衆院選の前に徹底検証―アベノミクスと原発政策―『週刊女性』
【週刊女性】10月31日号 迫る衆院選の前に徹底検証 アベノミクスで庶民の給料が上がらなかったワケ
’12年12月に誕生した第2次安倍内閣。その成果を経済面から見てみると、アベノミクスによって好景気をもたらした反面、庶民の実質賃金は低下、生活は悪化する事態に。ここでは、そんなアベノミクスを振り返るとともに、気になる消費税の行方についても検証していきます。
―好景気、人手不足なのに庶民の給料が上がらないワケ
株価は依然として高値をキープ。就職率は上がり人手不足が目立つほど雇用環境は改善されたのに、なぜか厳しい庶民のフトコロ。安倍首相が「道なかば」と訴えるアベノミクスは、5年近くたっても私たちに恩恵をもたらしていない。
経済アナリストの森永卓郎さんが解説する。
「アベノミクスは『金融緩和』『財政出動』『成長戦略』が3本の矢として放たれた結果、金融緩和が最大の効果を上げました。民主党政権末期と比べれば一目瞭然ですが、日経平均株価は2倍半に上がり、1ドル79円という超円高だったのが110円台ぐらいまで戻り、景気動向指数も全体としては上昇傾向。景気はよくなり、経済のパイも増えました」
ところが、安倍政権下の5年弱の間に、実質賃金は3%も下がっている。
「パイが大きくなり、経済全体としてはすごくよくなっているのに、庶民の生活はむしろ悪化している。庶民の取り分は小さくなってしまった。ならば、成長の成果はどこへ行ったのか? 答えは、企業の内部留保。’17年まで5年連続の増加、つまり安倍政権になってから、企業はとてつもない儲けを貯め込み続けているんです」(森永さん)
今年3月末に厚労省が発表した法人企業統計によれば、企業の内部留保は406兆円で過去最高に。
「そのうち211兆円が現預金、つまりキャッシュ。企業の役員報酬は利益に連動するようになっていて、いちばん儲けのネタになっているのは『ストックオプション』。新株引き受け権といって、株価が上がるとその差額がフトコロに入ってくるんです。金を貯め込むと、企業の価値は上がりますから株価も上がってもうかる仕組みです」
株式の譲渡益や配当、不動産の譲渡益で収入を得ている富裕層に恩恵は集中。
「不動産価格もアベノミクスで上がりました。結局、大企業と富裕層が成長の成果をごっそりもっていったというのが、アベノミクスの末に起こったこと」
こうして格差は拡大していく。金融広報中央委員会の『家計の金融行動に関する世論調査』(’16年)によれば、預貯金をいっさい持たない「貯金ゼロ世帯」は2人以上の世帯で30.9%、単身世帯では48.1%に達している。
「これを解決するにはひとつしかない。企業と富裕層から税金をとって、庶民にばらまくことです」
一方で自民党は、消費税の10%増税分の使い道を見直し、幼児教育などに充てると公約に掲げている。消費税は所得が少ない人ほど負担が増す「逆進性」があると言われており、食料品などの生活必需品の税率を低く抑える軽減税率も、まだ導入されていない。
「消費税は霞ヶ関の役人はみんな上げたがっています。なかでも財務省は絶対に上げたい。希望の党をはじめ凍結や中止を公約にしている政党もありますが、相当に強い力で財務省を抑え込めるか、疑問が残ります」
■消費税をめぐる安倍首相の発言
◎消費税8%への引き上げにあたり、「消費税収は社会保障にしか使わない」(’13年10月)
◎消費税10%への引き上げ延期、衆院解散の際、「再び延期することはないと断言する」(’14年11月)
◎「リーマン・ショックや大震災のような事態が発生しない限り実施する」(’16年3月)
◎消費税10%への引き上げを’19年10月に再延期すると表明、「これまでの約束とは異なる新しい判断だ」(’16年6月)
◎消費税10%の増収分の使い道を変更、幼児教育無償化に回す方針を打ち出す一方で、「リーマン・ショック級の大きな影響、経済的な緊縮状況が起これば(再々延期を)判断しなければならない」(’17年9月)
【週刊女性】10月31日号<安倍政権の原発政策>進む再稼働、住民を切り捨て隠蔽した事故被害
