チーム・アホノミクスの下心は、21世紀版大日本帝国を構築すること
【ビッグイシュー日本版】№318号 ビッグイシュー創刊14周年記念インタビュー
アベノミクスの失敗が明らかになるなかで、「アベノミクス批判の総括と、これからの市民経済」などについて、佐野章二(ビッグイシュー日本共同代表)がインタビューした。
―アホノミクスは自己崩壊経済政策を“手段化”日銀を子会社にする暴論!
〈佐野〉一昨年9月に日本の中央銀行恐慌の危険性、昨年はミイラ化していく経済状況に市民が”白い地下経済”を作る話をしていただきました。参院選挙で自民党が単独で3分の2を取り、野党惨敗の直後でした。しかし、ここにきて支持率が急落しています。
〈浜〉一年経てば、大違いですね。
〈佐野〉安倍政権はアベノミクスを売りに支持を集めてきましたが、浜さんの予言、予測通り、その失敗が国民の目にも明らかになった。最近のご著書では、この状況を“ク全面崩壊”や”断末魔”と言っておられるんですが改めてそこに至る経過と、これをスタートに、これからどうするのカということをお聞きできればと思っています。
〈浜〉やっぱりこうなると、つくづく思いますね。この何年かの間、言い続けてきたことですけれど、アホノミクスの”断末魔”の状態は、最初から決まっていたことです。アホノミクスは経済政策で絶対にやってはいけないことをやり続け、その結果、自己崩壊している。やってはいけないことは何だったのか?これも今までの振り返りになりますけれど、チーム・アホノミクスの基本スタンスは、経済政策を自分たちの野望・企み・下心を実現するための手段として徹底的に使うということだった。彼らの下心は、21世紀版大日本帝国を構築すること。今年の施政方針演説で安倍さんは「世界の真ん中で輝く国創り」を目指すと言っている。驚くべき世界制覇宣言です。要は21世紀版大日本帝国および広域大東亜共栄圏の構築を目指しているわけです。そのための経済的基盤づくりの装置としてアホノミクスが位置づけられている。そのようなアホノミクスは、経済政策の本分、その本来の役割とはまるで無関係な世界の代物です。
〈佐野〉はい。私には、時代錯誤の究極の誇大妄想に思えますが。
〈浜〉経済政策の使命は二つあります。一つは経済的均衡の保持とそれが失われた時のその復元。そしてもう一つは弱者救済です。アホノミクスは、今、これらの本来のミッションを追求せず、経済政策を手段化したことに対する経済活動からの報復を受けている。日本銀行(以下、日銀)も、チーム・アホノミクスの出先機関として働いてきたことへの逆襲を受けている。なぜなら、金融資本市場は完全に死んでしまい、金利が動かないので投資家も入ってこない。債券市場短期の金融市場も開店休業。経済の均衡が崩れるどころか死に体になっている。
この状態をもたらしてきたのは、日銀による国債の大量購入です。ところが、これさえ続けることには限界がきている。なぜなら、ここまで日本国債という名の不良債権を抱え込んでくると、日銀の財務破綻が心配になってくるからです。このまま日銀が国債を買い続けるには、別の枠組みが必要になってきた。そこで、驚くべきことに、安倍首相本人が、「政府と日銀の関係は親会社と子会社の関係のようなものだから、連結決算でいいわけだ」ということを言い出しています。
つまり、制度的に日銀を政府の支配下におき、政府の言うなりに政府にカネを提供する機関にしてしまおうというわけです。そうしてしまえば、政府と日銀の会計はドンブリ勘定化する(「=連結決算」というわけです)から、日銀の財務の痛み具合が人々の目に見えなくなってしまう。このような方向に国の体制を持っていこうとしている。それが今のチーム・アホノミクスの構えです。中央銀行が政府の子会社になるなどということが制度化されてしまえば、これはもはやファシズム体制以外の何物でもありません。
―経済をこわす経済政策超・要警戒!財政と金融の一体運営による統合政府部門の構築?!
