公明党の自民党との連立離脱に関する各紙の社説・主張・資料
2025年10月11日
【東京新聞】10月11日<社説>自公連立の解消 「裏金」が招いた転換点
公明党が自民党との連立政権から離脱すると表明した。26年に及ぶ自公協力関係の解消は歴史的転換点であり、政治状況が一気に流動化するのは必至だ。高市早苗新総裁ら自民党が派閥の裏金事件を軽んじた結果である。引き続き政権の座にありたいなら、「政治とカネ」を巡る猛省が必要だ。
自公政権協議の決裂を決定づけたのは金権腐敗の温床とされる企業・団体献金の取り扱い。公明党は献金の受け皿を党本部や都道府県連に限定する規制強化への同意を迫ったが、自民党は拒否した。
企業・団体献金は、全面禁止を求める立憲民主党など野党側と、存続を主張する自民党との平行線が続いてきた。公明党の受け皿限定案には立民も歩み寄り、与野党の妥協案として浮上していた。
自民党が今なお企業・団体献金の存続に固執するのは、裏金事件に無反省と断じるほかない。
公明党は「政治とカネ」に加え高市氏の右寄りの政治姿勢や歴史認識にも懸念を伝えたが、高市氏は自身の信条に近い議員を党幹部に並べ、公明党との調整に実績のある議員は起用しなかった。
多額の裏金で政策秘書の有罪が確定した萩生田光一氏も幹事長代行に登用され、公明党が軽視されたと憤ってもやむを得まい。
公明党は1999年に自民党との連立に加わった。民主党政権の3年間を除き、政権の一翼を担い続けて、政治の安定には寄与したが、2012年発足の第2次安倍晋三政権以降は「平和の党」「清潔な政治」という公明党の看板が色あせつつあったのも事実だ。
歴代政権が違憲としてきた集団的自衛権の行使容認に同調し、敵国領域をたたく敵基地攻撃能力の保有も認めた。昨年の衆院選、7月の参院選では裏金議員への推薦が大敗につながり、「党存亡の危機」(参院選総括)にあった。
公明党が自民党とたもとを分かち野党に転じても、多党時代の政策決定には影響力を持つ。党の個性を生かしつつ、国会の議論をけん引する役割を期待したい。
高市自民党は長年の友党にも配慮を欠き、与野党の政策合意を主導する力量に疑問符が付いた。首相指名選挙が予定される臨時国会召集は20日以降にずれ込み、政治空白はさらに長引く見通しだ。国民が望む物価高対策を一刻も早く講じるには、まずは自民党自身が変わらなければなるまい。
【毎日新聞】10月11日<社説>公明が連立政権離脱 限界露呈したもたれ合い
四半世紀にわたり続いてきた政権与党の協力関係に終止符が打たれる。日本政治の転換点である。
自民、公明両党の政策協議が決裂した。自民の高市早苗総裁との3回目の党首会談で、公明の斉藤鉄夫代表が連立政権を離脱する方針を通告した。
公明が連立入りして以来、蜜月関係は26年間に及ぶ。旧民主党政権時代も野党として行動を共にした。高市氏は、就任直後から「自公連立が基本中の基本だ」と強調していた。
しかし、連立の基本方針を巡る意見対立は解消しなかった。決裂した最大の要因は、「政治とカネ」の問題への対応だ。
■「政治とカネ」が引き金
自公両党は衆参両院選挙で大敗し、危機的な状況にある。
公明は参院選総括で敗因として、派閥裏金問題に関わった自民候補を推薦し、批判を浴びたことを挙げた。信頼回復に向けて改革姿勢を示す必要に迫られていた。
党首会談で、政策をゆがめかねない企業・団体献金について、受け手を政党本部と都道府県組織に限定する規制強化を要求した。裏金問題の全容解明も求めた。
だが、企業献金を重要な資金源とする自民は受け入れなかった。裏金に関わった旧安倍派幹部を要職に起用し、反発した公明に見切りを付けられた。
