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検証 アベノミクス(つづき―浜 矩子さんに聞く)(「赤旗」)
2022年8月7日
【赤旗】8月3日 検証 アベノミクス―21世紀版 大日本帝国を企て―同志社大学教授 浜 矩子さん①
 阿部晋三政権の「アベノミクス」は岸田文雄政権と黒田東彦日銀に引き継がれ、日本の経済社会を危険な道にひきずりこんでいます。2012年末に第2次安倍政権が発足した直後からアベノミクスを批判し続けてきた同志社大学の浜矩子教授に聞きました。(杉本恒如) 連載4回

―アベノミクスの最大の問題点はどこにありますか。
 安倍氏は15年4月にアメリカを訪れ、笹川平和財団アメリカで講演しました。その講演の中で彼は述べました。「私の外交安全保障政策はアベノミクスと表裏一体であります」と。政治的狙いを達成するための手段として経済政策を使うという宣言です。ここに安倍式経済運営の最大の問題があります。
 安倍氏の政治的狙いは「戦後レジーム(体制)からの脱却」であり、戦前の世界に戻ることでした。21世紀版大日本帝国の構築を企てたのです。安倍式経済運営で富国を実現し、改憲で強兵を進める。今日的な富国強兵路線です。
◆世界大戦の教訓
 経済政策と外交安全保障政策が表裏一体だというのは、たいへんな不規則発言だといわなければなりません。経済政策を軍事戦略と結びつけるのは許されないことなのです。理由は二つあります。
 一つは、経済政策や対外的な経済関係に戦略性を持ち込んだために、世界がブロック経済化に向かい、第2次世界大戦に突入してしまったことです。
 領土拡張のために経済同盟をつくる。天然資源を確保するために特定の国・地域と経済協定を結ぶ。自国産品の市場を囲いこむ目的で排他的な経済連携関係を形成する。こうしたやり方の応酬をしているうちに、世界はブロック経済主義に陥り、本当の戦争になってしまいました。
 だから、もっ二度と同じ過ちを繰り返さないという共通認識に立って、戦後のGATT(関税貿易一般協定)体制がつくられたのです。経済の世界に戦略性を持ち込まない、という思いで世界各国は一致しました。そうした戦後の出発点に真っ向から反することを、安倍氏はいっていたわけです。
 もうーつの理由は、経済政策には固有の使命があることです。
 経済政策の第一の使命は経済活動の均衡を保持し崩れた均衡を回復することです。第二の使命は弱者を救済することです。これらは人間の生存権に関わる絶対的な使命です。経済政策にそれ以外の目的を持ち込んではいけません。いわんや、政治的・戦略的目的のために経済政策を使うのは絶対に許されないことです。
 こうした二つの角度から考えて、安倍式経済運営は容認しがたい政経一致路線です。
◆ウクライナ便乗
―安倍氏の「功績」を引き継ぐと表明している岸田政権は、軍事費倍増と改憲の路線を突き進んでいます。
 ウクライナ情勢に便乗して、かねてから狙っていた軍拡と改憲を実現するという発想で突っ走っています。現行憲法を持つ日本にふさわしい軍事問題への関わり方はどういうものかといつことを全然踏まえず、財源をどうするかも示しません。
 まともな政治家のやることではありません。国民の生活と生命を守り、国民に尽くすために存在するのが政府であり、政治家たちだという構図を全く理解していません。自民党という政党がいかにまともな政治家の集団ではないかということを示しています。
◆弱者の命の危険
―経済政策の第一の使命が経済活動の均衡の保持と回復だというのはなぜでしょうか。
 経済活動のバランスが崩れたときに、いの一番に傷つくのは弱者たちだからです。経済政策の第二の使命は弱者救済ですので、その使命に忠実であろうとすれば、経済活動の均衡を保持しておかなければいけません。
 日本経済の均衡がデフレ(持続的な物価下落)の方向に崩れたことで、多くの弱者が痛みました。物価が下がれば、企業はそれ以上のペースで賃金を下げようとします。デフレは経済活動が縮むということですから、職を失う人たちも増えます。もともと危うい立場にいた人たちの生活が破壊され、究極的には生命の危機に直面してしまいます。
