加計「総理の意向」「うそ」放置は許されない-―琉球新報
【琉球新報】6月17日<社説>加計「総理の意向」「うそ」放置は許されない
調査結果が食い違うのは、どちらかの調査に「うそ」があるからにほかならない。自浄能力のない組織に任せることはできない。あらゆる手だてを尽くし、真相を徹底解明すべきだ。
安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画の記録文書を巡り、文部科学省と内閣府の調査結果が異なっている。両者の調査が不十分なことの証しである。
文科省は再調査で「総理の意向」と記された「内閣府の回答」文書や、「官邸の最高レベルが言っている」との記述がある「内閣府からの伝達事項」文書の存在を確認した。だが、担当の課長補佐は「総理の意向」について「発言者の真意は分からない」としている。発言の真意が理解できないとは、にわかには信じ難い。
一方、内閣府は職員への聞き取りで「総理の意向」などと「発言した者はいない」と結論付けた。
事実は一つしかない。文科省、内閣府の言い分の食い違いはあまりにも醜い。いずれかの職員が事実を覆い隠していることは明らかだ。
国家公務員法は「すべての職員は国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務」することを求めている。関係職員は「一部の奉仕者」であってはならないことを改めて認識すべきだ。国民に「うそ」をつき通すことは許されない。
「総理の意向」の真偽が不明なままで、幕引きにしてはならない。菅義偉官房長官が言う「怪文書」ではなかったことで、行政への圧力があった可能性は高まった。問題の核心部分である獣医学部新設に「総理の意向」が働いたのかとの疑惑を放置することがあってはならない。行政がゆがめられたと証言した前川喜平前文科事務次官をはじめ、関係者の証人喚問の早期実施は当然だ。第三者機関の公正な調査も必要である。
文書問題で浮き彫りになったのは、安倍政権の隠蔽(いんぺい)体質だ。その責任は厳しく問われなければならない。
文書発覚後、不十分な調査で幕引きを図り、再調査を否定した松野博一文科相だけではない。文書を怪文書扱いした菅官房長官、内閣府での再調査を拒んでいた山本幸三地方創生担当相の責任も重大である。どう抗弁しようとも、真相究明に後ろ向きだった事実は覆らない。閣僚失格だと断じるほかない。
「総理の意向」文書の存在が確認されても、安倍首相は獣医学部新設計画に関して「個別具体的に指示したことはない。法律にのっとった意思決定だったことに一点の曇りもない」と述べている。
安倍首相は「文書は確認できなかった」との文科省のずさんな先月の調査を正当化していた。自らの関与を否定する安倍首相の言葉を信じる国民が現時点で、どれだけいるだろうか。
【しんぶん赤旗】6月16日〈潮流〉告げ口すすめる法案いらない
告げ口すすめる法案いらない、国民なめるな、独裁許すな、野党がんばれ――。個が集まり、一つの大きな怒りの声となって夜半の国会前に響き続けました▼委員会の審議と採決をすっ飛ばしての強行。自民、公明の与党は、奇策というより禁じ手で共謀罪法案を無理やり押し通しました。数々の疑惑封じと公明への配慮のために。委員会の委員長を務めた公明は紛糾、採決を主導したようにみられるのを嫌がったと▼国民を徹底的に弾圧した治安維持法を適法だったという法相のもとで成立した共謀罪。漫画「ちはやふる」の作者、末次由紀さんもツイッターでつぶやいています。「こんなに権力が信用できず気持ち悪いと思ったのはこれまでで一番です。私たち、バカにされすぎではないか」▼2013年、特定秘密保護法。15年、戦争法。そして今回。この政権はどこまで日本の立憲政治を壊し、民主主義を退化させようとするのか。その先にあるのは、9条の改悪と戦争への道です▼徹夜で抗戦した野党の背を押した市民の声。逆流とのたたかいのカギを握るのは両者の共闘です。不安ばかりの安倍政権を倒すためにも野党は結束して新しい政治の姿を示してほしい。SNSの呼びかけで国会前に来た30代の若者はいいます▼噴き出す疑惑には恥もなく、やりたいことは国民の反対にも耳を傾けずに突っ走る。こんなむちゃくちゃな政治をいつまで。怒りを力に立ち上がる、何度でも。この国をつくり変えていくのは、私たち一人ひとりです。
【文春オンライン】6月17日 あなたにも「老人地獄」が待っている
高齢化社会が急速に進み、介護が社会問題化している。そんな中、負担の大きい有料老人ホームに代わって、“救いの施設”と化しているのが「無届け有料老人ホーム」だ。しかしそこには劣悪な環境下で暮らす、貧困に喘ぐ老人達の実態があった。朝日新聞経済部記者の松浦新氏が、決して他人事ではない「老人地獄」を語る。
(出典:文藝春秋オピニオン 2017年の論点100)
介護に悩む家族の“救いの施設”「お泊まりデイ」の実態
埼玉県東部の住宅街に築40年近い2階建ての一軒家がある。2月の寒い夜、その1階の部屋に入れてもらった。
そこでは、60歳代から100歳近い男女10人が雑魚寝をしていた。3部屋のふすまを取り払ってつなげた20畳の部屋を取り巻くように眠る。通路になる中央部分の畳には、汚物を吐いた痕が大きな染みになっていた。畳はあちこちがすりきれて、ガムテープがはってある。
