異次元緩和10年目―実体経済支える政策に転換を(「赤旗」6日)、経済安保法案―軍事と一体化図る危険明らか(「赤旗」9日)
2022年4月9日
【赤旗】4月6日<主張>異次元緩和10年目―実体経済支える政策に転換を
日本銀行の黒田東彦総裁のもと2013年に開始された量的・質的金融緩和(異次元緩和)が4日で10年目に入りました。異次元緩和は、安倍晋三首相(当時)の経済政策アベノミクスの柱のひとつです。物価が2%上昇するまで金融緩和を続けるというものです。日銀が金融市場で国債や、大企業の株式で構成する投資信託(ETF)を買い、資金注入してきました。潤ったのは、大企業と富裕層ばかりです。さらにいま超低金利政策が円安を加速させ、食料やエネルギーなどの相次ぐ値上げを助長するなど弊害があらわです。
◆国民苦しむ円安・物価高
円安は、大企業を中心とした海外進出企業に恩恵をもたらす半面、輸入資源を使う国内産業や国民の生活に打撃を与えています。ロシアのウクライナ侵略の影響による輸入品の高騰が国民負担へのさらなる不安を広げています。
ところが、黒田総裁は「わが国の企業が海外で生産をして、本社に送金される円建ての収益の金額は、円安によってむしろ拡大する」「円安になることは、むしろ日本の経済・物価にとってプラスになるという基本的な構図は変わっていない」(3月18日記者会見)と語り、政策を見直そうとしません。
同会見で黒田総裁は、「金融が緩和された状態で経済が成長し、企業収益も拡大して賃金も上がっていく中で、物価が上がっていくことが重要」と述べました。
金融緩和で経済が成長すれば、賃金も上がるというのは「トリクルダウン」(したたり落ちる)理論への固執です。
異次元緩和で実際に起きたのは大企業と富裕層・大株主が大もうけしただけです。株価は9年間で2倍になり、大企業の多くが過去最高益などの収益拡大をしました。一方、賃金は上がらず、日本経済は低迷しました。「トリクルダウン」は起きなかったのです。
政府が、労働法制の規制緩和を進め、ギグワークやシフト制などの無権利状態の働き方や、リストラを放置してきたことが要因です。非正規労働者の増加などは賃金の低下を招きました。これでは、消費需要は拡大せず、経済成長も見込めません。
量的緩和による超低金利は、株高と富裕層の投機をもたらし、マンションバブルなどを引き起こしてきました。
2%の物価上昇が目標だということが、そもそも逆立ちしています。賃上げなしでの物価上昇では、国民の暮らしはいっそう苦しくなります。金融緩和で投機とバブルをつくり出し、経済格差を広げた異次元緩和の失敗は明らかです。ここから転換するには、労働者の賃金を上げるなどの実体経済を良くする政策が必須です。
◆本格的賃上げ支援こそ
大企業(資本金10億円以上)は内部留保を12年から20年にかけて130兆円増やし、466兆円にしています。ため込まれた内部留保への課税が不可欠です。大企業には賃上げ分の課税控除で、中小企業と中堅企業には、新たな税収を使った社会保険負担の軽減などを行うことで、大企業でも中小企業でも賃上げがすすむ土台をつくることができます。
物価高騰のさなかにさらなる円安を加速させる金融政策は国民を苦境にたたせます。破綻が明白な異次元緩和はやめるべきです。
【赤旗】4月9日<主張>経済安保法案―軍事と一体化図る危険明らか
経済安全保障法案が7日、衆院を通過しました。経済や科学技術を軍事に組み込む危険な中身が審議を通じて明らかになりました。「経済安全保障」と銘打ったものの、何から何を守るのかという肝心なことについて岸田文雄政権は具体的に説明しませんでした。ほとんどが政府の一存で決められ、実際の運用は政府に白紙委任されています。
◆軍民両用技術の開発推進
「特定重要物資」の安定供給を図るといいますが、何が特定重要物資かは示されていません。国民の生存に欠かせない食料、エネルギーの自給について法案は触れていません。「外部から行われる国家・国民の安全を害する行為」を防ぐとしていますが、何がそれにあたるかも明示されません。施行後、政省令で定められる事項は138カ所に上ります。
はっきりしたことの一つは科学技術の軍事研究推進です。政府が「特定重要技術」を指定し、「指定基金」から資金を提供して軍事転用可能な技術を開発します。開発にかかわって機微な情報を扱う人には罰則付きで守秘義務を課します。
特許出願の非公開制度も導入されます。政府が軍事技術を非公開の秘密特許に指定することが可能です。公開を原則とする現行の特許制度を大きく改変し、戦前の秘密特許制度を復活させることになります。
機微情報や秘密情報を扱う人の「適性」を評価する制度の導入を今後検討することも小林鷹之経済安保担当相が明言しました。対象者は家族、交友関係、生活習慣まで調べられます。秘密保護法制の拡大につながります。審議の中で参考人から、研究者の人権に大きな影響を与えるとして反対する声が上がりました。
政府が企業への介入を強化することも大きな問題です。「基幹インフラ」を担う企業は、設備導入などの際、納品業者、委託業者などを事前に報告させられます。政府はそれを審査し、勧告、命令まで行うことができます。どこまで詳細な報告を求めるかは政府の裁量です。企業秘密であるサプライチェーン(供給網)を政府に報告させられることに経済界からも懸念が出ています。
統制強化の一方、「安定供給の確保支援」の名目で大企業を資金援助します。すでに大企業が経済安全保障に対応する部署を設けたり、経済産業省OBの天下りを受け入れたりしています。特定企業への巨額の公費投入が横行し新たな政治・官僚・業界の癒着を生むことになりかねません。
◆参院で徹底審議し廃案に
米国と中国の覇権争いを受けて日本の経済政策を日米安保体制にさらに深く組み込む狙いも浮き彫りになりました。
1月の日米首脳会談は経済安保での緊密な連携を確認し、閣僚レベルの日米経済政策協議委員会(経済版2プラス2)の立ち上げに合意しました。小林担当相はこの合意と法案に直接の関係はないとしつつも、経済安保に関して日米で連携していくことを認めました。法案で経済安保の司令塔と位置づけられているのは国家安全保障局です。
参院で法案の問題点をさらにただし、廃案に追い込まなければなりません。