介護保険改定議論―利用抑制の加速は許されない(10月26日)、最悪の介護改定に反対―厚労省に署名8,4万人分(11月25日)、多元的危機経済に打撃(20カ国サミット「宣言」)ーいずれも「赤旗」
2022年11月26日
【赤旗】10月26日 <主張>介護保険改定議論―利用抑制の加速は許されない
岸田文雄政権が介護保険の見直しを進めています。2024年の3年に1度の改定に向けて、今年12月にも結論を出す予定です。見直し議論を行っている厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会には9月末、利用料の引き上げや介護サービス削減などが検討課題として示されました。これらが実施されれば、コロナ禍で疲弊し、物価高騰に苦しむ高齢者や家族はさらに負担を強いられ、必要な介護を受けられなくなる人も続発しかねません。介護の現場からは負担増とサービス削減に反対の声が相次いでいます。国民を苦しめる介護保険改悪は撤回すべきです。
◆負担増と給付削減が次々
厚労省は見直しの具体的項目に▽サービス利用料の2割負担と3割負担の対象拡大▽要介護1、2の訪問・通所介護の保険外し▽ケアプラン作成の有料化▽老健施設などの多床室(相部屋)の室料有料化―などを挙げています。
介護保険の利用料は2000年の制度発足から1割負担が原則でした。しかし、15年に一定所得以上の人は2割負担とされ、18年には3割負担も導入されました。厚労省は、「余裕」がある人が対象などと負担増を正当化しましたが、実際は負担が増えて介護サービスを削ったり、施設から退所したりした人は少なくありません。
1割負担でも経済的に苦しく利用サービスを減らす人がいます。財務省の財政制度等審議会は原則2割負担を提言しています。そんなことになれば、さらに多くの人がサービスを受けるのをあきらめてしまいます。利用抑制に拍車をかける負担増は許されません。
要介護1、2の訪問・通所介護を保険対象から外し、市区町村が運営する「総合事業」に移行させる案にも批判が上がっています。
総合事業は、自治体によってサービスの内容や担い手の確保に大きな差があり、全ての利用者に同じ質のサービスが提供されない危険があります。全国老人福祉施設協議会など介護事業所や介護の専門職員らでつくる介護関係8団体は21日、要介護1、2の訪問・通所介護を総合事業に移行する見直しに反対する要望書を厚労省に提出しました。要望書では、要介護1、2の人は認知機能が低下し、排せつ介助などの介護給付サービスがなければ在宅での自立生活が困難と訴えています。
認知症などは専門家の初期段階での気付きや早期の対応が進行を抑えることにつながります。要介護1、2の訪問・通所介護の保険外しは、介護状態を悪化させる高齢者を増やし、かえって介護給付費を膨張させることになります。
◆社会保障の拡充こそ急務
介護サービスを受ける大前提のケアプラン有料化は、利用控えを加速します。老健施設やショートステイの相部屋は低所得の人が多く利用します。有料化によって負担に耐えられない人は行き場を失う事態になりかねません。
75歳以上の医療費窓口負担が10月から「2倍化」され、高物価の中での年金削減は高齢者に大打撃です。追い打ちをかける介護の負担増と給付削減をストップさせることは急務です。介護保険改悪はコロナで疲弊している介護現場に一層の苦難を強いる重大な逆行です。大軍拡推進と大企業優先の政治から社会保障を拡充させる政治への転換が不可欠です。
【赤旗】11月25日 最悪の介護改定に反対―厚労省に署名8,4万人分―認知症の人と家族の会が提出
国民に負担増と給付削減を押し付ける介護保険見直しの議論が政府の審議会でヤマ場を迎えるなか、公益社団法人認知症の人と家族の会(鈴木森夫代表理事)は24日、利用料の原則2割負担や、要介護1・2の訪問介護・通所介護の自治体事業への移行などをしないよう求めた要望書を8万4092人分の署名を添え、加藤勝信厚生労働相あてに提出しました。
同会の鈴木代表らが厚労省の大西証史老健局長に署名を手渡し「9月から始めた署名がすでに9万人を超えるほど利用者・家族の思いは切実だ。見直しはやめてほしい」と要望しました。
オンラインでも取り組まれた署名はSNSで拡散され「原則2割負担」などがトレンドに入りました。