〈浜〉このようなとんでもない発想をチーム・アホノミクスが露骨に前面に出してくるのも、それだけ焦りが大きいことの表れでしょうね。政治の下心が経済の逆襲を受けて、何かと物事が思い通りには運ばない。そのことに業を煮やして、過激な言動をついつい前面に出してしまう。窮鼠猫を噛もうとして跳ね回る。そういう感じになっているのだと思います。危険な状況ですね。
政府と日銀の会計をドンブリ勘定化するという体制を、彼らがいかにももっともらしい言い方で話題にし始める可能性があります。それは「財政と金融の一体運営による統合政府部門の構築」という言い方です。これが出てきたら要注意。この枠組みを構築した上で、「働き方改革」を通じて我々を“21世紀版大日本帝国会社”の忠実なる臣下に仕立てあげていく。これが彼らの目論見なのだと思われます。超・要警戒です。「働き方改革」とのかかわりで、同様に要警戒なのが彼らによるシェアリングエコニミーの薦めです。この言葉には、一見ビッグイシュー的な雰囲気がありますよね。シビックエコノミーに近そうなイメージがある。本当のシェアリングエコノミーは実際にそのようなものであるはずですが、これもチーム・アホノミクスの手にかかるととんでもない化け物になってしまいそうです。この点とのかかわりでは、このところ話題になっている高度プロフェッショナル制度の導入構想も大いに気がかりです。
〈佐野〉まず、日銀を子会社化する、財政と金融を一体化する、しかもそれを制度化するとなると、日銀法あるいは財政法を変えなければならない。安倍政権は今3分の2の議席を持つので、強行突破をすればできる。でも、そんな簡単にいくものでしょうか。
〈浜〉今のような支持率急落の中で、中央突破はなかなか難しいと思います。けれど、「今、『経済最優先』で難局を脱していくには、財政を十分に出動させる必要があるので、危機突破のための緊急対応として財政と金融の一体化をせざるを得ない」という話の持ち出し方はあるかと思います。
〈佐野〉財政と金融の一体化が緊急対応になる?
〈浜〉もちろん、そんな言い方にだまされてはいけません。財政と金融の一体化が進めば、上記の通り、日銀は打ち出の小槌となって、政府の言うがまま金を振り出すことを強いられることになる。そうなれば、日銀も、それこそ政府も市場からいなくなって、談合でみんな決められる。国家予算も編成されなくなる。これは完全なるファシズム体制です。
〈佐野〉巨大な談合経済システムとも言えますね。安倍政権は今、お友達のために税金や政治を私物化して批判されていますが、それに数百倍輪をかけた談合、あるいは権力による私物化をしようとしている。
〈浜〉フランスのマリーヌ・ルペンも「国の国債発行が金融市場の都合とか思惑に振り回されて、財政がやるべきことができないのはおかしい。だから、国債は中央銀行が直接引き受ける体制にする」と、同じことを言っていた。ファシズム志向を持っている人や政治集団は必ずそんなことを言う。ファシズム国家では必ず中央銀行を御用銀行化しますからね。「これぞ、財政再建、デフレ脱却のための奥の手1」という言い方をしたり、クリストファー・シムズさんが提唱する「シムズ理論:物価水準の財政理論」を、チーム・アホノミクス流に、「意図的無責任財政の薦め」と解釈して、「これが最先端経済理論です。日本が他国に先行してやっていることだから、もうしばらくおつき合いください」という言い方を本格的に前面に出してくる可能性もある。こんな言い方をすると、彼らに悪知恵をつけることになってしまっていけませんが(笑)。
(中略)
〈浜〉結局、国家という装置の最終的な役割は弱者救済です。弱者救済のための公助ですね。自助できない人たちの生きる権利、人の生存権を保障すること。国家という…機関は、それができてこそ存在することが許される。そういうことだと思います。国家の存在が限りなく希薄化するグローバル時代においても、この役割は国家に託されるはずだと思います。逆にいえば、それができないようなら、グローバル時代において国家に存在意義はない。
〈佐野〉弱者救済のための公助が、国家の本分、役割なんだと市民がはっきりさせればいい。長時間、本当にありがとうございました。