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新しい資本主義を考える―合田寛さん寄稿① ② ③ ④ ⑤(「赤旗」連載)
2022年9月10日
【赤旗】9月6日 新しい資本主義を考える①―政治経済研究所理事 合田寛さん寄稿
 岸田文雄首相は8月10 日の内閣改造後の記者会見で、「新しい資本主義」の実現を新内閣の最重要課題とすることを改めて表明しました。岸田政権の構想はどんな内容か。世界は現代資本主義とどう向き合っているのか。政治経済研究所の合田寛理事に寄稿してもらいました。
 
 「新しい資本主義」の構想は岸田氏が昨年の自民党総裁選挙の時に打ち出したものです。その具体的な設計図と実行計画は、岸田氏の首相就任後、今年6月に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(以下「グランドデザイン」)として閣議決定されました。
 「グランドデザイン」は、1980年代以降に台頭した新自由主義が格差の拡大や気候変動の深刻化などの弊害を生み出したことを認める一方、「新自由主義は成長の原動力の役割を果たした」と評価しています。
 「資本主義は、市場メカニズムをエンジンとして、経済成長を生み出してきた。新しい資本主義においても、徹底して成長を追求していく」今日起きている資本主義の諸問題は、成長の果実が適切に分配されないといった「目詰まり」が生み出したものであり、「目詰まり」を取り除きさえすれば持続可能な成長につながるといいます。
 「目詰まり」とは、当初意図していた経路が何らかの不純物でふさがれることであり、意図に反する偶発的な事故という意味合いを帯びた言葉です。しかし現代資本主義のさまざまな弊害は、分配の経路の「目詰まり」といつような意図せざる事故から生じたのではありません。それは80年代以降に主要国で支配的となった新自由主義により、分配の経路が株主偏重へと政策的にねじ曲げられたことから生じたのです。
◆搾取を野放し
 新自由主義は資本の利潤追求の障害を取り除き、株主の最大利益を図る思想であり、経済体制です。富裕者と大企業への減税、社会保障の解体、規制緩和、国有企業の民営化、労働組合活動の抑圧などを推し進めて国民の権利を後退させ、国民から搾取・収奪する巨大資本の自由を野放しにしました。新自由主義を根本から転換しなければ、新自由主義がもたらした弊害を除去することは不可能です。
 岸田氏の「新しい資本主義」の当初プランは曲がりなりにも「新自由主義からの転換」を掲げ、「所得倍増」や、「金融所得課税見直し」による「1億円の壁(所得が1億円を超すと税負担率が下がる現象)の打破」などを打ち出していました。
 ところが「グランドデザイン」は新自由主義の転換に背を向け、「資本主義のバージョンアップ」を図るという結論を導き出しています。岸田氏が当初プランに掲げた分配重視-の政策を後景に押しやったのです。新自由主義を温存しながら「資本主義のバージョンアツプ」を図れば、資本主義の矛盾はますます増幅します。
◆広がる不平等
 新自由主義が生み出したさまざまな弊害のなかでも、不平等の拡大は深刻です。
 『世界不平等レポート2018』(世界不平等研究所)によると、1980年から2016年までの世界の所得増加分のうち、57%は上位10%の富裕者の手に入りました。全人口の半数である下位50%の人びとが受け取った分はわずか12%でした。
 日本も例外ではありません。『世界不平等レポート2022』によると、日本の上位10%の富裕者の所得が総所得に占める割合は、1980年代までの30~35%から増え続け、2021年には45%に達しています。一方、下位50%が占める割合は減り続け、わずか17%という状況です。
 こうした不平等の拡大を招いたのが、政府が進めてきた新自由主義政策です。なかでも富裕者や大企業に対する減税が大きな役割を果たしたことは明らかです。(つづく)(5回連載です)

【赤旗】9月7日 棚しい資本主義」を考える②
 1980年代以降40年以上にわたる新自由主義政策の下で、極端な不平等の拡大、気候変動の深刻化、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行など、さまざまな危機が進行しました。世界は共同してこの困難な課題に立ち向かわなければなりません。
 「新しい資本主義」の構想はこの課題に応えることができるでしさつか。岸田文雄首相は国会で「新しい資本主義」に関して間われて「日本のみならず欧米でも同じ発想で新しい経済モデルが模索されている」(5月26 