提出後の記者会見で鈴木氏は「史上最悪の改定ととらえ運動を進めてきた。専門的ケアが必要な要介護1・2の人の介護を無資格の人にゆだねることは、会として絶対に反対。年内に10万人をめざし署名を続ける」とのべました。
花俣ふみ代副代表理事は「後期高齢者医療が2割負担になり物価が上がっている。高齢者の負担は限界。介護保険の負担増と給付削減が実施されれば暮らしが成り立たない。暮らしは、断崖絶壁だ。『生きていけない』という声を受け止めてほしい」と強調しました。
【赤旗】11月23日 多元的危機経済に打撃(20カ国サミット「宣言」)
新型コロナウイルス感染、ロシアによるウクライナ侵略、そして今、世界経済は物価高騰に苦しんでいます。世界的に成長率が低下する中でもインフレ率が上昇。企業投資と個人消費にマイナスの影響が及んでいます。 国際機関や金融当局から懸念の声が上がっています。
インドネシアのバリ島で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が16日に採択した首脳宜言は、世界は今、「他に類を見ない多元的危機の中」にいると強調。「新型コロナウイルスのパンデミック(大流行)および気候変動を含むその他の課題によりもたらされた惨状を経験してきた」「ウクライナにおける戦争が世界経済にさらなる悪影響を与えていることも目の当たりにした」と指摘しました。
経済協力開発機構(OECD)によると消費者物価指数(CPI)で測定したOECD 諸国の前年比インフレ率は、8月の10・3%から9月には10・5%にまで上昇しました。38の加盟国のうち19カ国で現在、2桁のインフレが発生しています。
エネルギーのインフレ率は6月に40・7%でピークに達し、3カ月連続で緩和したものの、9月も28・8%と依然として高いままです。食品価格のインフレ率は引き続き上昇し、15・3%に達しました。
◆生活費への圧迫
コーマンOECD 事務総長は、「食料、エネルギー価格の上昇は、特に低所得世帯に大きな打撃を与えている。労働力不足が広がっているにもかかわらず、実質賃金の伸びは現在のインフレ率の上昇に追いついていない」と懸念を示します。
インフレによる生活費への圧迫は、特に低所得者に深刻な影響を与えます。この世帯では、エネルギーと食料への支出が所得に占める割合が他の所得層よりかなり高いため、死(〈的な影響をもたらします。
国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は10月に発表した声明で、「世界はここ3年未満で、ショックに次ぐショックに見舞われてきた。まず、新型コロナウイルスのパンデミック。次にロシアのウクライナ侵攻と、それに続く生活費の危機です。そして、これらの危機に対応する間、気候変動の危機に一時停止ボタンはない」と指摘しました。
ユーロ圏でも激しいインフレが襲っています。欧州中央銀行(ECB) のラガルド総裁は4日の講演で、「ユーロ圏経済は、経済の需要側と供給側の両面で前例のない一連のショックに見舞われている。総供給量に制限が課せられていると同時に、生産能力に制約のある分野に需要が振り向けられている」と、需要と供給の両面からの危機だとの認識を示しました。その結果、「大規模かつ持続的なインフレが発生した」と分析しています。
世界的なインフレに対応するために、各国では中央銀行が利上げを進めています。米連邦準備制度理事会(FRB)が4日発表した金融安定報告は、先進国での金利引き上げが新興国からの資金流出につながる危険性に言及しました。
◆金融環境悪化も
IMFのピエール・オリビエ・グランシャ経済顧間兼調査局長は次のよ「つに指摘します。
「金融市場に混乱が生じれば、世界の金融環境は悪化し、ドル高がさらに進んで、投資家が安全資産に向かう可能性がある。そうなれば世界の他の地域、とりわけ新興市場国や発展途上国では、インフレ圧力と金融脆弱(ぜいじゃく)性に拍車がかかるだろう。インフレは、またしても予想以上に長期化しかねない。労働市場の極度のひっぱくが続いた場合はなおさらである。最後に、ウクライナでは激しい戦闘が続いており、さらにエスカレートすれば、エネルギー危機が深刻化する可能性がある」
世界経済に立ち込める暗雲は晴れそうにありません。(金子豊弘)