高市氏は首相就任後の靖国神社参拝を言明したことがあり、外国人規制の強化も打ち出している。右派的言動への公明の懸念を払拭(ふっしょく)できなかった。
そもそも、憲法改正や安全保障などの主要テーマで、自公のスタンスは異なる。1999年、自民が国会での過半数確保のために引き入れたのが、連立の始まりだ。公明も与党入りで政策を実現できるメリットがあった。理念よりも損得勘定を優先させ、関係を築いてきたのが実態だった。
長年の選挙協力を通じて「もたれ合い」が深まった。衆院選小選挙区で自民は、公明の支持母体・創価学会の組織力を当てにした。公明も比例代表を中心に、自民支持層の取り込みを図った。自公が国会の多数派を占めることで政権運営を安定させた。
公明は「平和の党」を掲げ、自民へのブレーキ役を自任していた。しかし、第2次安倍晋三政権で自民1強の様相が強まると、存在感の低下が顕著となった。集団的自衛権行使に道を開いた安全保障関連法の制定で押し切られたことは象徴的だ。
■合意形成へ知恵絞る時
近年は両党とも、支持者の高齢化などで組織の弱体化が進み、互いに選挙協力の「実利」が薄れている。そこに既存政党への不信の高まりが直撃し、少数与党状況に転落した。
挽回を期す自民は、高市氏の下で「保守回帰」へ走ろうとしている。中道路線の公明との乖離(かいり)はもはや覆い隠せなくなった。
自民は再協議を求めているが、公明が安易に連立復帰を図るようなら、国民に見透かされる。政策本位の原点へ立ち戻るべきだ。
政治情勢はさらなる流動化が必至だ。石破茂首相の後任を決める首相指名選挙で、公明は「高市氏には投票しない」という。多数派を占める野党側も、首相候補を一本化できるか模索している。
自民単独では衆院で200議席を切っており、高市氏が首相に就任するハードルは上がった。内閣が発足しても、他党の協力なしには政策を遂行できない。
石破政権では、国民民主党が主張する「年収の壁」引き上げや、日本維新の会が求めた高校授業料無償化などが、数合わせの取引材料として使われた。
財源の裏付けが乏しいバラマキ的な主張や、排外主義的な言説がまん延している。
国会の多党化が進む中にあっては、与野党を問わず、政策実現に重い責任を負う。ポピュリズムに陥ることなく、幅広い意見を集約し、将来を見据えた政策に落とし込むことが不可欠だ。
合意形成に向けた新たな枠組みが求められる。国民の負託に応えるために、各党が知恵を出し合う時である。
【朝日新聞】10月11日(社説)公明党の連立離脱 高市体制が招く政治の混迷
自民党と連立を組んでから26年。野党時代も含めて維持してきた協力関係を、公明党が白紙に戻した。
直接の理由は「政治とカネ」をめぐる自民の対応とされるが、保守的な政治信条の強い高市早苗総裁が率いる新体制への懸念が背景にあることは間違いあるまい。
公明と合わせても衆参両院で少数与党だった自民は、さらに大きく過半数を割り込むことになる。高市氏の首相指名の不確実性は高まり、政治の混迷の長期化が懸念される。ただでさえ、臨時国会の召集や新内閣の発足が遅れ、物価高対策など喫緊の政策課題への取り組みが滞っている。衆参で比較第1党である自民の責任は重い。
■献金規制拒んだ自民
公明の斉藤鉄夫代表がきのうの高市氏との会談で、連立離脱の意向を伝えた。斉藤氏は先の党首会談で、派閥の裏金問題のけじめと企業・団体献金の規制強化を求め、高市氏が繰り返してきた靖国神社参拝と外国人政策についても懸念を示していた。
とりわけ重視したのが、企業・団体献金の受け皿を党本部と都道府県連などに大幅に制限する提案だった。これから検討するという自民の返答は不十分だとして、連立に区切りをつける道を選んだ。
