23年度予算案―米軍事産業奉仕の予算、与党からも内部留保の活用求める声、世界と日本の経済の潮流 明海大学准教授宮崎礼二さん<上> 、<下>(いずれも「赤旗」)
2023年1月21日
【赤旗】1月19日 2023年度予算案の焦点①―税・財政―米軍事産業奉仕の予算
2023 年度予算政府案の特徴を主な分野でみていきます。
23年度政府予算案は、岸田文雄政権が掲げる軍事費2倍化実現のために社会保障など国民生活関連予算を削減する「戦争国家づくり」予算です。
国の基本的な予算規模を示す一般会計総額は114兆3812億円と22年度当初予算を6兆7848億円上回り、11年連続で過去最大を更新しました。当初予算が110兆円を超えるのは初めて。
増額が目立つのは軍事費です。翌年度以降に使う「防衛力強化資金」と合わせて10兆円を超えます。23年度分だけでも6兆8219億円と過去最大。米政府の武器輸出制度である有償軍事援助(FMS)に基づく武器輸入に1兆4768億円を計上し、22年度当初予算の約4倍になりました。増額分の4分の3近くが米軍事企業に支出されることになります。米軍事産業奉仕のための軍拡です。
軍拡財源として「歳出改革」のほか、特別会計からの繰入金など税外収入で4兆5919億円を確保。うち1兆2113億円を23年度に支出し、残る3兆3806億円は「防衛力強化資金」として24年度以降の軍事費に充てます。自衛隊の艦船建造や施設整備のために4343億円の建設国債を発行します。
◆脱炭素も原発に
脱炭素の名目で「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」を発行します。次世代革新炉の研究開発支援など原子力発電推進にも用いられます。
社会保障費は36兆8889億円を計上。自然増は4100億円です。概算要求時から1500億円の圧縮。薬価の引き下げなど国民負担で賄います。
政府の裁量で支出できる予備費をコロナ対策として4兆円、ウクライナ情勢経済緊急対応予備費に1兆円計上しました。
国民にマイナンバーカードを押し付けるために、厚生労働省はマイナンバーカードを健康保険証に使える医療機関では、従来の健康保険証で受診した場合、4~12月は窓口負担を引き上げます。総務省は地方自治体ことのカード交付率を地方交付税の算定に反映させ、交付率が高いほど増額します。
◆沖縄振興は減額
沖縄振興予算は22 年度比5億円減の2679億円を計上。沖縄県側が求める3000億円台を2年連続で下回りました。玉城デニー知事を先頭に辺野古新基地建設に反対する沖縄県への圧力です。
一般会計税収は過去最大の69兆4400億円を見込みます。うち消費税は23兆3840億円。所得税や法人税を超え、4年連続で税収項目で最大となりました。
「税制改正大綱」では軍拡財源として復興特別所得税、法人税、たばこ税の増税を盛り込みました。増税の実施は「24年以降の適切な時期」としました。(つづく)
【赤旗】日曜版1月22日 <経済 これって何?>与党からも内部留保の活用求める声―最低賃金 地域で格差
最低賃金(法)は使用者が労働者に支払わなければならない、賃金の最低額を決める法律です。現在の最低賃金は都道府県でとに四つにランク分けされ、地域によって金額が違います。
地域別に決まる最低賃金によって深刻な格差が生じています。最賃の時給最高額は東京の1072円、最低額は10県の853円で219円(20・4%)の格差があります。格差は15年間で2倍に広がりました。
格差是正には抜本見直し廿法改正で全国一律制度に踏み出すことが求められます。ちなみに地域別最賃の国はカナダ、中国、インドネシア、日本の4カ国(全体の3%、13年)だけです。
同時に、地域別最低賃金制は、最低賃金の大幅引き上げを阻む要因にもなっています。
最低賃金は最賃決定の3要素「その地域の生計費と賃金、事業の支払い能力」を考慮して決めています。最低賃金の低い地域は、現状の支払い能力や経済状況が勘案されて最低賃金額が決められるため、低い地域は低いままとなる構造的な問題を抱えています。
