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オックスファム報告書を読む①②③④⑤(「赤旗」連載)
2024年3月9日
【赤旗】2月27,28,29 3月1,2日 オックスファム報告書を読む①②③④⑤
 国際NGOオックスファムは1月15日、各国の要人が一堂に会する世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に合わせて、独占的大企業の力の増大が世界的な不平等拡大の原因だとする報告書を発表しました。 政治経済研究所主任研究員の合田寛さんに報告書のポイントを紹介してもらいます。 (寄稿)

①「分断の10年」のはじまり
 報告書はまず、2020年代は「分断の10年」の始まりだと見立てます。20隹は新型コロナウィルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)で始まり、ロシアによるウクライナ侵略など世界各地で紛争が激化し、気候変動のさらには生計費の高騰という、世界のほとんどの人々にとって前例のない厳しい時代を迎えています。 そのなかで、世界人口の半数以上が貧しくなった一方、世界トップの富豪5人は富を倍増させたと報告書はいいま す。
 《独占が不平等に》
 オックスファムはこれまでにも毎年のように、世界に広がる極端な不平等に警告を発してきました。異常な不平等の危機は24年に入り「ニュー・ノーマル(新しい日常)」 になりつつあると見ています。そして不平等を容赦なく生み出すマシンは、大企業とその独占的な力だと断じているるのです。
 たとえば世界最大の富豪の1人であるジェフ・ベゾス氏 (アマゾン創業者)の所有する富は、20年から327億㌦増え、1674億㌦(約25兆円)に達しています。ベゾス氏を含めた世界で最も裕福な5人の総資産が20年比で2倍超の8690億㌦(約130兆円)に増えた一方、全世界で50億人が以前より貧しくなっています。
 富裕者と並ぶもう1人の勝者はグローバル大企業です。オックスファムによれば、21〜22年の世界の大企業の利益は、17~20年の平均と比べて89%の増という大幅増を記録しています。
 たとえば石油ガス大企業14社の利益は23年に18~21年平均の278%という急増です。同じく製薬大企業11社の利益は22年に32%増、金融大企業22社の利益は32%増とのきなみ大幅増益です。これらの利益増の大部分はコロナシヨックや、戦争ショックなどによる「棚ぼた利益」です。
 《「棚ぼた」利益増》
 この大企業の利益大幅増の最大の受益者は富裕者です。 超富裕者の多くは所有する企業のオーナーとして巨額の株式を所有しています。ウォーレン・バフェット氏(バークシャ—•・ハサウェイ最高経営責任者)は、所有する富の99%を、ザッカーバーグ氏(メタCEO)は富の95%を、ジェフ・ベゾス氏は富の83%を、それぞれ自社の株式で所有しています。
 世界の50社の大企業のうち17社、10大企業のうちでは7社が、CEOまたは主要株主が同時に億万長者です。巨大企業の利益増は富裕者をますます富裕にしているのです。

②政府上回った独占の力
 オックスファムの報告書は、世界の超富裕層は巨大企業の利益を手にする単なる受け身の受益者ではないと指摘します。彼らは支配的株式を保有する企業のオーナーとして巨大な力を持っているからです。
 《価値移転の役割》
 巨大企業は集中•合併を繰り返し、ますます巨大化し、その力を利用して経済と政治に大きな影響を与えています。そうすることによって国家の保護を受け、市場を独占する力を持つに至っています。
 独占大企業は単に大きいだけではありません。彼らは交換条件やルールを設定し、市場を支配する強大な力を振るうに至っています。独占力を行使することで、低賃金と劣悪な労働条件で労働者を酷使し、中小企業を圧迫するとともに、エネルギーや食品、製薬などの価格を高く設定し消費者から搾り取っています。 報告書が引用した134力国の7万社を対象にした長期の調査によると、コストに対する価格の比率(マークアップ比率)は1980年の7%から2020年には59%に上昇しています。世界中の企業利益に占める多国籍企業の利益の割合は、1975年の4%から2019年の18のへ 増加しました。とりわけ21紀に入って以降その傾向が顕著になっています。
 こうして独占大企業は髙い利ザヤで価格をつり上げ、競争者を排除することでますます強大な力を持つに至っています。独占力は経済全体を通じて、労働から資本へと価値を移転する役割を果たしています。可処分所得は配当、株などの売買差益によるキャピタルゲイン、重役報酬などの形で逆進的に再分配されています。
 《民主主義脅かす》
 今や独占の力は政府を上回るまで肥大しています。アップル社の株式の時価総額はー時3兆㌦(約450兆円)を突破しましたが、これはフランスの国内総生産(GDP)よりも大きな数字です。アップル社を含む世界の最大企業5社の株式の時価総額は、アフリカ、ラテンアメリカ、カリブ諸国のGDPの合計を上回っています。
 経済力を少数者の手に集中させるうえで、巨大投資ファンドの果たす役割が大きくなっています。なかでもブラックロック、ステート・ストリー卜、バンガードの3社はわせて20兆㌦(約3000兆円)以上の資金を管理•運用する巨大ファンドです。近い将来、米国の主要企業は12人の人物によって支配されるという識者もいます。
 元米大統領フランクリン・ ルーズベルトが警告したように、企業の力が政府の力を上回れば、民主主義と自由は安全ではありません。「独占は力そのものであり、民主主義の領域から政治的決定を奪い取る力だ」と報告書は強調しています。

