長期の低金利政策で家計部門が失った利子所得は435兆円に

2018年5月26日

【赤旗日曜版】5月13日 家計を犠牲に「異次元バブル」膨張―57年ぶり 日銀総裁再任
 内閣支持率は20%台に下落しましたが、ロイター社の大企業調査では安倍首相続投が「望ましい」との回答が73%に上ります。これは、どれほどアベノミクスが大企業の利益拡大に貢献してきたかを示しています。
 アベノミクスの「第1の矢」を担う黒田東彦(はるひこ)日銀総裁が4月に再任されました。
 日銀総裁の再任は1961年に再任された山際正道氏以来、57年ぶりです。当時の山際総裁はインフレ物価高を抑え込む「物価の番人」として「通賃価値の安定は、経済の成長・発展の概念より次元の高い概念」と主張しました。しかし黒田総裁は中央銀行の独立性を放棄し、アベノミクスの先兵役として物価を上げようとしています。その姿を見ると曰銀の変質の大きさに驚かされます。
 周知のように、黒田曰銀は利子率を極端に低くする異次元の金融緩和政策を断行し、マイナス金利政策にも踏み込みました。超低金利政策は、貯蓄主体の家計部門から預貯金の利子所得を奪いますが、借入金の利払い費を軽減できる企業にとっては大歓迎です。
 バブル崩壊後、長期の低金利政策で家計部門が失った利子所得は435兆円に達します。他方で企業部門は2兆円も利払いを軽減できました。低金利政策とは、家計から企業へ所得を移転する政策です。
 原理的には、銀行など「貨幣資本家」に支払う利子が低いほど、メーカーや流通などの「機能資本家」の手元に残る企業者利得は大きくなります。アベノミクスの企業者利得への貢献は、大企業が内部留保を新たに70兆円も増やしたことで証明されます。非正規雇用の拡大や法人減税と相まって異次元緩和は企業者利得増大の強力な屋台骨になってきました。
 2期目の黒田日銀は相変わらず「2%の物価上昇」を掲げています。すでに実現不可能と実証され、破綻した「2%の物価上昇」のスローガンこそ、日銀という「馬」を、正常化への出口戦略でなく、引き続き異常な金融緩和政策に突進させるための「ニンジン」といってよいでしょう。
 今後5年間、日銀は従来通り大量の国債を購入し、ジャプジャプの緩和マネーを銀行に供給し続けることになります。それが株式市場や不動産市場に投資され、さらにバブルを膨らませて、大企業・富裕層・内外投資家の富を増やします。
 その結果、貧困と格差はいっそう拡大するでしょう。政府は国債を増発して、財界が求める大型公共事業を追加し、米トランプ大統領の要求に従って高額兵器の購入を増やそうとするでしょう。
 その先に見えてくるのは「異次元バブル」の崩壊です。かつて46兆円を超える公的資金が銀行に投入されたように、大きすぎてつぶせない企業や金融機関は税金で救済されるのでしょう。しかし、財政赤字を補てんするために消費税が増税され、社会保障は削減されます。暮らしと経済を守るためにも安倍政権の早期退陣が求められます。      山田博文(やまだ・ひろふみ群馬大学名誉教授)

【トマ・ピケティ『21世紀の資本』】(514~515ページから)主要な政治的蜂起の核心には、財政革命が存在する
 「課税は技術的な問題ではない。それは何より政治哲学的な問題であり、あらゆる政治課題の中で最も重要なものと言える。税金なくして社会は共通の運命を持たず、集合的な行動は不可能だ。これはいつの時代にも当てはまる。あらゆる主要な政治的蜂起の核心には、財政革命が存在するのだ。(フランスでは革命で―引用者)貴族と聖職者たちの財政的特権を廃止し、現代的な普遍的税制を確立しようとしたときだった。アメリカ革命が誕生したのは、イギリス植民地の臣民たちが、自分の運命を自ら掌握し、自分で自分の税金を決めることにしたときだった。」