「東京」、「毎日」」、「日経」の3紙が、自民新人事に「古い自民党への回帰」と厳しく指摘

2025年10月8日
【東京新聞】10月8日<社説>高市総裁の人事 古い自民党そのものだ
 自民党の高市早苗総裁が新しい執行部を発足させた。党内に唯一残る派閥、麻生派の麻生太郎会長を副総裁に充て、党四役のうち2人を同派から起用。裏金事件で政策秘書の有罪が確定した萩生田光一氏を幹事長代行に登用した。
 高市氏は役員人事を了承した臨時総務会で「今の暮らし、未来への不安を何とか希望と夢に変えたい」と述べた。自民党は参院選大敗を受けて「解党的出直し」を掲げたが、執行部人事を見る限り、古い自民党が残ったままだ。
 まず指摘せざるを得ないのが派閥政治の復活。鈴木俊一幹事長、有村治子総務会長は麻生派所属で総裁選で高市氏支持の号令を出した麻生氏の意向を色濃く映す顔触れにほかならない。派閥の裏金事件を機に、派閥解消を打ち出して「人事から完全に決別する」とした党改革への逆行は明らかだ。
 党内基盤の弱い高市氏は政権運営を麻生氏に頼るほかないのだろうが、長老政治家による「傀儡(かいらい)」「二重権力」に堕さないか。鈴木氏は麻生氏の義弟でもあり、党の私物化との批判も免れまい。
 総裁選の論功行賞も露骨だ。麻生、鈴木、有村、萩生田各氏と古屋圭司選対委員長は高市氏を支援し、第1回投票で4位だった小林鷹之政調会長も決選投票で高市氏を支持した。小泉進次郎農相を推した議員は党の主要ポストから遠ざけられ、高市氏が唱える「全員参加」には程遠い状況だ。
 萩生田氏は昨年の衆院選で有権者の審判を受けたとはいえ、裏金事件を巡り政策秘書が今年8月に政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で略式起訴され、有罪が確定した。高市氏は裏金事件を「決着済み」とするが、国民の怒りを軽視した要職起用は容認できない。
 党役員の多くは高市氏と同じく右寄りの政治信条で知られ、首相の靖国神社参拝や外国人対策の厳格化を懸念する公明党との協力関係を維持できるのかは不透明だ。「政治とカネ」を巡る溝も埋まっていない。自公関係が揺らげば、政権安定に向けた連立の枠組み拡大協議にも影響が出かねない。
 与党が衆参両院で過半数割れした状況では、野党の賛同がなければ法律も予算も成立せず、国民が切実に求める物価対策を講じることもできない。中小政党も影響力を持つ多党時代の指導者には、主張や個性を抑えてでも幅広い協力を取り付ける覚悟が必要だ。

【毎日新聞】10月8日〈社説〉高市総裁の新布陣 「古い自民党」に逆戻りだ
 旧態依然とした派閥政治への逆戻りである。改革姿勢の欠如にあきれるほかない。
 自民党の新たな執行部人事が発表された。高市早苗総裁は、信頼回復に向けて挙党態勢で臨むと強調していたが、ふたを開けてみれば麻生派への厚遇が際立つ。
 党四役のうち要となる幹事長には、麻生太郎元首相の義弟である鈴木俊一前財務相を起用し、総務会長に有村治子元女性活躍担当相を抜てきした。麻生氏は副総裁に就任した。
 あからさまな論功行賞だ。総裁選では麻生氏が派内に号令をかけて、高市氏勝利の流れを作った。決選投票で高市氏支持に回った旧茂木派の議員も、相次いで党役員に登用された。
 党内基盤の弱い高市氏には、麻生氏に頼ることで足元を安定させる狙いがある。だが、派閥の力学によって権力維持を図る姿勢では、旧来の自民政治と変わらない。
 派閥裏金問題への批判の高まりを受け、麻生派を除く派閥は解散に追い込まれた。自民には、新たなガバナンス(組織統治)の構築が求められていたはずだ。
 主張が近い保守系議員も党四役で重用した。政調会長には、決選で高市氏を支持した小林鷹之元経済安全保障担当相を、選対委員長には、高市氏の推薦人代表だった古屋圭司元拉致問題担当相をそれぞれ充てた。
 看過できないのは、裏金問題に関わった議員を起用したことだ。
 萩生田光一元政調会長を幹事長代行に指名した。問題の震源となった旧安倍派の幹部で、元政策秘書が政治資金規正法違反で罰金刑を受けている。
 旧安倍派は総裁選で高市陣営の中核だった。高市氏は「人事に(裏金の)影響はない」との考えを示しており、首相に選出されれば閣僚などに起用する可能性もある。
 だが、国会などによる疑惑の全容解明は進んでいない。「政治とカネ」の問題に明確な反省を示さず、うやむやに終わらせることは許されない。
 自民は衆参両院選挙で大敗し、少数与党状況に陥っている。内向きの政治手法が有権者の離反を招いた。本気で生まれ変わろうとしないのであれば、根強い不信は払拭(ふっしょく)されまい。

【日本経済新聞】10月8日<社説>高市自民党は派閥政治に逆戻りするのか
 自民党は7日、高市早苗総裁の下での新たな執行部人事を決めた。総裁選勝利を後押しした麻生派や旧茂木派を重用し、論功行賞の色が濃い布陣となった。今後の閣僚人事でも派閥や旧派閥が幅をきかす政治に逆戻りしないか、懸念を抱かざるを得ない。
 新執行部は副総裁に麻生太郎元首相が就き、党務を取り仕切る幹事長には鈴木俊一総務会長を起用した。総務会長に有村治子元女性活躍相、政調会長に小林鷹之元経済安全保障相を充てた。
 鈴木氏は温和な性格で知られ、高市氏が指示した党内融和を進める役割が期待される。だが執行部の人事からは党内のバランスが取れているか心配な面がある。
 鈴木、有村両氏は自民党の派閥で唯一残る麻生派に属する。鈴木氏は麻生氏の義弟だ。総裁選で勝利したのは麻生氏の支持を得た要因が大きく、その影響力が目立つ顔ぶれとなった。野党からは早くも「第2次麻生政権の始まり」との批判が出ている。
 総裁選で戦った候補のうち茂木敏充元幹事長は閣僚就任で調整している。旧茂木派も総裁選の決選投票で高市総裁誕生に貢献したとされ、同派の議員が組織運動本部長や広報本部長に就いた。
 総裁選で高市氏に敗れた小泉進次郎農相や林芳正官房長官の処遇は決まっていない。
 有村氏は女性、小林氏は50歳で、いずれも刷新感をアピールする狙いがある。選挙対策委員長に就任した古屋圭司氏を含めて保守派で知られる。参院選で失った保守票を取り戻すため執行部が保守派に偏った印象は否めない。
 幹事長代行には旧安倍派の萩生田光一元政調会長を登用した。萩生田氏をめぐっては政治資金収支報告書に旧安倍派からの寄付金を記載しなかったとして、8月には略式起訴された政策秘書が罰金30万円などの略式命令を受けた。
 萩生田氏の起用について鈴木氏は「党の処分がとられ、有権者の審判を受けた」と述べた。ただ政治とカネの問題に国民の目はなお厳しい。任命権者の高市氏と萩生田氏本人の説明がないと理解は得られないのではないか。
 次の人事は閣僚に移る。解党的出直しの決意を示すには、挙党態勢のもと古い自民党からの刷新感を出せるかが問われる。旧態依然とした体質が組閣でも垣間見えれば国民の信頼は取り戻せないと、高市氏は肝に銘じてもらいたい。