3要素のーつの労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市も地方もほとんど差がないことが明らかになっています。地方では家賃は低いものの、公共交通機関の利用が制限されるため、社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされるなどの負担があります。
政府の「骨太の方針」は「早期に最低賃金の全国加重平均が1000円以上」と明記しています。しかし、2022年の3・30%の引き上げでは目標達成になお数年かかります。ほかの先進国(フランス1426円、イギリス1473円など)に比して低い最低賃金によって、最賃に近い金額で働く労働者は、物価高騰で極めて深刻な生活苦に陥っています。
日本商工会議所などの「最低賃金引上げの影響および中小企業の賃上げに関する調査」(22年2月)によると、最賃を引き上げるべきだと回答した企業の割合は、前年調査から13・6縛上昇し41・7%でした。経済を回すには賃金、最賃を引き上げなければならないといっ意見が多数となる変化が起きています。
全国一律制度や時給1500円への引き上げをめざす動きが政党の中で広がっています。全労連・国民春闘共闘が行った最低賃金の政策を聞く集会(22年11月28日)には、自民、立憲民主、国民民主、共産の各党から国会議員が出席。全国一律制の実現、国による中小企業支援、大企業の内部留保への課税を含む活用の必要性がこもごも強調されました。
大企業の内部留保は約500兆円に膨らみ、それを活用した中小企業支援と公正な取引実現の施策を強化すれば、最賃の大幅引き上げや全国一律制度の確立は十分に可能です。それは貧困問題の解決やジェンダー平等の観点からも求められており、国民的な課題となっています。
齊藤辰巳(さいとつ・たつみ全国労働組合総連合賃金闘争局長)
【赤旗】1月17日 2023年の世界と日本の経済の潮流 明海大学准教授宮崎礼二さん<上> 労働運動に新風吹く
米国では、新型コロナウイルス感染症に対して、トランプ、バイデン両政権によって積極的な財政支援策が実施され、コロナ禍の鎮静化のために抑制されていた個人消費や設備投資が急激に持ち直してきました。この力強い経済の回復にともなって、労働力、原材料、半導体、コンテナなどで不足が生じていたところに、ロシアのウクライナ侵略がエネルギー価格と食料価格の急上昇を引き起こし、物価上昇に拍車をかけています。
◆物価は高止まり
2021年春から上昇を始めた米国の消費者物価指数(CPI)は22年5月に前年同月比8・6%上昇し、1981年以来の高い
で物価の伸びを示しました。変動の激しい食品とエネルギー価格を除いたコアCPIも40年ぶりの高水準を記録しました。昨年12月までの1年間でCPIは6・5%、食費は10・4%、エネルギーは7・3%、コアでは5・7%の物価上昇で、物価は高止まりした状態が続いています。
物価の高止まりが続く中、最低賃金15㌦や賃上げを求めるストライキや抗議行動が22年には前年の390件から474件に増えました。労働組合への支持も09年の48%の最低水準から労働運動に新風吹く上昇を続け、1965年以来最も高い71%となっています。「米国史上、最も労働組合寄りの政権を率いる最も労働組合寄りの大統領」を標ぼうするバイデン大統領の存在も追い風となって、80年代以降停滞していた労働運動に新風が吹き続けています。
歴史的に低水準の失業率と労働運動の高まり、政権による労働組合の権限強化の姿勢を背景に、賃金は一昨年の21 年に5%、昨年第3四半期までの1年間では5・2%と、1984年以来の高い上昇率を示しています。しかし、7%を超える物価上昇に賃金の伸びが追い付かず、物価変動を反映させた実質賃金は減少しています。
◆COLA が復活