日、衆議院予算委員会)と述べ、日本の取り組みは世界の潮流に沿ったものであることを強調しました。しかし本当にそう言えるでしょうか。米国の例を見てみましょう。
◆大企業に課税
 米国では8月16日、「インフレ抑制法」が成立しました。「日経」(8月18日付電子版)は「大企業への課税強化を柱とした新たな歳出・歳入法がバイデン大統領の署名を経て成立した。1980年代から続いてきた大企業偏重の分配を見直すことで、社会の分断を広げた資本主義の修正に半歩踏み出した」と評価しています。
 同法は10年間で総額4370億㌦(約59兆円)の歳出を盛り込んでいます。気候変動対策や医療保険への補助などです。一方、歳入は歳出を大きく上回る7370億㌦(約98兆円)です。財政赤字を削減し、インフレ抑制につなげる狙いがあります。
 注目されるのは、財源として法人税に15%の最低税率を設定していることです。大企業に対して、税負担率が分配を見直す米政権15%に達するまで、その差額の税の支払いを義務付けます。
 ワシントン・ポスト(8月12ロ得]電子版)によると、10億㌦以上の利益を上げる米国の大企業250社のうち、83社が税制上の各種控除などによって15%以下の税負担率となっています。アマゾン、インテル、バンク・オブ・アメリカ、T&T 、GMなどです。15%の最低税率を設けることによって10年間で2200億㌦の増収が見込まれ、この増収が歳出増の相当部分を支える予算となっています。
 もちろん「インフレ抑制法」はバイデン政権が当初掲げた「ビルド・バック・べター」(より良い再建)プランから見れば、ささやかなものです。
◆劣勢乗り越え
 バイデン政権は発足後、「米国救済計画」(総額1・9兆㌦)、「米国雇用計画」(2兆㌦)、「米国家族計画」(1・8兆㌦)を打ち出しました。コロナ対策のみならず、雇用、子育て支援、教育、インフラ整備、気候変動対策を含む大型の長期予算を提案したのです。
 「米国雇用計画」と「米国家族計画」の財源は大企業や富裕者への課税強化で賄われることとされていました。いくつかの法案が議会に提案されましたが、共和党や民主党の一部議員の抵抗で、実現は難航しました。
 しかしバイデン政権は当初案の実現をあきらめませんでした。今年3月末に議会に提案した予算教書でも、法人税率を現行の21%から28%に引き上げるという税制改革を提案しています。この案には個人所得税の改革も盛り込まれました。1億㌦超の資産を保有する上位0・01%の富裕者に対して、未実現のキャピタルゲイン(資産売却益)を含めた全所得を対象に、20%の最低税率を設定するものです。また、年間所得40万㌦(約5400万円)以下の人には増税しないことを約東しています。
 8月に成立した「インフレ抑制法」は、議会での劣勢を乗り越えて、大企業への増税計画の一部がようやく実現したものです。大きな前進と言えます。
 ひるがえって日本では、与党が襲云で圧倒的な多数を握っていながら、大企業に対する増税はおろか、金融所得課税による富裕者増税すら、提案する気配が見えません。日米両政権の姿勢の違いは歴然としています。(つづく)

【赤旗】9月8日 新しい資本主義を考える③
 「新しい資本主義」に関する岸田文雄氏の当初プランは「新自由主義からの転換」を掲げました。「令和版所得倍増」を唱え、「金融所得課税の見直し」を打ち出すなど、分配面を重視する政策を盛り込んでいました。
 しかし、岸田政権が6月に閣議決定した「新しい資本主義グランドデザイン」は、「新自由主義からの転換」のフレーズを採用しませんでした。その代わりに、第一の柱として掲げたのは「資本主義のバージョンアップ」でした。新自由主義については、「成長の原動力の役割を果たした」と、肯定的に評価しました。
 岸田プランが変質する転換点となったのは、5月5日に世界の金融の中心地である英国ロンドンのシティーで岸田首相が行った講演でした。シティー講演の要点は、「日本経済はこれからも力強く成長を続ける」「安心して日本に投資してほしい」というものでした。分配ではなく成長に力点が置かれました。
◆貯蓄から投資
 岸田首相がシティー演説で強調したのは、シティーをモデルにして日本を金融で繁栄する国にすることでした。そのための戦略の一つとして挙げたのは、2000兆円にのぼる個人の金融資産を投資に結び付け、成長戦略の柱とすることです。巨額の金融資産を「大胆・抜本的に」貯蓄から投資に振り向けることを提唱しました。
 岸田首相は「貯蓄から投資へ」のシフトを「資産所得倍増計画」と位置づけ、国民の所得を増やすための計画であるかのように装っています。しかし、多くの国民の資産所得(配当・利子・地代など)は少額であり、倍増してもたいした額になりません。金融市場の成長で所得が大きく増えるのは、巨額の株式や債券を保有する一部の富裕者のみです。
