こんな税金の使われ方なのに、さらなる増税など納得できない(東京新聞 社説)

2015年11月8日
【東京新聞】11月7日 <社説>こんな税金の使われ方なのに、さらなる増税など納得できない
会計検査院がまとめた国の二〇一四年度決算検査報告に国民が感じるのは怒りだ。/無駄遣いや不適切な会計処理など税金の使い方に問題があると指摘したのは、五百七十件、約千五百六十八億円に上った。しかし、これは「氷山の一角」である。会計検査院が対象とする国の省庁や、政府出資が二分の一を超える特殊法人などのうち、検査院が実地で検査できたのは主要な官庁でも半数に満たないからだ。
◆毎度の検査院報告
 毎年のことだが、無駄遣いのお粗末さや、官僚の無責任さに驚かされる。/例えば、経済産業省や厚生労働省など八省庁は、外部に公開しているホームページ(HP)などに、メーカーのサポート期間が終了したソフトウエアをそのまま使い続けていた。通常ならソフトのセキュリティー上の欠陥が見つかると、メーカーが修正プログラムを提供してくる。しかしサポート期間終了後は、欠陥があっても修正されない状態で、サイバー攻撃などで重大な影響が出る恐れがあった。/各省庁の担当者は、サポート終了の情報を知らなかったり、ソフトの情報を記した書類が未整備だった。外部業者の指摘などで事態を把握したが、約二年間もサポート切れの状態もあったという。年金情報がサイバーメールで外部流出する事件があったが、起こるべくして起きたのが実態ではないか。/莫大(ばくだい)な国費が投じられてきた東日本大震災の復興事業では、自治体に交付した資金のうち約二十九億円が過大と指摘された。見込み額で算定して適切に精算していなかったほか、対象事業以外の計上もあった。
◆法で縛るしかない
 財源は二十五年間に及ぶ所得税の特別増税など国民の長期の負担で賄う貴重なものだ。復興の名を借りて被災地以外の無関係な事業に予算を使う流用が厳しい批判を浴びたが、これも納税者の思いを裏切る「流用」である。/こうした不適切な税の使われ方に共通するのは、国や自治体職員の甘い意識である。国民が納めた貴重な税金を預かることの責任感や使命感が極めて薄いのではないか。増税や社会保険料引き上げなど国民は負担増ばかり強いられているが、その思いを十分に理解しているのであれば、無駄遣いもずさんな経理の処理もできるはずはない。/しかし、民間と違ってコスト意識が欠如している官僚は、予算獲得こそが省益であり、本来目指すべきはずの効率性や経済性とは真逆の「量の拡大」確保に血道を上げる。チェックするはずの国会も監視が緩い。/会計検査院は、主に国の決算を検査して無駄遣いをあぶり出し、再発防止に力を入れる。国民の関心が高いテーマに切り込むので納税者意識を高めるのにも貢献している。だが、完全な独立機関といいながら、予算は財務省が握る。むしろ諸外国のように国会の機関とした方が機動的になるとの指摘もある。もちろん会計検査院だけで日本の財政が抱える根深い問題を正すことはできない。/予算段階から無駄をあぶり出す必要があるとして、事業仕分けや行政レビューといった試みも続いてきた。当初予算では無駄と判断された事業が補正予算で「復活」するなど結局、決め手にはなっていない。/財政再建が困難なのは、究極的には政治家が自らを律する問題だからである。では、どうするか。財政危機に直面し再建に成功した国では、中期的に予算削減の拘束力を持つ制度改革や法制度をつくったり、独立した財政機関を設け、厳密な成長見通しを策定したりしてきた。/橋本(龍太郎)政権時に財政構造改革法が制定されたことがある。景気低迷で頓挫したが、それを轍(てつ)にして財政の原則を定める財政責任法といった法制度を再度つくるべきだ。
◆ルール欠かせない
 財政規律が緩むのは、安倍政権のように楽観的な成長見通しを立てることが典型だ。さらにシーリングなど予算要求の上限を設定するといったルールが欠かせないが、現政権には、そんなルールや原則もない。/国の借金は一千兆円をとうに超え、先進国で最悪の状態にある。財政立て直しには消費税増税が避けられないというが、こんなあきれる税金の使い方では到底納得できるものではない。/負担増を求める前に、やるべきことがあるはずだ。徹底した無駄の排除と、民間のように最小限の支出で最大限の効果を生むような血のにじむような努力である。

【日刊ゲンダイ】11月5日  支持率18%の衝撃…農家の怒りで再び浮上する「衆参W選挙」
「投票日は7月10日」─―。「衆参ダブル選挙説」が、また浮上している。「日本農業新聞」が行った世論調査の結果が、内閣支持率18%という衝撃的な数字だったこともあり、再び自民党内で“ダブル選挙”が取り沙汰されている。/ 苦戦必至の参院選を勝利するためには、衆参同日選に持ち込むしかない、という理屈だ。/ 「支持率18%という調査結果は大ショックです。日本農業新聞の読者は、ほぼ“自民党支持者”と重なる。参院選の勝敗を決する32ある1人区、農業県の有権者です。彼らは、安倍内閣が日本の農業を犠牲にするTPPへの参加を決めたことにカンカンになっている。このまま参院選に突入したら、農家の怒りを買い、自民党は惨敗しかねない。少しでも議席減に歯止めをかけるためには、ダブル選挙しかない、という声が強まっています。衆参の候補者がフル稼働すれば自民党は負けない、という計算です」(自民党関係者)
安倍官邸が、通常国会の召集日を1月4日にしようとしていることも、「ダブル選挙説」に拍車をかけている。参院選の日程は「6月23日公示、7月10日投票」が確実視されている。通常国会の最終日である6月1日に衆院を解散すれば、「7月10日」の同日選が可能になる計算だ。/  安倍官邸は、6月1日の会期末に「消費税率10%再凍結」を掲げて解散すれば、野党に圧勝すると計算しているという。実際、野党は選挙協力がまったく進んでいないだけに、ダブル選挙を打たれたら惨敗する可能性が高い。政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏がこう言う。/ 「ただでさえ弱体化している野党がバラバラに戦ったら、たとえ参院選単独でも、惨敗することは確実です。衆参ダブル選挙となったら壊滅しかねない。さすがに、小さな政党は危機感を強めていますが、野党第1党の民主党が、いまだに“あいつは嫌いだ”“こいつは気に食わない”と野党協力を拒否している。民主党はもう少し、危機感を持つべきです」/  野党がバラバラのままでは、ダブル選挙の可能性がどんどん高まっていきそうだ。

【現代アメリカ連邦税制】アメリカが消費税を導入しない5つの理由
レーガン政権期の財務省報告は、連邦付加価値税の導入可能性に関し、戦後のアメリカ政府が包括的に研究を行った代表例と言える。そこでは付加価値税を売上税の中で最もふさわしいと評価しつつも。付加価値税固有の短所として、①財政規模拡大(増税)の可能性、②物価上昇への影響、③州・地方政府からの反対(一般売上税を固有の課税領域とみなしている)、④逆進性⑤税務コストの発生(連邦売上税がないため全くの新税)の5つをあげている。特に後者2つの短所に対する懸念、すなわち、逆進性、税務コストの上昇への懸念を表明し、大規模な連邦付加価値税の導入には反対の姿勢を示していた。(関口 智著―東京大学出版会刊 pp.291-292)