(消費税の)「広く薄く負担」はエセ公平理念―安藤実(静岡大学名誉教授)

2017年11月11日

【しんぶん赤旗日曜版】<経済 これって何>「広く薄く負担」はエセ公平理念
 消費税が税率3%で導入された1989年は昭和から平成に改元された年ですから、消費税は平成の税です。以来約30年、税率は1桁止まりです。これは世界的に見ても珍しいことですσ珍しいといえば、敗戦直後に導入された取引高税という大型間接税を廃止させた歴史的前例もあります。消費税のような大型間接税に対して、日本国民の拒否反応の根強さが示されています。
 資本主義経済のもとでは、国民各層の間にさまざまな格差、とりわけ所得格差が生じるのは避けられません。マルクスは『資本論』で、イギリスの工場法(労働時間の規制)の研究をもとに、資本家的経済活動に対する法的規制の必要を説き、それを「つり合うおもり」と名付けました。租税制度も、政府による経済活動に対する法的規制の一つです。
 税制がもつ所得再配分機能を利用すれば所得格差を調整できるのです。
 例えば戦後日本の民主化を目指したシャウプ税制(49年)は、応能負担の公平原則に基づく所得税の総合累進制、富裕税新設、大型間接税たる取引高税の廃止など直接税中心の税制を勧告し、その所得再配分機能による格差是正を目指すものでした。シャウプは「直接税は意識する税なので国民の政治的関心を高め、民主化に役立つが、間接税は国民を政治から遠ざける」と指摘しました。
 しかし、シャウプ税制は支配層により「修正」を重ねられました。その総仕上げが消費税導入でした。自民党政府は70年代以降、「ヨーロッパ諸国の付加価値税をモデルに」大型間接税の導入を本格的に準備しました。
 79年、自民党の大平内閣が一般消費税導入に失敗した後、「増税なき財政再建」を掲げる第二臨調路線が登場、81年、国民に「自立・自己責任」を求め、社会福祉に関係する行政の「縮減・効率化」皿社会保障関係費の抑制を答申します。社会保障関係費は本来、格差是正に資する国家経費ですが、その抑制です。
 そして87年、売上税導入を掲げた中曽根内閣も失敗し辞任。89年の消費税導入には、益税をちらつかせて業界を切り崩した竹下内閣の手練手管が必要でした。消費税の導入理由は、直間比率(直接税と間接税の比率)の是正です。直接税は法人税率が42%F37・5%、個人所得税の最高税率が70%F50%に引き下げられました。
 当時の政府税調の答申には、わが国経済社会の構造は「所得分布が著しく平準化」し、「税制の所得再配分機能を考慮する必要性が低下している」ので、「負担をできるだけ幅広く、薄く求めることが肝要」とありました。格差縮小を論拠とする消費税導入論でした。
 消費税導入後に横行したのは、「応能負担」の公平理念から、「広く薄く負担を分かち合う」というエセ公平理念への転換です。この転換、つまり消費税増税は、税制本来の所得再配分機能をねじ曲げ、逆の所得再配分への転換、即ち「格差の拡大」をもたらします。安藤実(あんどう・みのる静岡大学名誉教授)

【AERAdot.】11月9日 室井佑月「国難よ、どこいった?」
 作家の室井佑月氏は、希望の党から出馬した衆議院議員に厳しい言葉を向ける。
 選挙が終わったら、この国の国難はなくなったのか? おーい、国難、どこいった? 日本国中、そう大騒ぎしてもいいよな。
 が、違うところで騒いでいる人がいる。昨日、ワイドショーで、衆議院選に希望の党から出馬した、元民進党の方とご一緒した。その方は、小池百合子代表について文句をいっていた。
「『排除発言』で180人もの優秀な候補が戦死した。血が流れるどころか、血しぶきが飛び散った選挙だった」と。「これが戦場だったら、多くの仲間が死んでいた」と。
 大げさな! 落選したら、普通の国民に戻ればいいだけじゃん。ハローワークでもなんでもいって、とっとと次の職を探せばいい。うちらはみんなそうしてる。
 この方はわかっていないみたいだが、政治家の動きによって、実際に血を流すのは国民だ。
 非正規で働き、賃金は安いのに、社会保障費の負担も消費税も上げられる。血しぶきがあがるよりもっと悲惨な、血を搾り取られすぎてもう一滴も出ないよ、という人だって増えている。
 安倍さんは「憲法改正し、自衛隊の存在を明記する」、そう選挙前の党首討論ではっきりいった。それは単に「合憲か違憲かの議論の余地をなくすためだ」と。
 ほんとうなのだろうか?
 自衛隊はすでに国民がその存在を認めている。なのに、わざわざ憲法にその存在が書き込まれれば、9条の意味ががらりと変わる。彼らの活動範囲は増えていくだろう。
 イラク戦争のとき、国旗をかけたアメリカ軍人の棺桶がずらりと並べられた、痛ましいニュースを何度も観た。あれがこの国でも起こりうるということだ。そうなったとき、というかそうしたのが自分であっても、議員らは、ただ遺憾の意を表するだけだろう。選挙で落選したくらいで、多くの仲間が死んだなんて騒ぐんじゃないよ。
 テレビに一緒に出た、元民進党で現希望の党の衆議院議員は、以前は、安保法案にも反対していた。なのに、安全保障政策を支持と書かれている希望の党の協定書に署名した。その踏み絵を踏むことが、入党できる条件だったから。
 小池人気にあやかれば、今回の自分の選挙が楽になると思ったんでしょ? 途中で小池人気が崩落し、仲間がたくさん落選したと文句をいうのは、みっともなさすぎる。
 議員であるなら、真っ先にあたしたち国民のことを考えるべき。それが議員である条件だ。そのために国民は、あなた方を先生と呼んでやって、その身分や生活を支えているんだし。
 安倍政権を倒したい、その思いはあったとしても、元民進の安保反対だった議員は、なぜ希望にいった?
 そして、なぜ立憲民主党に対立候補を立てた? あなた方が議員として、これまで訴えてきたことはなんだったのか?
 少なくともあたしは、裏切られた気分でいる。彼らのこれからを、注視したい。※週刊朝日 2017年11月17日号