 「資産所得倍増計画」の本当のねらいは金融市場の活性化を図ることにあります。これは日本を国際金融センターとする戦略と一体のものです。シティー講演で岸田首相は、「新しい資本主義を実現するためには、国際金融センターとしての日本の復活が必要です」と述べ、日本がシティーと並ぶ国際金融センターとしての地位を目指すことを宜言しました。
◆汚い資金流入
 岸田首相が日本の進むべきモデルとして描くシティーは、国際的な金融の中心であると同時に、ダーティーマネー(違法な活動で得た汚い資金)が流入するオフショア(無規制・非課税の金融地域)の中心です。シティーは、ケイマン諸島などの英国海外領土やジャージーなどの英国王室属領とともに、オフショアのネットワークをつくり上げています。
 ロシアのウクライナ侵攻によって浮かび上がったのは、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)がロンドンに持ち込んだ巨額の不法資金です。英国政府は彼らにゴールデンビザ(投資家限定の在住許可)を与え、積極的に呼びこんでいました。
 ロシアのオリガルヒに対するオフショアサービスは、ダーティーマネーの流入を許しただけではありません。英国における「法の支配」を弱め、民主主義の基礎を揺るがすとの深刻な懸念が指摘されています。ロンドンにある世界有数のシンクタンクである王立国際問題研究所が昨年末発表した「英国のクレプトクラシー(横領で私腹を肥やす権力者の泥棒政治)問題」と題する報告書は、以下のような趣旨の批判を展開しています。
 ソ連崩壊とともに旧ソ連のエリート(オリガルヒ)が巨額の利益を得る機会が生まれた。その過程において英国の銀行、法律事務所、資産管理会社など職業的金融サービス業者は大きなビジネス機会を得た。彼らは不法資金と正当な資金をまぜ合わせ、合法的資金に見せかけるマネーロンダリング(資金洗浄)を助けた。そうすることによって、彼らは英国の法制度に抜け穴をつくり、腐敗に対する取り組みを弱め、「法の下の平等」、ひいては「法の支配」を損なわせた ―。(つづく)

【赤旗】9月9日 新しい資本主義を考える④
 岸田文雄首相が英国ロンドンの金融街シティーに学び、実現しようと考えているのは、金融市場を活性化し、日本を国際金融センターとして復活させることです。
 しかし、世界の金融センターを目指してきた英国の政策は、金融産業を肥大化させた半政治経済研究所理事、11 芭さノ「旧多ん面、製造業を衰退に追い込み、英国経済に負の効果と深刻なゆがみをもたらしました。大きすぎる金融は国を貧しくするという逆説、「金融の災い」とも言われる現象です。それは次のような形をとって表れます。
 ①過大な金融部門を持つ国では、金融部門が高給で人材を集め、他産業から優秀な人材や資源を奪う結果、製造業など他産業を枯渇させる。
 ②過剰な金融部門を持つ国では、実体経済を上回る余剰資金は投機活動や企業買収などのマネーゲームに費やされ、長期的な視野に立った経済活動が行われなくなる。
 ③過大な金融資産の蓄積は、所得と富の不平等を増幅し、格差をますます拡大する。
 ④過剰な金融資産が蓄積する経済は、金融の膨張とその破裂を繰り返し、グローバルな金融危機と経済破綻の原因となる。
 ⑤過大な金融部門を持つ政府は、市民を犠牲にして金融資本を優遇する政策をとる。資本は移動しやすく、優遇措置を与えなければ、他の金融センターに逃避するからである。
 要するに、金融の発展は実体経済を支える限り経済に好ましい影響を与えますが、ある限度を超えると甚大な社会コストをもたらし、成長を阻害するといつことです。
◆GDPl年分
 どの程度の社会的コストが発生したかの研究もあります。マサチユーセッツ大学のジェラルド・エプスタイン教授らは、①金融セク金融の災い」で国衰退」ターが得た独占利潤②資源の誤った配分によるビジネスや家計からの収奪③金融機関救済など金融危機がもたらしたコスト―の三つをあげ、過剰な金融によるコストを試算しています。
 それによると、米国の金融システムは1990~2023年の間に、米経済に13兆~23兆㌦もの余分なコストを課しています。これは米国の国内総生産(GDP)のほぼ1年分に相当します。
 また英国の社会的コストを同様の手法で推計すると、1995~2015年に過大な金融がもたらしたコストは4・5兆£で、これは英国の平均GDPの約2・5年分に相当する大きさです。
◆底辺への競争
 岸田首相は、金融市場の活性化を通じて、シティーと並ぶ国際金融センターの地位に日本を押し上げることを目指しています。日本政府が念頭に置くのは、シンガポールや香港に代わってアジアにおける国際金融のハブになることです。
