官房機密費 いっそ廃止に―「東京新聞」

2018年1月20日

【東京新聞】1月20日〈社説〉官房機密費 いっそ廃止にしては?
 官房機密費という謎のカネがある。最高裁は一部のみの文書開示を認めた。意義ある使途なのか疑わしく、かつ精緻なチェックも受けない。将来、全面開示する義務制か、いっそ廃止にしては。
 会計検査院の対象となっているのに、領収書がないケースもあり、事実上、精密な使途のチェックができない。謎のカネだというのは、そういう意味である。内閣官房長官が管理し、官邸が自在に操れるカネだ。
 正式には内閣官房報償費というが、官房機密費と呼ばれ、実態は不明なままだ。
 ただ、小渕恵三内閣で官房長官を務めた元自民党幹事長の野中広務氏が二〇一〇年、共同通信の取材に対して官房機密費の内幕について語ったことがある。月々、首相に一千万円、野党工作にあたる自民党の国対委員長や参院幹事長に各五百万円、政治評論家や野党議員にも配っていたという。
 共産党が〇二年に公表した機密費の使途では、野党議員の高級紳士服、政治家のパーティー券、議員が外遊する際の餞別(せんべつ)、ゴルフのプレー代、洋酒、ビール券など国政とは無縁の項目が並んだ。
 そもそも機密費は、国内外の非公式な重要課題の解決のため、合意や協力を得る対価として使われる。情報提供者への謝礼などだ。その金額は毎年十数億円。一端とはいえ、使途はまともとは到底、言えない。目的から逸脱しているのは明白である。
 一九九〇年代には外務省職員が首相の外国訪問の際に宿泊費の水増しなどで、約五億円もの機密費をだまし取った事件もあった。ずさんの証左ではないのか。
 今回、市民団体が起こした文書開示を求めた訴訟で、最高裁は支払先や具体的な使途が明らかにならない明細書など一部文書の開示を認めた。だが、あまりに小さな「穴」だ。その「穴」から国民は何が見えるというのか。十億円ものカネが本当に秘匿に値する情報取得に充てられているのか。
 「知る権利」がある。もっと実態が見えないと、権力と国民の間に緊張関係は生まれない。旧民主党が〇一年に、機密性の高いものは二十五年、それ以外は十年後に使途を公開する法案を出したこともある。それも一案だ。
 いっそ機密費は全廃してしまえばどうか。本当に必要なカネは費目を明示し予算要求すればよい。議員の背広に化ける、謎のカネを権力の自由にさせておく余裕など国庫にはないはずだ。

【ニューズウイーク日本版】1月19日超富裕層への富の集中がアメリカを破壊する
<極端な富の偏在は民主主義を衰退させ、やがて未曾有の政治的混乱を引き起こす>
カネが世界を動かし、選挙の流れを決め、権力の担い手を決めている。アメリカをはじめとする先進国で進行する富の集中は、社会と民主主義の安定をじわじわと危険にさらしている。富の集中は温暖化と並んで、現在の世界を崩壊させる恐れがある最も深刻な長期的問題だ。
かつて筆者がいたCIAの任務は、「権力者に真実を告げること」だ。それはしばしばリーダーに嫌われ、無視されることを意味する。筆者が最後に所属した国家情報会議(NIC)は、未来を予測するのが仕事だった。まだ形になっていない情勢を見つめ、私の場合は「国境を超えた脅威」を判定していた。
こうした脅威が形になるのは2~5年、あるいはもっと先のこと。だから多くのリーダーは対応を先送りにして、目先の問題に集中する。ギリシャ神話の予言者カッサンドラのように、NICの予測は悪いことばかりだと嫌みを言われる。そのくせ脅威が現実になると、「諜報のミス」だと非難される。
実のところ現在も、私たちの社会や政治体制全般を脅かす重大な流れは存在する。それは富の集中だ。
今のように国家の富がひと握りのエリートに集中しているのは、第一次大戦直後や19世紀後半以来のことだ。この流れは加速しているから、いずれ富の集中レベルはアメリカの歴史上で最悪になるだろう。
富の集中が、グローバル化というもっと目に見える変化と組み合わさると、ポピュリズムが高まり、民主主義は衰退する。ますます限られたエリートに権力が集中して、大衆はブレグジット(イギリスのEU離脱)のような自滅的選択をし、まともに本も読めないドナルド・トランプ米大統領のような権威主義的デマゴーグを選び、民主主義は直接脅かされる。
このことはデータにはっきり表れている。アメリカでは所得トップ1%の世帯が国家の富のほぼ40%を握っており、下位90%の世帯は富の約23%を占めるにすぎない。また、70年代以降のアメリカの富の拡大分の75%は、1%の最富裕層が得てきた。
フランスの経済学者トマ・ピケティが、ベストセラーとなった著書『21世紀の資本』(邦訳・みすず書房)で指摘したように、「資本は自己増殖する。ひとたびその仕組みが確立されると、自己増殖のスピードは、生産によって(国民の所得が)蓄積されるスピードを超える。過去が未来を貪り食うのだ」。
アメリカで富の集中が加速したきっかけは、共和党のロナルド・レーガン大統領による80年代の「レーガン革命」だった。この「革命」で、アメリカの財政と税制から富の再分配機能が大幅に削られた。
フランクリン・ルーズベルト大統領の「ニューディール」政策とリンドン・ジョンソン大統領の「偉大な社会」以来、アメリカでは市場経済が一定の規制を受け、金持ちほど税負担が大きく、貧困層を支援する政策が取られてきた。だがレーガン革命は、政府が社会活動家のような役割を果たすことを否定した。
▶いずれ世界も同じ状態に
富の集中は、市場経済を採用する先進民主主義国に共通するものだ。ただしアメリカが世界で覇権的地位を築いて以来、社会・政治・経済のあらゆる分野で、アメリカで起きたことは約15年後に世界各地で顕在化する。