【AERAdot.】11月8日小池百合子、前原誠司の失脚の裏に米国政府 在米日本大使館の内部文書入手
 ゴルフ、最高級鉄板焼き、米兵器の“爆買い”とトランプ大統領の“貢ぐ君”と化した安倍晋三首相。だが、その裏で米国を巻き込んだ憲法改正、野党分断などの日本改造計画が着々と進行していた。本誌が入手した在米日本大使館の報告書に記された米国の本音とは──。
 訪日中のトランプ米大統領は「日本は極めて重要な同盟国だ」と述べ、安倍晋三首相との5回目となる首脳会談に6日午後、臨んだ。
 安倍首相も「日米同盟の絆をさらに確固たるものにしていきたい」と応じたが、11月に発足した第4次安倍内閣の本丸はズバリ、憲法改正だ。
 政府筋は「安倍官邸は単なる9条3項の自衛隊の明記にとどまらず、『国際平和に貢献するために』という文言を付記して、自衛隊が海外で自由に集団的自衛権を行使できるという解釈にしたい」と明言する。
 元外務省国際情報局長の孫崎享氏も「米国が求めるように自衛隊を海外派遣できる環境づくりに北朝鮮の存在は絶好のチャンス到来だ」との見解を示す。
 総選挙後、在米日本大使館がまとめた内部文書を本誌は入手した。
《改憲勢力が発議可能な3分の2を確保した総選挙結果は米国には大歓迎の状況だ。むしろ米国が意図して作り上げたとみていい。民進党を事実上、解党させて東アジアの安全保障負担を日本に負わせる環境が改憲により整う非常に好都合な結果を生み出した》
 そして《日本が着実に戦争ができる国になりつつある》と分析。こう続く。
《米国には朝鮮有事など不測の事態が発生した時に、現実的な対応が出来る政治体制が整う必要があったが、希望の小池百合子代表が踏み絵を行ったのは米国の意思とも合致する》
 前出の孫崎氏は、16年6月に撮影されたラッセル国務次官補(当時)と森本敏元防衛相、小野寺五典防衛相、前原誠司前民進党代表、林芳正文部科学相、西村康稔官房副長官、自民党の福田達夫議員、希望の党の細野豪志、長島昭久両議員、JICA前理事長の田中明彦氏らが安全保障について話し合った国際会議「富士山会合」の写真を示しつつ、こう解説する。
「米国の政策当局者は長年、親米の安倍シンパ議員や野党の親米派議員らに接触、反安保に対抗できる安全保障問題の論客として育成してきた。その結果、前原氏が民進党を解体し、同じく親米の小池、細野、長島各氏らが踏み絵をリベラル派に迫り、結果として米国にとって最も都合のよい安倍政権の大勝となった」
 安倍官邸は圧勝した総選挙で、いかにも日米同盟によって北朝鮮問題が解決するかのような幻想を振りまいたが、先の在米日本大使館の報告書には“本音”と思われる記述もあった。
《むしろ、心配な点はイラク戦争に向かった当時と現在の朝鮮有事とでは、比べようがないほど米国民は関心がない。日本や韓国が(軍事)負担を負うことが確実にならない限り、米国は軍事行動には踏み切れないのではないか》
 安倍首相はトランプ氏との“蜜月”を武器に来年秋の総裁選3選を確実にさせ、「当初の東京五輪勇退の意向から、21年9月の任期いっぱいまで政権を全うする」と周辺に強気に語っているという。
 11月10日にも加計学園の獣医学部新設が認可され、安倍首相の「腹心の友」である加計孝太郎理事長が会見する段取りだという。
「森友問題は近畿財務局のキャリア官僚の在宅起訴で手打ちとし年内に両疑惑ともに終息させるつもりです」(官邸関係者)
 そして18年中に国会で改憲発議、19年春には消費増税先送り表明、同7月に参院選と同日の改憲国民投票のシナリオを描いている。
 米国の共和党系政策シンクタンク勤務経験もある外交評論家、小山貴氏はこう怒る。
「こんなときにトランプ氏とのんきにゴルフをしている安倍首相自体、リーダーとして世界の嘲笑の的です。安倍政権は日米同盟を堅持するため、憲法9条をいじり改憲で自衛隊を海外派遣したいのでしょうが、政策の優先順位が違う。国民生活無視の政治を続けるなら即刻辞めるべきだ。国民を馬鹿にするのもいい加減にしてほしい」
(本誌・村上新太郎)