バブル・「失われた30年」の原因に(「赤旗」)、藤田氏秘書会社に発注 疑念拭う説明が足りない(「毎日」)、維新・藤田文武氏による「嫌がらせ」に失望の声(「東京」)

2025年11月8日
【しんぶん赤旗日曜版】11月9・16日合併号<経済 これって何>「プラザ合意」から40年―バブル・「失われた30年」の原因に
 今年は「プラザ合意」から40年です。これは日本の長期にわたる経済停滞「失われた30年」の原因となりました。
 プラザ合意とは、1985年9月に米ニューヨークのプラザホテルで秘密裏に開かれた日米英仏と旧西ドイッの5カ国蔵相•中央銀行総裁会議(G5)でなされ、各国が為替市場への介入、金融政策の協調によってドル高を是正するというものです。為替市場への協調介入の結果、ドルが下落し、合意時の1㌦=242円から、88年には1㌦=120円台になりました。 
 この合意は、米国が自国経済の「双子の赤字」(財政赤字と貿易赤字)に対処するために、それまで放任してきた為替市場に介入をする姿勢を示したことで、G5各国がドル暴落とそれによる混乱を回避するために国際協調政策を実施することに同意したものです。 
 プラザ合意後の円高と長期にわたる金融緩和政策は、日本のバブル経済の起点になりました。日本では、ドル建てで借り入れた資金を円に交換して運用し、円高後に返済をするというマネーゲームが大規模に行われます。大企業や大銀行、投資家は海外で調達した資金を使って株式投機や不動産投機を行い、巨額の利益をあげ続けました。それが日本国中をバブルに巻き込み、異常なバブル経済化を生んだ理由です。国際協調を優先した政策がバブルの拡大と崩壊を生み、その後の「失われた30年」といわれる経済停滞を招いた原因になりました。
 急激な円高は、日本企業のコスト削減策(賃金抑制と下請け単価の切り下げ) を生み、次いで海外進出の拡大も招きました。急激な円高の進行と日米貿易摩擦に対応するため、日本企業は米国現地生産を増やし、東アジア諸国やメキシコ、カナダに進出して米国に輸出する迂回(うかい)生産も拡大しました。プラザ合意は、日本企業の本格的な多国籍企業の起点になり、国内生産の停滞と海外工場からの逆輸入の拡大を生みだす構造を作りました。
 他方、米国経済はドル安にもかかわらず、国内生産の停滞が続きました。その理由は、米国が多国企業化を踏まえた新たなグローバル化戦略をとり、米国企業の多国籍企業化が進み、逆輸入の拡大が続いたからです。グローバル化戦略は、米国企業が知觀産権を独占し号罰潤をあげられるようにする一方、実際の物づくりは低賃金の海外で行い、低德で米国に輸入するというもので、そのために世界貿易機関(WTO)を95年に創設しました。 
 その結果、米国では、途上国に移転可能な製造業は衰退し、輸入に依存するようになりました。普通の労働者は貧しくなる一方で知財の独占に基づく産業や金融業などは高利潤をあげ、米国の貧富の格差は拡大し、社会の分断が著しく進みました。トランプ政権は、グローバル化の責任を全て他国のせいにし、一方的な関税措置をとり、国内生産の拡大を目指しています。自国第一主義ではなく、多国企業の活動を管理していく国際的な仕組みこそが求められています。 
           増田正人(ますだ•まさと、法政大学教授)

【毎日新聞】11月7日<社説>藤田氏秘書会社に発注 疑念拭う説明が足りない
 政権与党の幹部に浮上した「政治とカネ」の問題である。説明を尽くさなければ、国民の疑念は拭えない。
 日本維新の会の藤田文武共同代表の事務所が、公設秘書が代表を務める会社にビラ印刷などを発注していたと「しんぶん赤旗日曜版」が報じた。
 2017~24年に総額約2100万円を支出し、このうち9割超の原資は、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)などの公金だったという。秘書は国から支給される給与とは別に、会社から年720万円の報酬を受けていたとされる。
 こうした契約が直ちに問題になるわけではない。ただ「身内」との取引はなれ合いになりがちで、価格の適正さが担保されにくい。受発注者のどちらかを利する可能性がある。
 公金からの支出であれば、なおさら公正さが求められる。維新が3親等内の親族への公金支出を禁止する内規を設けているのも、疑念を生まないためだ。
 しかし、会社の業務実態や、どれくらい利益を得たのかなど、明らかになっていない点は多い。
 藤田氏は今後この会社に発注しないと表明し、「誤解や疑念を招くという指摘は真摯(しんし)に受け止める」と述べた。そうであるならば、取引の詳細について説明責任を果たすべきだ。
 取材した赤旗記者への振る舞いも看過できない。名刺の画像をX(ツイッター)に投稿した。記者を威嚇し、取材活動を萎縮させる行為であり、許されない。
 秘書の会社には、維新トップの吉村洋文氏が代表を務める大阪府総支部も24年に「ビラ作成費」として約100万円を支出していた。党全体のガバナンスにかかわる問題となっている。
 維新では、元参院議員が国から公設秘書の給与をだまし取ったとして、詐欺罪で在宅起訴されるなど、不祥事が相次ぐ。
 連立政権を担う責任は重い。名ばかりの「身を切る改革」では、国民の政治不信を深めるだけだ。