世界的な「脱原発」の動きに逆行しているとも言える、安倍政権の原発政策。4年10か月に渡る安倍政権下で推し進められてきた再稼働の実態と、それに抵抗する人びとの声を被災地からレポートします。
10月10日、くしくも衆議院選挙の公示日に、福島地裁で『生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟(生業訴訟)の判決が出た。福島第一原発事故によって被害を受けた福島県、また隣接する宮城県、茨城県、栃木県の住民およそ3800人が起こした注目の裁判。判決は国や東京電力の責任を全面的に認める内容だ。勝訴を受けて、弁護団事務局長の馬奈木厳太郎弁護士は「国難突破判決だ」と言い切る。これまでの自民党の、そして安倍政権の原発政策に疑義を呈するものだ。
公示日のこの日、安倍首相は福島市佐原の小さな空き地で第一声をあげた。同日、同じ市内にある福島地裁で、原発事故をめぐって国と東電の責任を問う判決が出るにもかかわらず、演説の中で被害者に対して言及することなく、復興をアピールし、衆院選の争点に掲げる少子化問題や北朝鮮の脅威の話題に終始した。
4つのプレートが重なり、2000以上の活断層がある日本。狭い国土に事故当時、54基もの原発が立ち並んでいた。そこで進められてきた安倍政権の原発政策、原発事故対応とは、どのようなものだったのか。
’12年12月に発足した第2次安倍政権は、スタート早々から前・野田政権が掲げた「原発ゼロ目標」を見直す発言が相次いだ。’14年4月には、新たなエネルギー基本計画(第4次計画)を閣議決定、原子力発電を「重要なベースロード電源」と定めた。原発による電力供給率は’12年当時、約2%。だが新計画を受けて、「長期エネルギー需給見通し」には、2030年までに20〜22%を目標と明記されている。そのためには約30〜40基の原発が必要となり、原発寿命を40年から60年へ延長するほか、新設やリプレース(建て替え)が欠かせない。ドイツやスイスをはじめとする世界的な「脱原発」の動きに逆行している。
今月4日には、新潟県にある東京電力柏崎刈羽原発6・7号機について、原子力規制委員会が事実上の「再稼働合格」を出した。福島事故を起こした東京電力の原発では、事故後、初めてのことである。立地する新潟県の米山隆一知事は9月に福島原発の事故検証委員会を立ち上げたばかり。米山知事は「福島事故の検証に3、4年かかる」と明言し、検証中には再稼働に同意しない考えだ。
その新潟県には、今なお2800人以上の避難者がいる。福島県郡山市から新潟市に避難し、柏崎刈羽原発差し止め訴訟の原告でもある高島詠子さん(48)は、こう訴える。
「2度と子どもたちを危険な目にあわせないため、何としても原発を止めたいと原告になったが、審査合格と聞いて、悔しさと不安と、行き場のない怒りが湧いた。原発自体が怖い存在なのに、稼働までしたら何のために避難したのか」
再稼働を進める一方で、安倍政権は原発輸出にもいそしんできた。’14年にトルコ、アラブ首長国連邦、’17年にはインドと原子力協定を締結。事故収束が見通せず、いまだ被害に苦しむ人々がいる中での原発輸出には疑問の声が多い。
事故対応に目を転じてもさまざまな問題が浮き彫りになる。’13年のIOC総会で、東京招致をアピールするために語った安倍首相の「アンダーコントロール」発言は、原発事故被害者からあきれと怒りを買った。いまなお溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の全体像は不明であり、原子炉建屋に流れ込む大量の地下水によって汚染水は増え続ける一方。遮水効果がはっきりしない凍土壁も、専門家からは「コストがかかるだけ。ほかの方法を」という声が上がっている。
原発に詳しい科学ジャーナリストの倉澤治雄さんは、
「事故の原因究明は行われず、東電の刑事責任追及もなされていません。また、低線量被ばくの問題も未解明で、避難計画の策定も不十分です。こうした中で、国民の3分の2が脱原発を望んでいます。’15年に、ドイツのメルケル首相が来日し、安倍首相との会談で“ドイツは原子力から撤退する。日本も同じ道を歩んでほしい”と訴えましたが、安倍首相は“安全審査を終えた原発は再稼働する”とかわしてしまいました」