 しかしシンガポールや香港は低税率と緩い金融規制で知られるタックスヘイプン(租税・規制回避地)です。
 これらの国と競って日本が世界の資金を呼び込むためには、日本も類似の税制・金融措置をとることが求められます。現に金融庁は財務省主税局に対して、法人税・所得税・相続税の軽減措置を求め、海外の資産管理会社や金融の専門家に対する優遇措置を強めようとしています。
 こうした施策は日本をオフショア(無規制・非課税の金融地域)化の道に導き、ダーティーマネー(違法な活動で得た汚い資金)の流入や腐敗を招く原因ともなります。
 国際金融センターをめぐる競争は、オフショア性を競う競争です。規制と税の国際的な切り下げ競争、「底辺への競争」を招きます。犠牲となるのは、公共支出に必要な税収を失い、「金融の災い」を被る一般市民です。(つづく)

【赤旗】9月10日 新しい圃しい資本主義を考える⑤
 岸田文雄内閣が掲げる「資本主義のバージョンアップ」は資本主義をどこに向かわせるのでしょうか。岸田内閣が閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン」は、「自由と民主主義は、権威主義的国家資本主義からの挑戦にさらされている」と述べています。ロシアや中国を念頭に置いて、冷戦型の思考でこれらの国と対峙(たいじ)する姿勢を示したものです。
 しかし今日、自由と民主主義への脅威は、ロシアや中国などの権威主義国家によるものだけでしょうか。欧米資本主義国による自由と民主主義への脅威も同様に深刻です。
◆税逃れの温床
 長期にわたるグローバル化と新自由主義の結果、世界では一部の富裕者に富が集中し、社会の不平等が極端に広がっています。富裕者が政治権力と結びついたとき、金権政治と腐敗が進行します。
 富裕者と巨大企業の税逃れやマネーゲームの温床となっているのはタッークスヘイブン(租税・規制回避地)やオフショア(無規制・非課税の金融地域)です。その中心はヤシの茂る島ではなく、英国のロンドンや米国のニューョークにあります。これらの国際金融の中心地では、メガバ
ンク、巨大会計事務所、法律事務所などの金融サービス産業が、ダーティーマネー(違法な活動で得た汚い資金)を受け入れ、税逃れやマネーゲームを指南し、マネーロンダリング(資金洗浄)に手を貸しています。
 ダーティーマネーを動かしているのはロシアのオリガルヒ(新興財閥)だけではありません。タックスヘイプンやオフショアを最も広範かつ大胆に利用しているのは欧米の富裕者と多国籍企業です。その仕組みが不平等を一層拡大する原因ともなっているのです。
◆終着点は同じ
 不平等の傑出した研究者であるニューョーク市立大学客員教授のブランコ・ミラノヴィッチは現代の世界につ永久不変のシステムかいて、米国が代表する「リベラル能力資本主義」と、中国が代表する「政治的資本主義」との対立と見立てています(『資本主義だけ残った』)。しかし、不平等と腐敗を招いている点ではどちらも共通だと指摘しています。
 能力主義的な資本主義の下で経済的な力と政治的な力が結びつけば、ますます金権腐敗と不平等が進み、官僚が支配する政治的資本主義と似通ったものになるー。終着点は同じだというのです。
 ミラノヴィッチは資本主義に代わる社会体制はないと考える一方、誰もが資本所得と労働所得をほぼ等しい割合で得る「民衆資本主義」に進化する可能性に希望を託しています。
 一方、フランスの経済学者トマ・ピケティは、所得と富に対する累進課税によって富の集中を是正するとともに、それを財源として若者に等しく分配する普遍的な資本贈与によって、財産と富の恒久的な循環をつくり出す「新しい社会的所有」の形成を主張しています。(『資本とイデオロギー』〈未邦訳〉)
 これらの主張には、資本主義の枠内では実現が困難な内容も含まれています。これに対し、岸田内閣の「新しい資本主義のグランドデザイン」は、「資本主義を超える制度は資本主義でしかあり得ない。新しい資本主義は、もちろん資本主義である」と、資本主義が永遠に続くものと一方的に断定しています。
 世界を「自由主義陣営」と「権威主義陣営」に二分し、一方が善で他方が悪だと決めつける考え方は、冷戦型思考の遺物です。現実には、どちらの陣営も自由と民主主義にとって脅威になる可能性をはらんでいます。
 また、現行の資本主義を永久不変のシステムと考えるべきではありません。バイデン政権のビルド・バック・べター(より良い再建)政策のように、新自由主義を超える政策をとることもできます。さらに、資本主義の枠内では実現が困難なさまざまな改革が、従来の社会主義者以外からも提案される状況が生まれています。(おわり)