がかなり存在していて、「もうすぐ政府から増税を延期するような数字が発表されるぞ」とまことしやかに噂されてもいました。それを考えると、今回の発表に関していえば、陰謀としては辻褄が合いません。
とはいえ、もともと10%への消費税増税が予定されていたのは2015年10月でした。それを安倍政権は一旦2017年4月へ、さらに2019年10月へと、これまで二度も先延ばしにしてきました。過去2回の先送りの理由は、一度目のときは消費低迷が、二度目のときはチャイナリスクの顕在化が主な理由でした。それを考えると、足もとでは米中の貿易戦争でチャイナリスクも米国リスクも当時よりかなり高まっています。よって、今回も何らかの理由をつけて増税を先延ばしにするのではないかという観測があったのは事実です。
ただ、いくら陰謀論者が疑っても、このタイミングでの増税延期はあり得ないでしょう。過去の増税延期のケースでは、どちらも決断は増税時期の11ヵ月前に下されました。直前に増税を撤回すると経済が大混乱するため、一定の猶予期間が必要なのです。それを考慮すると、昨年12月に決断がなかった段階で、今年10月の増税はすでに決定路線だということになります。
とはいえ、この一連の事実によって「消費増税に絡んだ何らかの陰謀は本当にないのか」といえば、そうとも言い切れません。どういうシナリオの陰謀かはともかく、政治家にとっては選挙が最大の関心事であり、増税は選挙に影響を与えるものなので、消費税に対する政治家の働きかけは必ず存在するわけです。
予想外に好調だった1-3月期GDP
「行政の陰謀」など本当にあるのか
ここで話を、今回発表されたGDP速報に戻します。世の中の予想に反して、実質経済成長率は年率2.1%と非常に堅調でした。実はその中身を見ると、カラクリというか、「何かあるんじゃないか」と疑われても仕方ないような特殊事情があるのです。
特殊事情とは、今回発表された経済成長率の数字が押し上げられた理由です。大きな要因が2つあって、1つはなぜか輸入が大きく減ったこと。石油や天然ガスなどのエネルギーの輸入抑制が大きく寄与したという説があるのですが、とにかく1~3月の3ヵ月間、輸入が輸出を上回る減少幅となったことから、外需寄与度がプラス寄与となり、数字上はGDPが大きく上昇して見えたというのです。そしてもう1つが公共投資で、こちらも予算通り1~3月に公共工事をたくさんこなしたことでGDPが増えました。
つまり陰謀論的に言えば、「行政が手を打てる範囲で、一時的にGDPを押し上げた説」が出てくるわけです。財務省はなんとしても三度目の増税延期は回避したかったでしょうし、今年7月下旬に投票が行われる参議院議員選挙を考えると、選挙戦に影響があるこの1~3月のGDPの数字が堅調なら、政治家からの批判は抑え込めるからです。実際に「押し上げ」などということができるのか、またできるとしてもどのようなやり方で行われたのか、一般人にはうかがいしれませんが、「当たらずとも遠からず」と考える人がいるのかもしれません。
しかし、仮にそうだったとしても、その後に反動がやってくるはずです。具体的には、公共事業によるかさ上げもなく、直前に輸入を抑えた分エネルギーをたくさん輸入しなければならなくなるため、4~6月期のGDPは「ボロボロになるのでは」という見方も浮上しています。
なにしろ前述のように、景気動向指数は「悪化」を示しているのだから、実態の景気は悪くなっているはず。そして次のGDP速報値の発表は、選挙が終わった後の8月9日。選挙が終わった後に、「実は経済が急速に悪化している」という公式発表があるかもしれないという疑念を生む、わかりやすいスケジュールなのです。
「リーマン級の危機到来」説の
論拠は、こんなところではないか
では、さらにその先はどうなるでしょうか。さすがに8月に経済成長がマイナスになったからといって、10月の増税が延期されることは現実的にはあり得ません。日本中の小売業が増税対応のシステム改修を行っているのに、急に中止したら、どこでシステムエラーが起きるかわかったものではないからです。ただこうなってくると、「消費増税を断行するとリーマン級の危機がやってくる」という説は、真実味を帯びてきます。
今年10月に消費税は実際に増税され、10~12月の消費はさらに大きく落ち込むでしょう。そのとき、もし米中の経済戦争が本格化しており、保護主義による貿易停滞が起きたら、米国と中国それぞれの大国への輸出で潤っている日本経済は、大きな影響を被るかもしれません。これらは場合によっては、それこそリーマンショック級の打撃でしょう。
ここまで述べてきたような一連の見通しが、「消費増税を断行するとリーマン級の危機がやってくる」という説の論拠になっているのではないかと推察します。
大きな不況が本当にやってくるかどうかは、わかりません。しかし、私の本業である経営コンサルティングの世界では、少なくとも今年の経営計画については、「世界的に大きな不況がやってくることを織り込んで計画を立てるべきだ」という経営指導が行われています。未来は予測できないほうに動くことが多いものですが、そうなっても経営者は、「サプライズではなく、想定したシナリオの範囲内だ」と言えるようにしておきたいからです。
さて、実際にはどうなるのでしょうか――。(百年コンサルティング代表 鈴木貴博
【毎日新聞】「景気回復の風」あなたに届いているか ご意見募集 香山リカ・精神科医
安倍晋三首相は2015年度の当初予算成立時に記者団に対し、「景気回復の温かい波をこれからもしっかりと全国津々浦々にお届けするために全力を尽くしていきたい」と述べ、今年の年頭所感では「景気回復の温かい風が全国津々浦々に届き始める中で、地方の税収は過去最高となった」としている。
つまり、アベノミクスは″温かい風”を吹かせることに成功した、ということになる。
その風は、あなたのところにも届いただろうか。診察室で多くの人に会う限り、私はそれを感じたことはない。それどころか、生活が苦しくなり、それがひきがねでうつ病などの心の病になる人もいっこうに減らない。
山井和則さんは、「アベノミクスは物価を上げれば賃金も上がるだろうという考え方だ。ところが物価は上がっているが、賃金上昇が追いつかず、実質賃金が下がって国民生活が苦しくなっている」と書いている。
では、その実質賃金(毎月勤労統計の調査対象の入れ替え前後で共通する事業所を比較した参考値)はどうなっているかといえば、山井さんの文章にもあるように、厚生労働省がデータの公表を控えており、わからない。
その前には、統計処理で基本的な不正があり、野党は「実際以上に賃金が伸びたように発表したのではないか」と主張する。さらに、厚労省は不正があった期間の資料を紛失・廃棄しており、2004~11年の8年分の賃金の実態ははっきりしない。
たしかに学生の就職率の上昇など、景気回復を感じさせる動きもある。とはいえ、こうして「賃金が上がったか下がったか、もはやわからない」などというとんでもない事態も起きている。
どうだろう。あなたのところに景気回復の温かい風は届いているだろうか。
それとも山井さんが言うようにそれは「アベノミクス偽装」の結果にしかすぎないのだろうか。生活に基づく話を聞かせてほしい。