ここは介護が必要な老人を昼間にあずかるデイサービス事業所なのだが、夜になっても自宅に帰さない「お泊まりデイ」と呼ばれる類の施設だった。私たちは多くのお泊まりデイを取材したが、何年も家に帰っていない老人がたくさんいた。
デイサービスを提供する事業者には、利用者が昼間に利用すれば、要介護度によって介護保険から1人1日1万円前後が入る。お泊まりを夕食と朝食つきで1泊2000円程度で提供しても、介護保険サービスを確保できれば安定した事業ができる可能性がある。お泊まりは昼間のサービスの「おまけ」なのだ。
一方、介護に悩む家族には、おまけのほうが魅力になっている。都市部の有料老人ホームなら月20万円はかかる。お泊まりデイなら月10万円程度の自己負担で暮らせるため、「格安」の費用で老人をあずけられる救いの施設なのだ。
こうした需要を見込んで、お泊まりサービスのノウハウを提供するチェーンもある。そのひとつ「だんらんの家」の研修資料には、1カ月の売上高が約400万円になる事例が紹介されている。家族数人で住んでいた民家を借りてほとんど改装せずにこれだけの売上高が確保できると聞けば、やりたくなる人もいるだろう。
格安だが劣悪な無届けホームが急増
一戸建てを転用しやすいデイサービスは定員10人までの「小規模型」で、2016年3月時点で全国に約2万4000ある。デイサービス全体の数は約4万3000なので半数を超える。厚労省の統計がある06年度末には約8000事業所で全体の4割程度だったが、他業種から参入しやすいこともあって急激に伸びた。厚労省の13年度の調査によると、小規模型の24%がお泊まりサービスを提供していた。
こうして、空き家になっていたかもしれない一戸建てが、即席の「介護施設」に変わる。同様に、民家が使われるのが「無届け有料老人ホーム」だ。
私が取材した愛知県の施設は築40年のどこにでもある一戸建てだが、正面に「入居者募集」と書かれた看板があった。パンフレットには1階に3部屋と2階に2部屋があり、それぞれベッドが2つずつ描かれている。実際に見学した人によると、部屋は6畳程度で、入居者の荷物が段ボール箱やビニール袋に入れられて床に置かれ、足の踏み場も無かった。入居者には末期ガンの人もおり、ベッドで点滴を受けていたという。
こんな施設でも有料老人ホームとして届け出ていないため、建前は普通のアパートと変わらない。地元市役所はことあるごとに立ち入り調査を求めているが、施設側はなかなか応じないという。
厚労省も、こうした無届けホームの調査はしている。16年4月に公表した無届けホームは14年10月時点より約700カ所も増えて1650施設になった。無届けホームが問題になり、例年の調査に追加調査をした結果だが、同年9月、総務省行政評価局はさらに届け出を促進するよう厚労省に勧告した。
実は、行政は無届けホームを把握している。生活保護などを扱う福祉部局が、これを必要としている面があるためだ。
正式な有料老人ホームには、部屋や廊下の広さ、消防設備などで様々な規制があるため、地価が高い都市部を中心に、料金設定を高くしないと経営が成り立たない面がある。生活保護には支給の限度額があるため、都市部では10万円程度で入ることができる無届けホームが「必要悪」になっている。
貧困層でなくても老後は危ない
このため、きちんとした有料老人ホームに安く入るため、住み慣れた町や家族と離れて住む老人も増えている。
09年、群馬県渋川市の無届け施設「たまゆら」で、入所者10人が死亡した火事をきっかけに、東京都は2年ごとに生活保護受給者の施設の利用実態を調べている。14年の調査によると、有料老人ホームなどの利用者は5000人を超え、09年の5倍近くに増えた。このうち3820人は茨城県、群馬県など都外の施設で暮らしている。
生活保護受給者でなくても、月10万円を出すことは難しい。国の年金は、厚生年金がある人でも平均受給額は月約10万6000円しかない。ここから医療と介護の保険料が天引きされる。施設に10万円を払うと何もできなくなる。国民年金の人は満額でも6万4000円程度しかないので、無届け施設にも入れない。
ぎりぎりで生活しても、病気になると医療費で追い詰められる。都内に住んでいた老夫婦は、夫が厚生年金で約14万円を受け取り、仕事の収入も約15万円あった。13年に夫婦で大病を患い、夫が働けなくなったとたんに、貯金していた退職金の500万円はなくなった。医療費の自己負担に加えて、食事代、タオルやシーツの洗濯代、おむつ代などの「実費」を求められたためだ。
生活保護を受ける人のうち、現役世代は減っているが、65歳以上の高齢者は増え続けている。16年3月には生活保護を受けている約164万世帯のうち高齢者世帯が半数を超えた。核家族化が進んで、1人暮らしの老人は600万人を超え、その予備軍の高齢夫婦世帯は約750万世帯もある。ところが、財政の都合で介護保険は対象者を要介護3以上に絞る議論があり、国の年金は少しずつ減ることが決まっている。自立できない老人はまだまだ増える。老人地獄の口はまだ開き始めたばかりなのだ。
松浦新(朝日新聞経済部記者)