 インフレ方向に崩れても同じです。いま、われわれはそれを目のあたりにしています。生活物資の値段がどんどん上がり、食べる物を節約しなければいけないという悲鳴があがっています。増えたコストを価格に転嫁できない中小零細企業では賃金に一段と下方圧力がかかりかねません。やはり弱者が傷ついています。
 だから弱者を生命の危機から守り、人びとの生存権を守るためには、バランスのとれた経済状態を保持しなくてはいけないのです。
 「表裏一体」というならば、経済の均衡保持と弱者救済はまさに表裏一体です。これが経済政策における表裏一体という言葉の正しい使い方です。(つづく)

【赤旗】8月4日 検証 アベノミクス―弱者救済の思想ない 浜 矩子さん②
―アベノミクスは「デフレ脱却」をめざす「リフレ政策」だといわれました。それに対して浜さんは2013年5月に「これは『リフレ政策』ではない」(『「アベノミクス」の真相』)と指摘しています。資産インフレと実物デフレが同居することになるだけだ、という警告でした。その後、日本経済はこの予言通りの状況になりました。
 リフレーションとは「もう一度膨らます」という意味です。しぼんだ経済風船をもう一度ほどよいところまで膨らますという考え方は、それ自体が悪いわけではありません。
 しかし安倍晋三政権と黒田東彦日銀がやり始めたことは、しぽんだ実物経済の風船に空気を送り込むリフレ行為「リフレ政策」ではありませんでした。リフレ政策を展開するという建前は、隠れみのだったのです。
 安倍氏の狙いは当初から、財政ファイナンス(中央銀行が政府に資金を供給すること)のために日銀にがんがん国債を買わせることでした。日銀を政府の打ち出の小づちにすることを正当化するために「リフレ派」といわれる論者を集めて体裁を整えただけでした。
◆バブル製造装置
 安倍氏のもうーつの狙いは、日銀をバブル製造装置にすることでした。21世紀版大日本帝国づくりに協力してくれる大企業の株が上がれば仕事がしやすくなる、という発想だったのでしょう。まともなリフレ政策の考え方ではありません。
 日銀が国債を買いまくっても、資金はあまり市場に流れず、金融機関の日銀当座預金に積みあがりました。その余り金は生産的な投資に向かわず、個人消賛の盛り上がりにもつながりませんでした。賃金が上がらないのに人々はカネを使いません。企業も内部留保を積み上げており、資金需要がありません。
 結局、あふれ出たカネは株式市場に向かって資産インフレを高進させました。実物経済のシワシワ風船はしぼんだまま、もうーつ別のバブル風船がパンパンに膨らんだだけだったのです。
―黒田日銀は「異次元の金融緩和」と称して株式投資信託や不動産投資信託まで大量に買いました。
 もはや金融政策ではありません。日銀を除いて世界の中央銀行は株を買いません。中央銀行は節度のないことをやらない、という暗黙裏の大鉄則があるからです。
 金融政策の最大の使命は通貨価値の安定を図ることです。そういう使命を担う中央銀行にとって、価値の安定しないリスク資産への投資は明らかにふさわしくありません。ですから黒田日銀は本来の使命を果たそうという意志を最初から全く持っていなかったとしか考えられません。
◆下は冷たいまま
―アベノミクスで実物経済が膨らまないのはなぜですか。
 安倍氏は、日銀の財政ファイナンスによってやりたいことに湯水のごとくカネを使える状態にし、「いけいけ、どんどん」的な日本経済をつくりだそうと考えたのでしょう。その中で大きな一角を形成しているのが軍備増強です。ほかにも「地方創生」や「観光立国」などを掲げました。
 教科書通りなら金融緩和と拡張財政に経済は反応するのですが、安倍式経済運営の枠組みではそうなりません。弱者を救済するという思想が政策の中に全然ないからです。
 日本経済の大きな問題は豊かさの中の貧困です。たいへん豊かな国であるにもかかわらず、6人に1人が貧困者という状態です。
