トランプと「非関税障壁」
2025年6月10日
【赤旗日曜版】6月8日<経済 これって何>トランプと「非関税障壁」―命と安全守る国家主権への介入
トランプ米大統領が4月に発表した「相互関税」は世界に衝撃を与え、その算出方法のずさんざ、不公正さも大問題です。大統領は発表の際、貿易相手国の罪金銭的な制限」、いわゆる「非関税障壁」を問題視し、その影響を考慮した上で各国の税率を決めだと演説しました。
「非関税障壁」とは、数字で出せる関税率とは異なり、貿易の障害となる各国の法律や規制、輸入時の数嘉制限や国内企業への助成金、税制などです。簡単に言えば「うちの国の製品が売れないのは、おまえの国の規制や保護政策のせいだ」というものです。1980年代以降に自由貿易が推進される中で、米国を筆頭に先進国は常に非関税障壁を問題視してきました。
米国通商代表部(USTR)は毎年3月末に、貿易相手国の非関税障壁をまとめた「外国菖勿障壁報告書(NTE)」を公表しています。2025年版では日本について「米国の自動車安全基準認証が日本の基準と同レベルとみなされていない」「コメの輸入と流通に関する日本の高度に規制された不透明なシステムが米国産米の市場アクセスを
制限している」などと指摘しています。日本のデジタルプラットフォーム(ダークルなど米巨大IT企業)規制をめぐり、「米国企業が日本の大企業には適用されない追加的な規制や監視の対象となっているため法令順守コストが増え、米国の競争力を弱めている」とまで主張しています。
トランプ政壁剛から米国は「日本のポストハーベスト農薬(収穫後に使つ農薬)の表示義務が米国農産物に不利益となっているので緩和せよ」と主張するなど、あらゆる分野で日本の法規制を批判し、米国基準の適用(=規制緩和の要求)を突き付けてきました。
しかし、自動車の安全基準は乗る人の安全を守るため、農産物の輸入数量規制や食の安全は、日本の生産者・消費者を守るためにあります。日本市場に進出したい米国には露障壁であっても、私たちにとっては主権国家として策定した「命や権利を守るための大切なとりで」です。
米国は、多国籍企業の利益のために関税の撤廃と非関税障壁の緩和・撤廃を進め、労働者の権利や公共サービスの質、食料主権や文化に至るまで、多くのものを後退させました。「保護主義」と評されるトランプ政権も、これまで通り米国の大企業や投資家を優先する政策を進めています。
「自由貿塁を主導してきた米国は自らそれを壊しています。これからの貿易は、・製品のサプライチェーン(供給網)での搾取や人権侵害を防ぎ、環境を保護し、各国の主権や産業育成を優先させるような互恵的なルールに基づくべきです。いま懸念されるのは、日本の自動車業界へのダメ⊥シを避けるため、日本政府がさまざまな「非関税障壁」の撤廃を米国に約束してしまうことです。命や権利を守るための法や制度を、米国の経済利益のために後退させてはなりません。
内田聖子(うちだ・しようこNPO法人アジア太平洋質料センター(PARC)共同代表)