福田元首相も想定外の改ざん

2018年6月9日

【月刊『世界』】7月号 片山善博の「日本を診る」―首相官邸が議員事務所と化しているー愛媛県文書を読んでの感想
首相官邸がまるで国会議員の事務所のようだ。愛媛県が参議院からの要請を受けて提出した加計学園とのやり取りに関する文書に目を通しての感想である。
 現時点でこの文書に名前が出てくる人の中には、その内容を否定したり、記憶がなかったりする人たちもいる。もとより筆者はこの文書は真正なものだと確信しているが、そうした人たちの存在をも考慮して、現段階ではこの文書に書かれたことが真正であるとすればとの前提で筆を進める。
 文書によれば、安倍首相は2015年2月25日に加計学園の加計孝太郎理事長と面談し、そこで加計理事長から同学園の獣医学部設置構想を聞かされ、「いいね」と応じたという。この構想はその後、安倍首相自身が議長を務める国家戦略会議を通じてトントン拍子に進んだのだが、その背景や経緯が透けて見えそうな文書である。
 総理と理事長との面談を踏まえ、首相官邸では柳瀬唯夫首相秘書官(当時)が中心となり、この構想の実現に向けて作戦会議が開かれている。例えば、同年三月二四日、「柳瀬首相秘書官らと加計学園関係者との間で獣医師養成系大学の設置について協議した」と県文書には記載されている。
 (中略)
 この作戦会議を受け、4月2日県と市の職員は加計学園の手引きで首相官邸を訪れた。首相官邸という滅多に入ることのできない権威ある場所に入り、そこでは今(2015年当時)をときめぐ安倍総理の、その最も身近に寄り添う総理秘書官に迎えられ、そして「自治体はやらされモードではなく、死ぬ気で頑張れ」と言い渡された。
 官邸の独特の雰囲気にのまれ、首相秘書官から檄を飛ばされた職員はいささかの高揚感を覚えたに違いない。その心情は、このたびの県文書に先駆けて公表された4月2日付の「報告・伺い文書」の書きぶりからも伝わってくる。
 これがこの構想実現に向けたその後の県と市の熱心な取り組みと、加計学園に対する県と市の多額の財政的支援につながったとすれば、この作戦は大成功だったのかもしれない。
 ただ、国家戦略会議議長といういわばこの間題では裁定役であるはずの首相の、その側近の秘書官がこともあろうに首相官邸で当事者である加計学園とともに作戦を練り、かつ、やはり官邸内で県や市の職員を巻き込む作戦を実行するに及んでいたとは。その不公正さに、は呆れるはかない。以上、愛媛県文書を読んでの率直な感想である。

【朝日新聞DIGITAL】6月9日 福田元首相も想定外の改ざん「政府が責任持って解決を」
「記録を残す」とはどういうことか。新しい法律ができたとします。それはどんな社会情勢の中で、どんな議論を経てできたのか。国民がその時々の政治や行政を評価するためには、後々まで残る正確な記録が必要になる。それが選挙では投票行動につながり、政治家が選ばれ、政策が決まっていく。正しい情報なくして正しい民主主義は行われない。記録というのは民主主義の原点で、日々刻々と生産され続けるのです。
 別の言い方をすれば、保存文書が歴史を作り、国家を形成する。小さな石を積み上げて石垣を造っていくようなもの。ふだんは意識されないけれど、とても大事な作業で、日本という国は一体どういう国かといったら、そういうことの積み重ねの成果ではないでしょうか。
 公文書管理をめぐる不祥事を、驚きを持って見ています。公文書管理法の制定に向けた準備を進めていた当時、なかには都合の悪い文書は作らない人たちもでるかなとは考えた。だがまさか、改ざんするなんて想像もしなかった。改ざんは、びっくりだね。
 国会では政府が事実を小出しにし、また新たな事実が発覚する、ということが繰り返されている。これではいつまで経っても終わりませんよ。いつまでも果てない議論の責任は追及する野党の側にあるのではありません。原因をつくった政府が責任を持って解決することを目指さなければならない。(以下略)

【赤旗】6月≪主張≫「骨太の方針」原案―消費税増税は中止すべきだ
 安倍晋三政権が来週決定する経済財政運営の基本方針(「骨太の方針」)の原案がまとまり、社会保障の大幅削減などの方向が浮き彫りになりました。見過ごせないのは、来年10月から消費税の税率を8%から10%へ引き上げることを明記し、増税に伴う物価の上昇や消費の抑制に備え、財政支出の拡大や住宅、自動車購入促進などの対策を取ろうとしていることです。消費税の価格への転嫁をやりやすくすることも検討されています。消費税増税の影響を考えるなら中止が一番です。大企業を潤すような対策は本末転倒です。
▼増税前提が矛盾広げる
 毎年6月ごろ決定される「骨太の方針」は、大企業を「成長」させる「未来投資戦略」や「規制改革」とともに、政権の経済政策の基本になるものです。とりわけ「骨太の方針」は、来年度以降の予算編成の基本となります。「アベノミクス」によっても思惑通り進まない「経済再生」策や、破綻が深刻な「財政再建」策の見直し、とりわけあと1年余に迫った消費税増税などが焦点です。
 安倍首相は政権に復帰した後の2014年4月に消費税の税率をそれまでの5%から8%に引き上げ、国民の負担を増やし、消費を冷え込ませました。政権復帰当時は「経済再生」が最優先だといったのに、増税後の14年度は国内総生産(GDP)が前年度に比べマイナスに落ち込み、家計の消費支出はいまだに低迷を続けています。総務省の家計調査報告によると、消費支出は増税後ほとんどの月で落ち込みが続き、直近の4月も3カ月連続の実質マイナスです。
 安倍政権はそのため、当初は15年10月に予定していた10%への引き上げを2回にわたって延期に追い込まれました。現在は一部の食料品などの税率を8%に据え置く「軽減税率」や、増税の一部を「子育て」などに回すことと引き換えに、増税を狙っています。それでも暮らしと経済への影響はぬぐい切れないため、「骨太の方針」に増税の19年10月実施は明記する一方、「臨時・特別」の対策を盛り込むことにしました。
 消費税を導入し、増税を繰り返してきたのは「財源確保」が名目で、財政支出を拡大するのは矛盾します。しかも増税による負担が大きい住宅や自動車の購入に対策をとることは、住宅などに手が届かない低所得者層には無関係で、一部の大企業を潤すことにもなります。もともと消費税は、低所得者ほど負担が重い逆進的な税金で、軍事費なども賄うものですが、そのゆがみは激しくなります。
 増税分を価格に転嫁しやすくするために値上げの時期や幅を自由にするなどというのは、値引き競争や便乗値上げなどを招き、消費者や零細業者を苦しめます。
▼歳出・歳入の改革こそ
 安倍政権が増税に固執し、新たな対策をとるのは、経済財政諮問会議などで財界が要求したものです。増税への反発を抑え、今秋の首相の自民党総裁3選など、政局をにらんだものともいわれます。
 「森友・加計」問題などで国民の信頼を失った安倍政権に、増税を強行する資格はありません。来年10月からの消費税増税は中止し、消費税に頼らなくてもいいように、歳出と歳入の抜本改革を行うべきです。「骨太の方針」原案は撤回するしかありません。