自民党と日本維新の会の政権協議についての各紙の主張・社説

2025年10月18日
【しんぶん赤旗】10月18日<主張> 政権の多数派工作-―国民要求置き去りの駆け引き
 国民の要求そっちのけで、政権の枠組みをめぐる駆け引きが激化しています。立憲民主党と国民民主党、日本維新の会が協議してきたところ、自民党と維新が急接近し、連立政権も視野に17日には2回目の協議を行いました。維新の吉村洋文代表は、政策協議で合意すれば首相指名選挙で自民党の高市早苗総裁に投票すると明言しています。
■消費税減税と裏金
 政権の枠組みが問われるようになったのは、昨年の総選挙と今年7月の参院選で国民の審判を受けて自公政権が過半数割れしたうえ、公明党まで自民党を見限り連立を離脱したためです。
 二つの選挙で国民が一票に託したのは、自民党政治を変えたいという思いです。
 ことに裏金問題に象徴される自民党の金権体質への怒りと消費税の減税・廃止の要求です。選挙結果を受けてまず国民が期待したのは、消費税の減税・廃止と金権政治の根源である企業・団体献金の禁止に道筋をつけることです。
 自・公以外の党は参院選で何らかの形での消費税の減税や廃止を公約していました。ところがいま、各党間で交わされている協議では消費税は脇に置かれ、消費税減税で一致点を追求し国民の要求に応える姿はありません。
 「政治とカネ」でも抜け穴だらけの「規制」でお茶を濁そうとしています。裏金のもとになった企業・団体献金問題で自民、国民民主、公明は容認・存続で一致しています。違うのは、受け手を政党本部と都道府県連に限定するかどうかなど、名ばかりの「規制」の中身です。
 維新は、自民との政策協議の項目に企業・団体献金の廃止、食品消費税2年間ゼロを入れています。しかし、どちらも連立の絶対条件ではないとし、献金禁止について「それだけで政権が成り立っているわけではない」(藤田文武共同代表)、「できるだけ透明性は高めたいが、(政治改革の)肝は国会議員の定数削減」(吉村氏)とすり替え、「政治とカネ」を棚上げする姿勢です。
 多数派工作の中で国民要求は置き去りにされています。
■自民党と理念一致
 維新は「価値観は高市さんと近い」(吉村氏)とし、戦略3文書(安保3文書)改定の前倒し、憲法9条改定の協議会設置、緊急事態条項に関する改憲案の国会提出、武器輸出の全面解禁、原発推進、医療費の年4兆円削減―を自民党に求め、協議しています。
 国民民主は、自民党との幹事長会談(14日)で、「基本理念」とする(1)安保法制の容認(2)緊急事態条項を含む憲法改定(3)原発推進―の3点で、両党がほぼ一致していることを確認したと言います。
 結局、いまさまざまに駆け引きされているような連立政権では自公政権と変わらず、自民党の悪政を補完・延命させるだけでなく、いっそう悪い方向に行く多大な危険があります。国民との矛盾は避けられません。
 国民の切実な願いを実現するには自民党政治そのものを終わらせるしかありません。日本共産党は、そのための国民的・民主的な共同発展に全力をあげます。

【毎日新聞】10月18日<社説>自民・維新の連立協議 「政治とカネ」置き去りか
 「政治とカネ」の問題を素通りして政権に入ったとしても、国民の支持は得られまい。
 21日に召集される臨時国会での首相指名選挙を前に、自民党と日本維新の会の連立協議が大詰めを迎えている。
 維新は自民に対し、12項目の政策の実現を求めた。吉村洋文代表が最優先事項に挙げたのが、「副首都構想」と社会保障改革だ。後になって国会議員の定数削減も「絶対条件」に加えた。かねて「身を切る改革」を訴えてきた経緯を踏まえたものだ。
 看過できないのは、政治資金問題をなおざりにしていることだ。
 12項目には企業・団体献金の禁止も含まれる。7月の参院選でも公約に掲げた。にもかかわらず、吉村氏は「自民がイエスと言うことはない」と述べ、実現にこだわらない姿勢を示している。
 この問題は、公明党が自民とたもとをわかった最大の要因だ。維新案は、受け手規制を強化する公明案より厳しく、自民が応じる見込みがないと見ているようだ。
 しかし、現下の混迷する政治の背景には、自民派閥の裏金問題に端を発する国民の政治不信がある。不透明な資金の流れの温床となる企業・団体献金を自民は残そうとしている。こうした問題に向き合わなければ、維新の政治改革に対する姿勢が疑われる。
 議員定数削減を持ち出したのも、政治とカネの問題から論点をずらす思惑があるのではないか。
 維新がこだわる副首都構想は、災害時の首都中枢機能のバックアップを担うものだが、過去2回の住民投票で否決された「大阪都構想」を実現したいのが本音だろう。
 保険料負担を軽減する社会保障改革は医療サービスの水準切り下げにつながりかねない。
 自民のなりふり構わぬ多数派工作も目に余る。政治団体「NHKから国民を守る党」と、参院で新会派を結成した。立花孝志党首は地方選で真偽不明の情報を拡散させるなど、民主政治の基盤を損ねるような振る舞いを繰り返す。
 多党化の状況では、連立協議を避けては通れない。政策面での一定の妥協を否定するものではないが、政治の信頼に関わる問題をないがしろにすることがあってはならない。