高市氏は記者団に対し、党内手続きが必要で、総裁の一存では決められないとして、公明側から「一方的に」離脱を伝えられたと述べた。
しかし、裏金問題へのけじめを強く求められながら、政治資金収支報告書に多額の不記載があった旧安倍派幹部の萩生田光一氏を党幹事長代行に起用するなど、神経を逆なでする人事を行ったのは高市氏だ。献金の受け皿規制についても、事前に党内で真剣に検討した形跡は見られない。
公明は昨年の衆院選、今年6月の東京都議選、そして7月の参院選と相次いで議席を減らし、参院選の総括では「党存亡の危機」にあるとした。自民の裏金問題の影響も大きかったとして、踏み込んだ対応を求めていたのに、高市執行部は公明は連立維持を優先し、最後は折れると甘く見ていたのではないか。
■歯止め役果たせたか
公明との関係が「基本中の基本」と言いながら、頭越しに国民民主党の玉木雄一郎代表と連立拡大を視野に会談を行ったことも、公明の不信感を強めたはずだ。
四半世紀に及ぶ両党の協力関係が始まるきっかけは、金融危機のあった1998年の参院選で自民が過半数を失ったことだ。小渕恵三首相が安定政権をめざし、99年に自由、公明両党との3党連立政権を発足させた。
以来、両党は時に衝突を繰り返しながらも協力関係を維持し続けてきた。自民にとっては、選挙の際、公明の支持母体である創価学会の協力を得られるメリットがあった。公明にとっても、閣僚ポストの獲得や支持者にアピールできる政策実現が魅力だった。
55年体制崩壊後、単独での政権維持が厳しくなった自民の土台を支えてきたのが公明だったともいえる。
斉藤氏は連立離脱後も、継続性を重視し、予算案や法案など賛成すべきものには賛成すると述べる一方、国政選挙における協力はいったん白紙にすると明言した。人物本位で応援することもあるというが、自民候補への推薦は出さないとも述べた。
これまでのような「持ちつ持たれつの関係」が断たれるとなれば、両党とも自らのあり方を根底から見直す必要に迫られるかもしれない。
公明は「平和の党」を掲げながら、2003年の自衛隊のイラク派遣、15年の安全保障法制の成立、22年の安保3文書改定など、自民が推し進める安保政策について、歯止め役として十分な役割を発揮することができなかった。
裏金問題での逆風も、自民の不記載議員に推薦を出すなど、自らの判断がもたらした側面は否定できない。党勢の退潮は、創価学会員の高齢化に伴う運動量の減少などによって、裏金問題以前から見られていた。
「クリーンな政治」「大衆福祉」「平和」といった党の原点に立ち返り、党の存在意義を再確認できなければ、自民との「悪縁」を切っただけで党勢が回復するほど甘くはない。
■多数派形成困難増す
公明が連立を離れる一方、野党の立憲民主党や日本維新の会、国民民主などは、それぞれの政策や思惑の違いから、大同団結して自民にとって代わろうという機運はない。多党化の様相が一層強まり、過半数の賛同を得て政治を前に進める多数派形成は一層困難を増すだろう。
高市氏が赤字国債の発行も辞さない積極財政路線を掲げるだけに、各党が国民の歓心を買おうと、安定財源の確保を置き去りに、「バラマキ」に走ることが懸念される。
他方で、公明が自民に突き付けた企業・団体献金の受け皿規制は、自民を除く各党の賛同で実現する方途もある。一歩でも改革を進める協力こそが求められる。
【赤旗】10月11日<主張>公明党の連立離脱-自民党政治の行き詰まり象徴
自民党政治の行き詰まりを象徴する光景です。10日の自公党首・幹事長会談で連立協議が決裂し、公明党は1999年以来26年間続けてきた協力関係を終え、連立政権から離脱することになりました。
■国民の批判を意識