実質賃金の目減りを受けて、労働協約の「生計費調整条項(COLA)」の復活が注目されるようになりました。cOLA は、CPIに連動させて賃金を引き上げる方式で、70年代半ばから80年代初頭まで労働者の約60%が適用対象でした。
80年代以降の組合組織率の低下にともなってCOLAは労働協約から除外されるようになり、適用対象の労働者は激減しました。2021年秋の農機具大手ジョンディアや食品大手ケロッグでの大規模ストライキで勝ち取られたCOLA復活は、生活補償の賃金を要求する労働組合を鼓舞する契機となりました。
財界寄りのメディアは、COLA復活がインフレをあおると主張し、実質賃金引き上げを阻止しようとしています。こうした「賃金・物価スパイラル論」に対して、労働運動側は、インフレをあおっているのは便乗値上げで大もうけをする大企業の強欲であり、内部留保と株主配当を優先する分配構造を切り替えるべきだと主張しています。23年は、強欲・物価スパイラルを打ち破るさらなる労働運動の高まりが期待されます。(つづく)
【赤旗】1月18日 明海大学准教授 宮崎礼二さん<下> 若者が共和党躍進阻む
深刻な物価高騰は、昨年11月に実施された米国の中間選挙においてバイデン政権の経済政策の評価を下げ、与党民主党を苦戦に追い込みました。一方、予想された共和党の大勝に歯止めをかけたのは若者と女性でした。
◆高投票率2番目
18~29歳の若者の投票率は低迷を続けていましたが、今回の中間選挙では過去30年で最高だった2018年の前回の中間選挙に次いで2番目の高さを記録しました。激戦州での若者の投票率は、全米平均をさらに上回りました。投票した若者の民主党支持は60%を上回り、黒人の若者では89%、ヒスパニックの若者では68%が民主党を支持しました。
一大争点となった中絶間題では、「共和党による女性の選択の制限の是非を間う国民投票」と今回の中間選挙を位置づけた民主党に、多くの女性の支持が集まりました。女性の45%が共和党に、53%が民主党に投票。18~29歳の女性の35%が共和党に、63%が民主党に投票しました。
「労働者重視」の公約を掲げるバイデン政権は、連邦政府が定める最低賃金7・25㌦の引き上げを試みてきましたが、共和党の強い反対と民主党内での不一致によってとん挫してきました。米国では連邦政府だけでなく、州や郡・市などの地方自治体も独自の最低賃若者が共和党躍進阻む金を導入することができ、額の高い方が適用されます。連邦最低賃金引き上げが実現しないなか、多くの自治体で最賃の引き上げが進んでいます。
最賃引き上げは、住民投票やストライキなどの労働運動によって勝ち取られてきました。50州と特別区で連邦最低賃金を上回る州は31あり、うち25州ではこの6カ月で引き上げが実現しました。57郡・市では州最賃を上回っています。さらなる段階的引き上げを今後の数年間で実施する州・郡・市も多数あります。
過去4回の大統領選挙すべてで民主党候補が勝った19州と特別区のうち、1州を除いて最賃引き上げが実現しています。共和党候補が4回すべての選挙で勝利した20州では昨年まで最賃引き上げが実現していませんでしたが、うち5州では本年1月からの引き上げが勝ち取られています。物価高騰に実質賃金が追い付かない経済状況において、伝統的に保守の岩盤州でも変化が生じているようです。
中間選挙で共和党の躍進に歯止めをかけたのは若い世代の強い意思でした。富の再分配、気候変動、人種やジェンダーによる差別、医療保険、性自認などを「公正」「正義」の問題としてとらえ、その実現のための政治を民主党に求めています。
◆公正と正義要求
この声は民主党の進歩派議員連盟(CPC)の議席をさらに増やし、16人の新人議員が加わり下院議員103人と上院議員1 人の一大勢力になっています。1991年の下院議員わずか6人での発足から、現在では下院総数の24%、民主党下院議員のおよそ半分を占めています。24年大統領選挙を目指して、公正と正義を求める運動のうねりはますます高まることが期待されます。(おわり)