【東京新聞】10月18日<社説>自維の連立協議 政治とカネが最重要だ
 自民党と日本維新の会が、連立政権の樹立を視野に政策協議に入った。衆参両院での与党過半数割れ、公明党の連立離脱に至った最大の要因は自民党派閥の裏金事件だ。自民、維新両党が「政治とカネ」を巡る抜本改革を置き去りにして政権を共にするなら、政治への信頼は回復できない。
 維新は自民党に対し、連立参加の条件として(1)首都機能をバックアップする副首都構想(2)社会保障改革(3)企業・団体献金廃止-など12項目を示した。臨時国会召集の21日までに合意すれば、維新は首相指名で自民党の高市早苗総裁に投票。高市氏が首相に選出され、自維連立政権が発足する。
 自民党は副首都構想に賛意を示し、社会保険料引き下げに向けた自維両党の協議は石破政権下で始まっている。物価高対策の方向性も食料品の消費税2年間0%を除いて一致し、外国人規制やスパイ防止法制定、憲法改正を巡る姿勢に大きな隔たりはない。
 連立協議の最重要項目は、金権腐敗の元凶とされてきた企業・団体献金の存廃だ。政治への信頼はあらゆる政策遂行の前提である。
 自民党は裏金事件で有権者の支持を失い、衆参両院選で大敗したにもかかわらず、今なお企業・団体献金の温存に固執し、長年連立を組んできた公明党の離反を招いた。自民党がこの機に大胆な改革に踏み込まねば、引き続き政権を担う資格はない。
 維新は企業・団体献金を全面禁止する野党法案の共同提出に加わり、自らも企業・団体献金は受け取ってこなかった。連立参加と引き換えに企業・団体献金の存続を認めれば、党の看板政策「身を切る改革」は色あせ、自民党の補完勢力との批判は免れまい。
 自維両党が連立しても、衆院の過半数には2議席、参院の過半数には5議席及ばず、政策実現に与野党の幅広い合意を要する状況に変わりない。高市氏が右寄りの政治信条で共鳴する参政党や日本保守党から協力を得れば、政権がさらに右傾化する懸念は強まる。
 立憲民主、維新、国民民主の野党3党による首相候補一本化の協議が進展していないのは残念だ。小異を残しても大同につく努力を引き続き求めたい。自維連立政権が発足しても、立民、国民両党は野党に転じた公明党とも連携を深め、政権の右傾化に歯止めをかける役割を自らに任ずべきだ。

【朝日新聞】10月17日(社説)自維連立協議 優先順位を見誤るな
 26年間続いた自公体制の崩壊を受け、自民党と日本維新の会がきのう、新たな連立の枠組みを視野に入れた政策協議を開始した。
 両党は外交安保やエネルギー政策、改憲など基本政策で一致する。少数与党の下、政策実現のために連携を探ることは理解できるが、一気に連立に進むのであれば、唐突感は否めず、政治的な打算優先とみるほかない。
 本気で連立するなら、個別の政策合意を超え、何をめざす政権なのかを明確に示す必要がある。政治への信頼は政策遂行の基盤であり、自民の裏金問題へのけじめも不可欠だ。取り組むべき課題の優先順位を見誤ってはいけない。
 来週召集される臨時国会に向け、与野党さまざまな組み合わせが取りざたされるなか、自民と維新が手を組むのは、公明党の連立離脱という新たな政治状況を受け、双方の思惑が一致した結果だ。
 自民の高市早苗総裁は公明が抜けた穴を埋め、首相指名を確実にするとともに、政権の足場を固めたい。党勢低迷が続き、国民民主党に第三極のお株を奪われた維新は、ここで存在感を示したい。
 一昨日の党首会談で、維新の吉村洋文代表(大阪府知事)は、「副首都構想」と現役世代の社会保険料の引き下げを含む「社会保障改革」を要求の2本柱にあげ、高市氏は早々に賛意を伝えた。
 副首都構想は住民投票で2度否決された「大阪都構想」の実現が前提にあるとされる。東京一極集中の是正は大事だが、ただちに取り組む喫緊性があるだろうか。社会保障制度の見直しは多くの国民の生活に影響する。政策効果や副作用を吟味しないまま結論を急ぐべきではない。
 維新は政策協議の初回に、この二つを含む12項目の要求を提出した。企業・団体献金の廃止を含む「政治改革」は12番目だ。公明が要求した企業・団体献金の受け皿規制すらのまなかった自民に廃止を迫れるのか。裏金問題は「決着済み」という高市氏の主張に追随するようでは、政治不信の解消はおぼつかない。
 政権内で歯止め役を自任していた公明が去り、自民より先鋭な主張をすることもあった維新との連立が成れば、自民の党の性格が大きく変わることになるかもしれない。
 選択的夫婦別姓への反対や外国人規制など、右派的なイデオロギー色が強まるのではないか。70年前の結党時、自民は「国民政党」を掲げ、先の参院選敗北の総括では、国民の「分断」解消に全力を尽くすとした。その誓いを忘れてはならない。