直接の要因は「政治とカネ」です。高市早苗・自民党新総裁は裏金問題について決着済みだとし、裏金づくりの中心だった旧安倍派“5人衆”のひとりで、昨年の総選挙で非公認にまでした萩生田光一衆院議員を幹事長代行に復権させました。
公明党は「クリーンな政治が党是」だとしながら、昨年の総選挙に続き7月の参院選でも自民党の裏金議員を推薦したことで国民の批判を浴びて大敗。「党存亡の危機」(斉藤鉄夫代表、決裂後の会見)に陥りました。そのため、高市氏に裏金問題の全容解明や企業・団体献金の「規制」を求めたと言いますが、折り合いませんでした。
裏金の原資となった企業・団体献金の問題で公明党が求めていたのは、企業・団体献金の禁止などではなく、受け手を政党本部と都道府県連に限定する案にすぎません。
財界から金を受けとり財界の意向に沿った政治をするという金権政治の根本をただすものではまったくありません。それでも高市氏が公明党の要求をのめなかったところに、自民党の根深い金権腐敗体質と劣化が表れています。
公明党はこの四半世紀、単独で政権を維持できなくなった自民党政治を補完、悪政をともに推進してきました。
「平和・福祉の党」の看板を掲げながら、憲法を破壊し集団的自衛権を認めて、自衛隊の海外での先制攻撃に道を開く安保法制に賛成、米国言いなりで空前の大軍拡を進めてきました。財界要求に従って労働法制を規制緩和し非正規労働と低賃金を拡大、消費税増税をくり返し、「失われた30年」をもたらしました。社会保障の切り捨てにも一貫して協力してきました。
■補完勢力への審判
その公明党が「政治とカネ」への国民の根強い批判を反映する形で連立を離脱せざるを得なくなったのは、同党を取り込むことで、自民党政治を延命させてきた政治体制の完全な破綻を表します。
今後、政治情勢はいっそう流動化し、自民党がさまざまに補完勢力を取り込もうとする動きがすすむと予想されます。しかし選挙の時に自民党を批判して支持を得ながら自民党の延命に手を貸せば、国民の批判は免れません。各党が自民党政治を終わらせてほしいという国民の声を無視することは許されません。
どういう政権の枠組みになろうと、失敗した経済政策にしがみつき、消費税減税に背を向け、社会保障切り捨て、「日米同盟絶対」で大軍拡に突き進む政治が変わらなければ国民の不満は消えません。
仮にそれを外国人などに矛先を向けて解消しようとしても矛盾は深まるだけです。
国民の審判で「新しい政治プロセス」が新たな局面に入りました。打開の方向は、財界最優先、「日米同盟絶対」の自民党政治そのものを終わらせることです。そのための国民的共同を広げましょう。
論文「自公政治全体の大破綻」(政治部長 中祖寅一)付属資料
◎自公連立 悪政26年の歩み
1999・10 小渕内閣の下で自民、公明両党が連立
2003・7 自公がイラク派兵法を強行
04・4 公明党・坂口力厚労相の下で物価・賃金に連動して年金を削減する「マクロ経済スライド」導入
06・6 自公が「愛国心」教育など盛り込んだ教育基本法改悪を強行
09・9 衆院選で自公が大敗し下野
12・6 民主、自民、公明の3党で消費税10%への引き上げを合意
12・12 衆院選で自公が大勝。第2次安倍自公政権が発足
14・7 集団的自衛権の行使容認を閣議決定。自公与党協議で承認
15・9 自公が「生涯派遣」の労働者派遣法改悪を強行
15・9 自公が安保法制=戦争法を強行
22・12 敵基地攻撃能力保有など明記した安保3文書を閣議決定。自公与党協議で承認
24・10 衆院選で自公ともに議席を大幅に減らし過半数割れ
25・7 参院選で自公ともに議席を大幅に減らし過半数割れ
25・10 公明・斉藤代表が自民・高市総裁に連立離脱を伝達