 弱者を救済して格差を埋めるという政策をとっていれば、結果は全然違っていたことでしょう。そこに目を向けず、ビッグプロジェクトにカネを使い、大企業に大盤振る舞いをしても、冷たいところにいる人たちには何の恩恵も及びません。
 上の方がオーバーヒートして資産インフレになっても、トリクルダウン(富が滴り落ちる効果)が働くわけもなく、下の方は冷たいままなのです。これでは実物経済が力強く回るはずがありません。(つづく)

【赤旗】8月5日 検証 アベノミクス―円安神話 浜 矩子さん③
―円安がアベノミクスの狙いのーつだったことは、安倍晋三氏らの当初の発言から明らかでした。浜さんは2013年5月に「円安だけで日本経済は復活しない」(『「アベノミクス」の真相』)と予言しています。この予言も的中しました。
 安倍氏らが円安を狙ったのは発想が時代遅れだったからです。高度成長期のイメージに固執し、当時の日本を取り戻そうとしたのです。21世紀版大日本帝国の強い経済基盤という目的のためです。
 日本が高度成長したのは1㌦が360円の時代です。1㌦が100円割れの水準を転換して円安に持っていけば、日本経済に神風が吹くと安倍氏らは信じてやまなかったのでしょう。「これは浦島太郎の経済学である」というのが私の考えでした。長い時間がたつうちに状況がまるで変わったことを見過でしている、という意味です。
 高度成長期の日本はまだ戦後の発展途上にあり、輸出主導型成長の国でした。しかし、いまの日本は国内総生産(GDP)世界3位の経済大国です。インフラが整い、経済は育ちあがっています。
◆輸入依存度高く
 経済活動に占める輸出の割合は低下し、輸入依存度が高くなっています。多様な生活物資を輸入し、サプライチェーン(企業の供給網)もグローバル化しています。輸出企業も輸入部材に大きく依存しています。多少値段が上がっても、生活物資や生産財の輸入量を減らすわけにはいかないという構造です。
 成長神話と円安神話を信じる安倍氏らは異次元金融緩和で円を過剰供給状態にし、円の価値を低下させて円安を実現しました。輸入物価が上がれば輸入は減ると考えたのでしょう。しかし輸入量は減らず、かえって輸入の円建て金額が大きく膨らんでしまいました。
 輸出も同じです。 
 高度成長期の日本は高品質のものを低価格で輸出し、アメリカでは「ワンダラー(1㌦)ブラウス」が攻め込んできたと大騒ぎになりました。
 しかし、いまや低価格品の生産拠点は海外に移転し、日本の輸出品目は値段の安さに依存しない高付加価値品が主になっています。だから、円安で輸出品の値段が安くなるからといって、輸出量が顕著に増えることにはなりません。神風は吹かないのです。
 円安追求は、安倍的な考え方の時代錯誤性を最も色濃く体現しているといえます。
―欧米諸国が金融引き締めに転じる中で日銀は緩和に固執し、円安が急進して物価上昇に拍車をかけました。それでも黒田東彦日銀総裁は、日本経済にとっては「全体として円安がプラス」(4月28日)だと述べました。
 輸入物価指数は6月に前年同月比46・3%上がりました。生産者は生産コストの上昇に、生活者は生活コストの上昇に見舞われています。多くの中小零細企業は増えたコストを価格に転嫁できていません。その分、賃金に下方圧力が働く、とんでもない状況です。
 しかし日銀が円安を止める方向に動くためには国債の大量購入をやめ、財政ファイナンスを断念しなければなりません。それでは「親会社」である政府の命令に反します。
 だから黒田日銀は「円安はプラス」というお題目を唱えて金融緩和を続けているのしょう。円安で国民と企業を苦しめてでも財政ファイナンスを続けるという、反国民的な政策姿勢です。
◆国債保有5割超
―日銀は10年物国債利回りを0・25%以下に抑えるため、6月に国債を16兆円以上も買い入れました。
 海外の投機筋が「日銀の政策は続かない」とみて国債を売り、金利に上昇圧力がかかったのです。国債の発行残高に占める日銀の保有割合は5割を超え、日本経済は異様な姿になっています。海外の機関投資家が本気で国債売りに動けば、国内の機関投資家も逃げたい気持ちが強まるでしょう。ものすでく危うい状況です。