③大企業がつくる不平等
 オックスファムの報告書は、大企業の力の増大、独占力の強化が不平等拡大の最大の原因になっていると指摘します。
 《富裕者へ富移転》
 第1に、労働者から富裕者への富の移転です。この数十年は世界の多くの労働者にとって過酷な時代でした。巨大企業は強大な力と、グローバル・バリュー・チェーン(複数国に配置された生産工程や流通過程の連鎖)を通じて労働者に低賃金、権利の抑圧、ひどい労働条件を押しつけました。その一方、大企業と企業の重役には空前の利益と途方もない報酬を、株主には莫大(ばくだい)な富をもたらしました。
 さらに強大な力を持った大企業は、潤沢な資金を使った献金やロビー活動で政府に働きかけ、企業に都合のよい労働政策のために影響力を行使してきました。その結果、政府は賃上げや労働条件の改善に取り組むのではなく、大企業やそのオーナーを豊かにする政策を選んだのです。 
 報告書によれば、2022年7月から23年6月までの1年間に大企業が生み出した100㌦の利益につき82㌦が、 配当と自社株の買い戻しの形で株主の手に入ったというのです。株式保有は富裕層に偏っているので、この巨額の支払いは富裕層を不釣り合いにより豊かにしました。
 第2に、税制に対する“戦争”に勝利したことです。大企業やそのオーナーは豊かな資金力を背景にして、自らに対する税を軽減するために、活発なロビー活動を行ってきました。80年代以降の税制改革によって、法人税の税率は半減し、配当や株式売却益に対する所得税も大幅に軽減されました。またタックスへイブンの悪用によって、大企業は表面税率よりも相当低い実効税率(しばしばゼロ税率) の適用を受けています。
 その結果生じた財源不足を賄うために、各国では付加価値税(消費税)を中心とする逆進性の強い税体系がつくられてきました。
 《公共財を民営化》
 第3に、民営化による公共サービスの収益事業化です。強大な企業の力は公的部門を「商品化」し、利益獲得の新たな分野にしてきました。富裕者は十分な資力を使って、 高価な公共サービスを受けることができますが、一般の人々にとっては、生活に欠かせないサービスの享受を制限され、排除されることになります。
 民営化には、従来型の国有企業売却のほか、近年、官民連携方式(PPPSHパブリック・プライベート・パートナーシップ)、あるいは外部 委託方式が多く採用されています。
 対象となる分野は、教育、医療、介護、水道、道路など、幅広い公共サービスに及んでいます。多くの民営化は財政コストの削減にはつながらず、企業に巨額の利益を保証する一方、財政上のリスクは納税者が負担するしくみとな っています。

