介護保険改悪は 「国家的詐欺」
【東京新聞】<社説>9月9日「『非正規』一掃」 本当に働く人のためか
安倍晋三首相が再改造内閣の「最大のチャレンジ」と位置付ける「働き方改革」の本格議論がスタートする。誰もが働きやすい社会が実現するのか-。具体策を示してもらわなければ、分からない。
「『非正規』という言葉をこの国から一掃します」
首相が何度も繰り返すこの言葉は、一体どういう意味なのか-。
増え続ける非正規労働者を減らすというのであればいい。
しかし、逆にもし正社員をこの国からなくし非正規という働き方が標準になれば、「非正規」という言葉はなくなる。そうならば恐ろしい。
焦点は雇用形態による賃金格差をなくす「同一労働同一賃金」と長時間労働の抑制とみられる。
日本では非正規労働者の全労働者に占める割合は四割近くに達する。正社員との賃金差も大きい。
非正規の賃金底上げや、福利厚生の向上、休日・休暇の取得などにつながるならいい。だが、こうした働く人に望ましい方向に議論は進むのだろうか。
欧州では、同一労働同一賃金が一般的とされるが、欧州と日本の雇用慣行は大きく異なる。
欧州では、仕事の内容に応じた「職務給」が一般的だ。対して日本の正社員は経験や仕事をこなす能力に着目した「職能給」が主流。長期雇用を前提とした年功賃金の枠組みの中で、職務の範囲は明確ではない。残業や転勤ができるかという点も考慮される。
欧州型の体系を導入すれば職務が限定的な職務給が主流となり、正社員は不安定化し、長期雇用の崩壊につながる恐れも考えられる。つまり「総非正規化」するのではないかと。
先進国で最悪レベルの長時間労働を抑制することは早急に取り組むべきだ。過労死はあってはならない。加藤勝信担当相は、残業時間の上限規制を検討する考えを示したが、当然でもある。
ただ、政府に本当にやる気はあるのか。というのも過重労働を促すとの懸念が強い「残業代ゼロ」法案の成立を目指しているからだ。長時間労働を是正するというのであれば、同法案も含め再検討するべきだろう。
これまでにも、派遣労働者を増やす改正労働者派遣法を成立させ、不当な解雇が増えると懸念される「解雇の金銭解決」制度を提案してきた経緯がある。
今回は真に働く人のためになる改革なのか。しっかりと、見極めていかねばなるまい。
【PRSIDENT Online】<連載コラム>9月8日「黒田バズーカ」限界でアベノミクス終焉のカウントダウン
「アベノミクスの果実」は急速にしぼんでいる
日本銀行が9月20、21日の金融政策決定会合で実施する金融政策の「総括的な検証」に俄然、注目が集まっている。焦点は8月で導入半年を超えたマイナス金利政策の評価にある。
しかし、目に見える効果は乏しく、一段と手詰まり感が強まっているだけに、日銀の次の一手が試される。8月26、27日、米ワイオミング州ジャクソンホールに各国中央銀行首脳らが参集した経済シンポジウムでの講演で、日銀の黒田東彦総裁は量、質、金利のいずれも「追加緩和の余地は十分にある」と強気な姿勢を崩さなかった。
マイナス金利の下限にも「まだかなりの距離がある」と述べ、マイナス金利政策の限界論を吹き飛ばした。市場関係者には「これ以上のサプライズは必要ない」と強気一辺倒の黒田総裁の姿勢に懐疑的な向きも多い。経済同友会の小林喜光代表幹事も「大きなサプライズを続けるのは意味がない。引くべきところに今きている」と指摘し、日銀への風当たりは強まる一方だ。
黒田総裁が「中央銀行の歴史の中で最も強力な枠組み」と豪語した今年2月に導入したマイナス金利を含む量的・質的金融緩和は、金融機関に企業や個人への貸し出しを促し、消費者物価目標2%の実現と経済押し上げを狙う。「デフレ脱却」を目指す安倍晋三政権には、黒田総裁が2013年4月の就任直後に打ち出した「異次元緩和」をはじめとする一連の「黒田バズーカ」は強力な援護射撃だった。
しかし、マイナス金利は「円安・株高誘導」への目論みも外れ、8月半ばには1ドル=100円を突破し、トヨタ自動車に代表される輸出型企業の収益に一段と下押し圧力が加わった。公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が公表した216年4~6月期の運用実績も、折からの株安から5兆2342億円の運用損と2期連続の赤字に陥り、安倍首相がことさら強調する「アベノミクスの果実」は急速にしぼんでいる。
日銀の引くに引けない大きなジレンマ
加えて、金融機関、保険会社の収益悪化を招き、副作用が際立ってきたのも現実だ。金融機関の体力低下で企業への融資姿勢が慎重になり、貸し渋りを起こすようなら、マイナス金利政策導入は不発に終わる。確かに、住宅ローン金利の低下や超長期社債の増加などマイナス金利による一定の効果はある。
しかし、ゆうちょ銀行は無料にしていた同行利用者間の送金について10月に手数料を復活するほか、運用困難でマネー・マネジメント・ファンド(MMF)が金融商品として姿を消すなど国民生活にも影響を及ぼし始めた。これではマイナス金利政策は当初の目的を外れ逆回転し出したと映る。
これに対し、黒田総裁は就任以降の金融政策について「総括的な検証」を表明するに至った。日銀は政府との連携を確認しており、量的・質的金融緩和は引き続きアベノミクスを支える。マイナス金利政策の一段の踏み込みは副作用が大きい。溯れば、マイナス金利政策は今年1月の日銀金融政策決定会合で審議委員の5対4の僅差で決まった。リフレ(インフレ喚起)派が押し切った薄氷の決定は、導入に伴う混乱の大きさを暗示していた。