 最終的には、国債価格が暴落して金利が急騰するのを阻止するために、資金の国際移動を凍結して金融鎖国をするほかなくなる恐れがあります。筋違いな政策運営を続けると、こういうことになるのです。私がアホノミクスという言い方をしてきたゆえんです。(つづく)

【赤旗】8月6日 検証 アベノミクス―憲法の精神 浜 矩子さん④
―いまの日本経済の構造にはどのような問題がありますか。
 21世紀に入ったころから、日本経済は「壊れたホットプレート」になっていると考えるようになりました。
◆二分極化した姿
 ホットプレートの有用性の決め手は、鉄板上にむらなく熱が行き渡ることです。しかしたまに、できの悪いホットプレートがあります。熱が均等に行き渡らず、アツアツのホットスポットと冷え冷えのコールドスポットに二極分化してしまうのです。まさしく日本経済の今日的姿です。
 日本の壊れたホットプレート上で灼熱地帯に陣取るのが富裕層です。株価が上がれば盛り上がり、高額商品が飛ぶよつに売れます。かたや永久凍土に閉じ込められているのがワーキングプアといわれる人たちです。一度コールドスポットに追い込まれると、脱出することは至難の業です。
 1990年代のバブル崩壊で日本経済が丸ごと集中治療室に入った後、何とか退院という段階で、日本企業を待ち受けていたのはグローバル競争の仮借なき淘汰(とうた)の論理でした。成果主義経営が一気に広がり、人に対する差別と選別が横行しました。
 グローバルジャングルに放り込まれた日本企業が自己保身に走った結果、壊れたホットプレート化現象が発生したのです。
 安倍式経済運営が21世紀版大日本帝国の強い経済基盤づくりを政策目標にしたため、二極分化はさらに進みました。強者をサポートし、弱者を切り捨てるという構えが一段と顕著になりました。アツアツ部分は一段とアツアツになり、冷え冷え部分は一段と冷え冷えになりました。
 この格差を埋めるために必要なのは、分配です。鉄板全体に熱を上手に行き渡らせるのが分配機能なのです。
◆「三つの出会い」
―済活動のあるべき姿と日本国憲法の関係をどう考えますか。
 人間のための経済活動の基盤となるのは、三つの出会いです。
 一つ目は、多様性と包摂性の出会いです。
 多様性が大きく包摂栓が高い空間では、人の痛みが理解され、異なる者たちが受け入れられます。分かち合いの精神が芽生え、富の偏在を是正する力学が働きます。多様性と包摂性の出会いは、個人の尊重と分配の充実を可能にするのです。
 二つ目は、正義と平和の出会いです。
 キリスト教の旧約聖書には「正義と平和は抱き合う」という一節があります。胸を打つ美しいフレーズですが、実はとても難しいことをいっています。誰かの正義が誰かの正義と出会うとき、生まれ出るのは平和ではないケースがあまりに多いのです。それでもわれわれは、正義と平和の出会いをめざさなければ幸せになれません。
 三つ目は、狼(オオカミ)と子羊の出会いです。
 これも旧約聖書に登場する題材です。「狼は子羊と共に宿り、豹(ヒョウ)は子山羊と共に伏す」狼は強い肉食獣であり、子羊は餌食となる草食動物です。しかし現代のグローバルジャングルでは、狼のような大企業も子羊のような中小零細企業のお世話にならなければ生きていけません。
 この三つの出会いの実現している場所が日本国憲法です。とりわけ憲法前文の次のくだりは重要です。
 「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」相手の公正と信義にすべてをゆだねるという大胆にして美しい精神。これこそは正義と平和の出会いを可能にする認識であり、正真正銘の積極的平和主義です。多様性と包摂性の出会いでもあります。
 異なる発想や文化を持つ者同士が互いを受容するのですから。そうなれば、強い国も弱い国も狼と子羊のでとく助け合って共生することができます。
 これら三つの出会いがベースになって人間を幸せにする経済活動の姿ができるのです。21世紀版大日本帝国をめざすような経済運営ではなく、憲法に基づく本物の積極的平和主義の下でこそ、経済活動はその本来の姿を保てるということです。(おわり)