【赤旗】12月18日<主張>アベノミクス5年「経済再生」には程遠いまま
 2012年12月末に安倍晋三首相が政権に復帰し、第2次政権を発足させてからまもなく5年になります。この間2回の総選挙があり、安倍政権は今や第4次政権になりましたが、政権復帰時、震災からの「復興」や「危機管理」と並んで最重要課題に掲げた「経済再生」はいまだ実現していません。さきに発表された今年7~9月期の国内総生産(GDP)改定値も7四半期連続の上昇というものの動きは鈍く、「外需」に依存した脆弱(ぜいじゃく)な体質で、特にGDPの約6割を占める個人消費は前期比0・5%のマイナスです。国民の暮らしはよくなっていません。
▶「トリクルダウン」は失敗
 政権に復帰以来、ことあるごとに「経済再生」最優先と繰り返してきた安倍首相は、自らの名前を冠した「アベノミクス」を政策の基本としてきました。日本銀行と一体になった「大胆な金融緩和」、国債を増発しての「機動的な財政運営」、さらには規制緩和などによる「成長戦略」を、「3本の矢」にするというものです。その後、GDP600兆円と希望出生率1・8、介護離職ゼロを「新3本の矢」と呼んで「アベノミクス」の政策目標にしました。さらに「人づくり革命」と「生産性革命」を「新しい政策パッケージ」だと持ち出してきました。
 基本となる「3本の矢」は、金融緩和や財政拡大で円安や株高を実現すれば大企業や大資産家のもうけが増え、回り回って国民の雇用や所得、消費も増えるという「トリクルダウン」(滴り落ち)の発想が根幹です。しかし懐が豊かになった大企業や大資産家が内部留保やため込みに回しているのが現状で、いつまでたっても国民の生活は改善しません。
 安倍政権になってからの消費税の増税もあって、消費の低迷は長引き、成果が見えない「アベノミクス」の目先を変えようと「新3本の矢」や「新しい政策パッケージ」を打ち出したというのが実態です。GDP600兆円などの目標達成は遠く、「トリクルダウン」に頼る政策の失敗は明らかです。「新しい政策パッケージ」も、消費税の再増税を前提にし、「生産性」を向上させた大企業に減税するなど大企業中心の政策です。
 「アベノミクス」の破綻は明らかです。近代経済学者の吉川洋氏らも12月初めの「日経」に寄せた「アベノミクス5年」の論評で、安倍政権になってから経済成長率が低いことを挙げ「経済成長率は消費の動向に大きな影響を受ける。この消費が弱いのが日本経済の大きな問題だ」と指摘します。財界団体の経団連でさえ最近、個人消費の低迷を打ち破るためには「所得の引き上げ」が必要だとの報告をまとめたほどです。国民の暮らしをあたため、消費を拡大しなければ景気はよくなりません。
▶国民本位の経済政策に
 安倍政権がこの5年間、選挙の時には経済政策を前面に売り込みながら、選挙が終わると秘密保護法や安保法制=戦争法、共謀罪法などの制定、改憲などを持ち出す、国民だましの手法をとってきたことも重大です。
 国民本位の経済再建のためにも、憲法破壊の政治を許さないためにも、安倍政権の暴走を中止に追い込み、国民の所得と消費を増やして経済と暮らしを立て直す政策に、根本的に転換すべきです。