一方、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は「米雇用が改善し、追加利上げの条件は整ってきた」と、9月の追加利上げの可能性も示唆しているだけに、日銀の出方が注目される。手をこまねくようなら黒田総裁が量的・質的金融緩和政策そのものの限界を自ら認め、金融政策頼みのアベノミクスの限界もさらけ出しかねない。日銀は「総括的な検証」に向け、引くに引けない大きなジレンマを抱えてしまった。
【しんぶん赤旗】8月10日<焦点・論点>介護保険改悪 なぜ「国家的詐欺」か 認知症の人と家族の会代表理事 高見国生さん 保険外し 特養閉め出し 認知症対策にも逆行
安倍内閣は、昨年実施した介護保険改悪に続き、さらなる制度改悪を計画しています。その多くが介護保険を利用する認知症の人と家族は、改悪でどんな被害をうけ、今後どんな影響が危惧されるのか。「認知症の人と家族の会」の高見国生代表理事に聞きました。(内藤真己子)
私たち「認知症の人と家族の会」は、2000年に介護保険制度ができたとき、介護を家族任せにしない「介護の社会化」の象徴として歓迎しました。ところが制度はどんどん後退し「国家的詐欺」とまで言われるひどいことになっています。
直近では2015年実施の改定で、(1)要支援1、2の訪問介護、通所介護を保険から外し自治体事業に移す(2)年金収入280万円以上の2割負担(3)特養ホーム入所を要介護3以上に限定(4)低所得の施設入所者への食費・部屋代の補助要件を厳しくする―ことが行われました。
議論の過程で、私たちは厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会において、本当にそれで良いのかと問いかけ、最終的には委員の中で唯一「反対」を表明しました。法案が国会に出されたため、初めて独自の反対署名に取り組みました。会員に受け入れられるか心配しましたが、反響は大きく、3カ月余りで約8万7000人分が集まり、厚労省に提出しました。
費用払えずに退所余儀なく
昨年末から会員に行った改定実施後の影響アンケートでは、生々しい弊害が浮き彫りになっています。なかでも施設の食費・部屋代補助の制限は被害甚大です。要介護5の妻が特養ホームに入所する60代の男性は月7・3万円の負担増になりました。「年金収入だけでは月1・5万円足らなくなる。仕方なく今年中に施設を退所させて在宅介護に切りかえるつもり」と、退所を余儀なくされる深刻さです。
特養ホーム入所が要介護3以上に限定されたことで、要介護2の、夫の親を在宅介護している60代の女性は、「入所できないならショートステイをできる限り利用していくしかない。ただ蓄えが尽きたらどうしたらいいのか。これ以上、家での介護は無理。私の体がもたない」と悲鳴をあげています。
こうした声を受け、私たちは4月、改定の撤回を厚労省に要望しました。ところが政府は改定を撤回するどころか、今後、要介護1、2の通所介護や訪問介護の生活援助、福祉用具レンタルを保険給付から外すことや、74歳までの2割負担などいっそうの給付抑制、負担増を検討し、来年の通常国会への法案提出まで計画しています。
いま、介護保険は重大な岐路に立たされています。「会」では今月末、これらを実施しないよう改めて厚労省に要望する予定です。
税金の使い方変えることで
期待した介護保険に暗雲がたなびき始めたのは、2006年に要支援1、2が作られたときです。「介護予防」と言いながら、実際は要介護1の大半を要支援にして、使えるサービス量を減らしただけです。小泉内閣が社会保障の自然増を毎年2200億円ずつ削っていった頃です。
そのあたりから「財源論」が前面に出てきました。「利用者が増えたから、サービスを減らすか、利用料をあげるしかない」と政府は言いますが、家計なら支出が増えたときは必要性の薄いところを削ります。リニア新幹線、米軍への思いやり予算…、必要性はどれだけあるんでしょう。震災復興財源でも、所得税は増税したままなのに、法人税はすぐに廃止されましたね。僕らは税の使い方や集め方で改善・工夫すべきところがあると考えています。それとともに介護保険への国の負担割合をあげるべきだと主張しています。
腹をくくってもの言うとき
認知症対策も大きな岐路です。認知症の高齢者は462万人、MCI(健常と認知症の中間状態)の400万人を合わせると、高齢者の4人に1人が認知症か予備軍といわれるなか政府は2015年、認知症対策の国家戦略「新オレンジプラン」を策定しました。
認知症の基礎知識を学んだ「認知症サポーター」は770万人を超え、来年は京都で国際アルツハイマー病協会国際会議が開かれ、日本の取り組みを発信します。認知症はすべての人にかかわる社会的課題という認識が強まっているのは、大きな前進です。
症状が初期のうちにプロが関わるのが大事だというのが「プラン」の精神です。医療や介護の専門職が早期に診断・対応する「認知症初期集中支援チーム」が18年度から全市町村に設置されます。また、認知症の人と家族が一緒に、専門家や地域の人と交流する「認知症カフェ」も重視しています。
ところが政府が進める介護保険の見直し計画では、「初期集中支援」や「カフェ」のあとの対応が途絶え、初期の人へのサービスに空白ができてしまいます。病気が進むのは目に見えています。早期の診断・対応が重要といいながら、要支援ばかりか要介護1、2までも介護保険の対象にしないという政府の方針は、どこから考えても理屈が立ちません。
“先に財政ありき”で社会保障予算の自然増を削るやり方に、福祉や医療にかかわっている人が声をあげるべきときです。厳しいところで頑張っている人がいま、ものを言わないといかんと思います。「こんなことやったら国民の反発を受けるぞ」と思ったら政府も考え直すでしょう。私たちが腹をくくって、この流れはあかんと、どれだけ言うかにかかっています。