④格差と分断の広がり
 オックスファムの報告書は、大企業と富裕者の力の増大が、労働者の低賃金と厳しい労働、不安定な雇用を生み出し、とりわけ女性や移民など弱い立場の人たちにもっとも重い負担を押し付けていると指摘します。
 男性と女性の賃金格差は大きく、報告書が引用した研究では、男性が労働で51セントしか得られませんでした(2019年)。女性の所得は全世界の総労働所得の35%(22年)というデータもあります。
 1600社の大企業を対象にした調査によると、ジェンダー平等に取り組んでいる企業はわずか24%で、男性と女性の賃金比率に関する情報を公開している企業はたった2・6%でした。
 《無償のケア労働》 
 大企業の力の増大と高収益の背景には、女性や少女による低賃金または無償のケア労働があります。20年のオックスファムの調査によると、女性・少女は世界の無償のケア労働の4分の3を受け持っています。女性・少女による無償ケア労働の経済価値は少なくとも年間10・8兆㌦(約1620兆円)に上り、世界のハイテク産業の3倍以上の規模です。
 とりわけ中東、北アフリカなどの貧困な国では、女性の無償ケア労働の従事時間が週17~34時間に上り、男性の1~5時間と大きなジェンダーギャップが見られます。女性に対する差別は民族、移民など他の差別とも結びついています。
 《ノ—スとサウス》
 世界を見るとグローバルノ—スとグローバルサウスの間の格差が深刻です。ノースの国々は植民地時代のレガシー(遺産)を受け継いで、富裕国に有利な経済ルールをつくり、サウスの富を移転しています。ノースとサウスの間の格差は、25年ぶりに高まっています。ノースの国々には世界の人口の21%しか住んでいないにもかかわらず、世界の民間の富の69%、世界の億万長者の富の74%が集中しています。
 気候変動の悪化、戦争、新型コロナウィルス感染症のパンデミック(世界的大流行) はグローバルな富の不平等を一層強めています。サウスのいくつかの国の政府は、燃料、食糧、薬品の輸入のためのコストが高騰し、巨額の債務を積み重ねています。累積した債務の元利支払いのために、低・中所得国は29年までに1日5億㌦近くを充当しなければなりません。貧困国の57%以上、約24億人の母国は、今後5年間にわたって2290億㌦(約34兆円) の公共支出の削減を迫られています。その額は22年のODA(政府開発援助)の総額を上回ります。公共支出の大幅削減は、とくに女性、片親、移民など差別された人たちに、もっとも厳しく迫ることになることは確実です。

⑤目前にオルタナティブ
 オックスファムの報告書は最後に、企業の力と独占の支配を打開し、すべての人のための経済に向かうにはどうすればいいのか、課題を提起しています。
 《企業の力を制限》
 とられるべきステップとして、第一に、最富裕者とそれ以外の人々の間の格差を縮小し、世界の平等レベルを根本的に引き上げること、第二に、企業の力を制限し、富裕者だけに報いる経済ではなく、すべての人のための経済を打ち立てることをあげます。
 さらに企業の力を制御する方策として、三つの課題を示します。
 一つ目には、国家の活性化です。企業の権力に対する最大の防波堤になる有能で強力な国家をつくり、市場の失敗を是正し、共同の目標に向けて経済のかじを取るよう求めています。
 経済のどの部分を公的部門が提供すべきかは国ごとに異なるものの、医療•保健、教育、介護、社会的保護など不平等を無くすためのサービスは、公共部門が所有し、供給する必要があります。公共交通、エネルギー、住宅、その他の公共インフラ、気候変動に対応するための対策などの 公共的な分野への投資も求め られます。
 二つ目に、大企業と富裕者の力を制御するために、独占解体し、企業の力が大きくなりすぎないようにすることです。そのために独占的企業の力を分散化し、行きすぎた集中を規制し、国有化などの措置をとること、また知識の独占を排除し、特許権に関するルールを民主化することを政府に求めています。
 また労働者の状況を改善するために、生活できる賃金と働きがいのある人間らしい仕事を与えること、労働組合結成とストライキの権利を認めることを求めています。同時に、経営トップに対する報酬の額は一般労働者に対する支払いの20倍を超えてはならないなどのルールをつくり、上級経営者の報酬に上限を設けることも提案しています。 さらに富裕者が所有する富に対して、累進税率で課税する恒久的な富裕税の創設や、配当や株式譲渡益に少なくとも労働所得と同じ税率か、より高い税率を課すことを提案。大企業にもコロナショックや戦争ショックによる「棚ぼた利益」など超過利益への課税、多国籍企業によるタックスヘイブンなど低税率国への利益移転を認めず、実際に経済活動があったところで税を支払わせることなどを求めています。
 《ビジネスの変革》
 三つ目に、ビジネスの在り方を変革する課題です。現行の企業構造は非民主的で、少数のエリートの利益を目指し て経営されています。主要企業に民主的な所有とガバナンスを注入することによって、 不平等を正すのみならず、社会問題により良く応える企業 モデルを構築することを求めています。その芽は世界のいたるところで生まれつつあり、オルタナティブ(代替案)は目の前にあると、報告書は締めくくっています。(おわり)