総裁選と外国人政策 排外主義に陥らぬ議論を(「毎日」)、多党時代考 暮らしの安心 支え合いの将来像語れ(「東京」)

2025年9月29日
【毎日新聞】9月29日<社説>総裁選と外国人政策 排外主義に陥らぬ議論を
 政治家が排外的な風潮をあおることがあってはならない。
 自民党総裁選で、候補者がそろって外国人政策の厳格化を主張している。過去に例のない状況だ。
 ルールを守らない人によって、国民が不安を感じているとの認識からだ。治安の悪化や不法滞在者の存在を問題視している。
 小林鷹之氏は「出入国管理を含めた外国人政策を厳格化していく」と訴え、茂木敏充氏も「違法外国人ゼロを目指す」と語った。小泉進次郎氏は政府の司令塔機能強化を掲げ、林芳正氏は官房長官として現政権での実績を強調する。
 しかし、治安の悪化を示すようなデータはない。刑法犯で検挙された外国人の数は近年、横ばい傾向にある。不法残留者数もピーク時の4分の1になっている。
 根拠が疑わしい主張も出ている。高市早苗氏は外国人について「警察で通訳の手配が間に合わず、逮捕はしても不起訴にせざるを得ない」「奈良のシカを蹴り上げている」などと述べた。
 インターネット上では「外国人が優遇されている」といった批判や、日本で暮らすクルド人らへのヘイトスピーチが目につく。候補者たちの主張は、こうした言説にお墨付きを与え、偏見や差別を助長しかねない。
 外国人政策が論点になった背景には、参院選での自民大敗がある。「日本人ファースト」を掲げた参政党などに支持基盤を崩されたとの危機感が広がっており、保守層にアピールしたい思惑が透けて見える。
 そもそも外国人の受け入れを拡大してきたのは自民だ。働き手不足を補うため技能実習や特定技能の制度を設け、経済活性化のためインバウンド(訪日観光客)政策を推進してきた。
 あつれきが生まれるのは、外国人が地域に溶け込めていないからだ。その視点からの支援は後回しにされてきた。
 社会生活に欠かせない日本語の習得は、民間団体やボランティアに頼っているケースが多い。決まり事やマナーを身につけてもらう機会も十分ではない。
 外国人は日本社会を支える存在になっている。第一に論じられるべきは、隣人として共に暮らしていける環境を整える施策である。

【東京新聞】9月29日<社説>多党時代考 暮らしの安心 支え合いの将来像語れ
 暮らしの安心を支える社会保障は大きな課題に直面している。
 1961年にすべての国民が何らかの医療保険や公的年金制度に入る「国民皆保険・皆年金制度」を達成。日本経済の高度成長に伴って、富の拡大と人口増加により制度は拡充されてきた。
 しかし、経済の低成長が続き、少子高齢化で制度の支え手が減る一方、支えられる高齢者が増えた。社会保険料や税を支払う現役世代の賃金は十分に上がらず、政治の役割は「富の分配」から「負担の分配」に変わった。
 社会保障は保険料や税金を皆が出し合い、困難に直面する人に手を差し伸べる「支え合い」の仕組みだ。制度の維持には負担を増やすか、給付を減らすか、その双方かという選択は避けられない。
 自民党総裁選は社会保障のあり方を問う好機だが、5候補はいずれも、制度の未来像はもちろん、負担増、給付引き下げという耳の痛い話には踏み込んでいない。
 小林鷹之、茂木敏充両氏は、高齢者にも負担能力に応じて負担を求める「応能負担」を訴えたが、全世代にわたる負担のあり方には言及していない。ほかの3候補は現役世代の負担減や給付増を打ち出すが、財源は示していない。
 現役世代への配慮は必要でも、それだけで社会保障が持続できるわけではない。社会保障の財源確保には、まず現役世代の賃金を上げることが不可欠だ。
 その際、低賃金の非正規雇用の待遇改善も同時に進める必要がある。正社員化や短時間正社員の拡大などに言及した候補はいるが、将来に希望が持てる働き方を実現する具体策こそ示すべきだ。
 民意が多様化、分散化した多党時代には、野党も政策決定に重要な影響力を持つ。税や保険料の軽減を訴えるだけでなく、負担の分配をも語る責任が生じる。
 少数与党となった自民党の総裁候補は野党との協議を控え、踏み込んだ政策を語れないのかもしれないが、新総裁決定後は、超党派の協議の場をつくり「支え合い社会」の将来像を議論すべきだ。
 与野党の議員にいま足りないのは、予算の無駄遣いに切り込むと同時に、社会保障の現状を正直に語り、制度維持に必要な負担への理解を国民に求める勇気である。