【東京新聞】11月6日<こちら特報部>維新・藤田文武氏による「嫌がらせ」に失望の声 赤旗記者の名刺をSNSでさらし…立花孝志氏ばりの「犬笛」
 自身の公設秘書の会社への税金還流疑惑報道を巡り、日本維新の会の藤田文武共同代表が、取材した共産党機関紙「しんぶん赤旗」記者の名刺をX(旧ツイッター)に投稿した問題。藤田氏は4日の記者会見で問題ないとの認識を示したが、政権与党の政治家によるどう喝とも受け取れる行為に、本当に問題はないのか。(加藤文)
◆「記者個人への攻撃や嫌がらせの危険性が」
 問題の投稿があったのは10月30日未明。赤旗日曜版からの質問文に対する回答とともに、名刺の画像をXに投稿した。画像には記者名、所属部署、直通電話番号とファクス番号がそのまま記載され、記者の携帯電話とメールアドレスのごく一部を消していた。
公設秘書が代表を務める会社への支出について話す日本維新の会の藤田共同代表=4日、国会で(佐藤哲紀撮影)

 藤田氏は4日の会見で「携帯電話番号は消し、メールアドレスのドメインも消している。それ以外は住所も含めて公開情報だ」と述べた。だが、赤旗日曜版編集部によると、取材部門の電話やファクス番号は一般には非公表という。
 「記者個人への攻撃や嫌がらせを誘発する危険性がある。報道の自由を侵害する行為にほかならない」
◆「反論が目的なら名刺の投稿は不必要」
 赤旗は4日、藤田共同代表に対し、名刺画像の削除と謝罪を求める申し入れ書を提出した。
赤旗の申し入れ書
 日曜版編集部によると、5日夕までに、無関係の民間業者の問い合わせフォームに、名刺が公開された記者のメールアドレスを使って「日本維新の会に対する偏向記事を書かないで」などとメッセージを送ったとみられる自動返信が約5500件、記者のメールアカウントに送信された。日曜版編集部の直通番号に「記者を出せ」といった電話も30件以上あり、正常な業務を妨害されている。
 上智大の奥山俊宏教授(ジャーナリズム)は「赤旗の報道に対する反論が目的なら、名刺画像の投稿は不必要で、記者に対する嫌がらせ目的と疑わざるを得ない」と指摘する。
◆犬笛による「攻撃」は取り返しの付かない事態を招く
 政治資金の収支の公開は、政治資金規正法1条で「政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため」として制度化されており、名刺と併せて投稿した藤田氏の反論について「公開されているから適法だという理由だけで正当な批判を拒否するのは、まともな政治家のとるべき態度ではない」と批判した。
 名刺画像の投稿を巡っては、SNS上で「犬笛だ」などと批判が相次ぐ。犬のしつけに使われる犬笛だが、特定の層にしか分からない言葉で人々を特定の方向に導く政治的な意味合いでも使われる。
 犬笛による「攻撃」は、取り返しの付かない事態を招く。兵庫県の内部告発文書問題に絡む竹内英明元県議の死去だ。政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏を名誉毀損(きそん)容疑で刑事告訴した妻は今年8月の記者会見でこう訴えた。「夫は立花氏から黒幕と名指しされて、人々の憎悪の対象にされ、絶望して命を絶った」
◆「支持者に攻撃を促しているとも受け取れる行為」
 ネットを通じて記者が攻撃対象になることもある。兵庫県の斎藤元彦知事に質問をした時事通信の記者への誹謗(ひぼう)中傷がSNS上で繰り返されているとして、日本新聞労働組合連合(新聞労連)は8月、「重大な人権侵害」などとする声明を公表している。
 ジャーナリストの青木理氏は名刺の投稿について「公党の代表、ましてや政権与党に入った高度な権力者側による、メディアに対するどう喝、けん制であり、自らの支持者らに攻撃を促しているとも受け取れる論外の行為だ」と指摘する。
 「メディア側に自省が必要な点があるのは事実だが、メディア不信を盾にメディアや記者個人を攻撃する流れは止められない」とした上でこう述べる。「的外れな批判など気にせずに一蹴し、歯を食いしばって権力の監視を続け、報じるべきを報じることがわれわれの仕事だ」