(日銀は)異次元金融緩和への固執―金利政策を放棄 円安、部下高招く(【赤旗日曜版】7月10日)
2022年7月16日
【赤旗日曜版】7月10日〝経済 これって何?〟 異次元金融緩和への固執―金利政策を放棄 円安、部下高招く
「異次元金融緩和」は日本銀行による造語ではありません。
日銀は、黒田東彦(はるひこ)総裁のもとでの最初の会合である2013年4月の政策委員会において、「量的・質的金融緩和」の導入を決定しました。公表文には「日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%の『物価安定の目標』を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」、このため「量・質ともに次元の違う金融緩和を行う」とあります。異次元金融緩和は、このうちの後半の表現に着目して、マスコミが名づけたものです。
「量的・質的金融緩和」の目玉は、金融市場調節の操作目標を、それまでの短期金利からマネタリーベースに変更した点にあります。マネタリーベースとは、現金(日銀券と硬貨)発行高に、金融機関が日銀に保有する当座預金額を加えたものを指します。つまり、金利政策から量的政策へと抜本的な転換を図ろうというわけです。
伝統的金融政策は、金利操作を通じて、経済・物価の動向に働きかけようとするものでした。
量的・質的金融緩和は、マネタリーベースの増加と予想インフレ率の引き上げを通じて、経済・物価の動向に働きかけようとするものです。
この量的・質的金融緩和は、その後も、14年10月の「量的・質的金融緩和」の拡大、16年1月の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」、16年9月の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という形で継承されました。最後の政策は現在も進行中です。したがって異次元金融緩和も進行中です。
日銀総裁の任期は5年で、2期目の黒田総裁は23年4月に満了となります。しかし、これまでのところ、わが国の消費者物価(除く生鮮食品)は「安定的」に2%を超えたことがありません。
そんな中で、異次元緩和の副作用が目立ち始めるようになりました。その一つが、最近の円安・ドル高の進展に伴う輸入物価の高騰ぶりです。国民はこれによる物価高に悩まされています。
米連邦準備制度理事会(FRB)は、資源高による世界的な物価騰貴に対応するため、22年3月、5月、6月と続けて政策金利を引き上げ、現在は1・50~1・75%の水準にあります。
これに対して日銀は、資源高は一時的で、間もなく下がり始めるとの理由から、政策金利を据え置く姿勢を変えません。同行の現在の金利目標は短期金利についてはマイナス0・1%、長期金利(10年物国債金利)についてはゼロ%程度です。これでは、投資家が円建ての金融資産を売ってドル建ての金融資産を買うので、円安・ドル高が進むのも道理です。
こうした事態になったそもそもの原因は、2%の「物価安定の目標」ならびに異次元金融緩和への固執にあります。日銀はこれらの政策をきっぱりと放棄し、伝統的な意味での金利政策に復帰するべきです。
建部正義(たてベ・まさよし中央大学名誉教授)