民主的に脱原発を進めたドイツの対応とは対照的に、日本の原発政策は、問題の先送りばかりが目につく。
「1979年に事故を起こしたスリーマイル島原発は廃炉に最長でも140年以上かかると見込まれています。福島の廃炉に30~40年という見通しは甘い。何より、原発から出る高レベル放射性廃棄物はレベルが下がるまで10万年を要する大仕事です。将来世代にまで解決不能な負担を負わせる原発をいつまで続けるのか、いまこそ深く考えるときです」(倉澤さん)
原発事故による被害者への対応はどうだったか。
’15年に出された復興政策の指針、「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」改訂版には、政権の姿勢が如実に表れている。自主避難者への政策はひとつも描かれず、営業損害に対する賠償の事実上の打ち切り、強制避難者の帰還政策が打ち出された。’17年3月には、自主避難者への借上住宅供与の打ち切りを敢行、いまだ放射線量が下がりきらない居住制限区域の避難指示を一気に解除した。これに連動し、慰謝料も次々と打ち切っている。
また、住民にとって被ばく低減に必要な除染は1度終われば「除染完了」とされ、局所的に放射線量が高いホットスポットが見つかっても、「1日じゅう、そこに居続けるわけではない」として例外を除き再除染しない方針だ。除染によって出た汚染土は、完成のめどのつかない中間貯蔵施設予定地に前倒しで運び込まれている。
安倍政権は、「被災地に寄り添う」と言いながら被ばく影響への不安や郷里への思いを抱えた被害者をふみにじり、無視してきた。
声を上げ意思を示すことで変えられる
そんな中、国と東電の責任追及と被害の救済を求めた裁判が全国各地で提訴、今年6月には前橋地裁、9月には千葉地裁で判決が出た。そして前述のとおり、今月10日には福島地裁で生業訴訟の判決が出た。
10日の判決直前、応援に駆けつけた群馬県の原発避難者訴訟・原告、丹治杉江さん(60)は、「公示日に判決が出るのは運命的。勝たなければ日本の正義は終わると思う。本当に苦しい状況にある被害者は、ここ(裁判)には来られないんです。裁判に来られない人、これから生まれる人に少しでも負のリスクをなくしたい」と思いを語っていた。
生業訴訟の判決では、国は’02年の段階で原発敷地の高さを超える津波を予見できており、その対策を命じていれば事故を防げたとして、原発事故における国の過失を認めた。
原告らは、「自分たちだけの闘いではない」としきりに訴える。福島県民200万人の被害、さらには福島県を超えて被害を認めさせることを目指している。実際、今回の判決では福島県外の被害が認められ、救済の範囲が広がった。また原告らは、この判決で終わりにせず、これをテコに被害者救済について政策への反映を求める方針だ。
判決後、原告団長の中島孝さん(61)はこう話した。
「われわれが目指すのはやさしい社会です。痛みがある人に心を寄せる。でも、今の政治状況はそうなっていない。そのことが今回の生業訴訟の判決に表れていると思うんです。衆院選の公示日にこの判決が出たのは“原発事故は終わっていない”と強いメッセージを発したと思う。事故は終わっていないんです」
前出・馬奈木弁護士は判決の意義を次のように語る。
「今回の判決は、原発を運転し、津波の発生が予見できたのなら、事故が起きないよう万全の体制をとらなければならないことを認めた判決です。この当然のことを、国や東電は放置してきた。国や企業のありようを問う意味でも重要です。
また、この判決のもうひとつの意義は、被害者が被害者のままで終わらず、自ら声を上げることによって尊厳と権利を勝ち得るのだというところ。原発に限らず、社会に存在する多くの課題は、私たちひとりひとりが声を上げれば変えられる。そのメッセージがたくさんの人に伝わればと思います。大事なことは自らの意思を示すことです」
取材・文/吉田千亜 フリーライター、編集者。福島第一原発事故で引き起こされたさまざまな問題や原発被害者を精力的に取材している。近著に『ルポ 母子避難』(岩波書店)