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税と新自由主義①、②、③(「赤旗」)
2021年11月13日
【赤旗】11月11日 税と新自由主義①―投資家「わが階級の勝利」
 新自由主義とは何か、どうすれば乗り越えられるか。政治経済研究所理事の合田寛さんに聞きました。(杉本恒如)

―型コロナウイルス危機は新自由主義とどのような関係がありますか。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)は世界の重層的な危機を明るみに出しました。医療崩壊の危機、(貧困と極端な不平等の危機、金融・財政・経済の危機などです。これらは新自由主義の政策によって以前から進行していた危機です。
 新自由主義は、第2次世界大戦後に先進諸国が採用したケインズ政策に対する反動攻勢として登場しました。労働運動や社会主義運動の圧力を強く受けたケインズ政策は、国家が完全雇用や不平等是正めざして資本の活動に介入することを容易にしました。諸国民のたたかいを背景に、資本への社会的規制が進み、労働組合の活動が活発化し、税と社会保障による所得の再分配が強められました。これを資本蓄積の危機とみた資本の側が思想闘争を企てたのです。
◆利潤追求を優先を
 1947年、フリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンらが創設したモンペルラン協会が新自由主義の拠点となりました。 彼らは「自由市場原理」を個人の自由と同一視し、資本にとって不都合な国家の介入や労働組合の活動を排除するための世界的運動を展開しました。
 つまり新自由主義の「自由」とは第一に「資本の自由」なのです。とりわけ巨大資本が支配する今日の資本主義の下では、新自由主義思想は巨大資本の利潤追求の自由を優先する政策として表れます。 資本所得への減税、社会保瞳制度の解体、資本への規制緩和、国有企業の民営化、労働組合活動の制限などです。労働者や中小企業には市場原理を説いて競争と自己責任の荒波に放り出しますが、巨大資本のためには平気で市場原理をゆがめます。
 いま世界の人々を苦しめている医療崩壊、失業、賀金低下、格差拡大などは、新自由主義の政策が長年続けられた結果、生み出された危機なのです。
―自由主義とグローバル化はどう関係していますか。、、
 新自由主義思想と結びついて新自由主義の政策を世界に広げたのがグローバル化です。ここでいうグローーバル化とは、資本が国境を越えて自由に移動することです。新自由主義思想の下、米英両国の主導で1980年代以降に世界中で進められた金融自由化や貿易自由化により、国境を越えた資本移動が自由になりました。その結果何が起きたかは、税制を見れば明らかです。
 大企業と富裕な個人は租税回避地に所得を移し、自国の高い税率を逃れました。ある国が他国の資本を呼び込むために資本所得への課税を軽減すると、他国も追随して減税します。際限のない「底辺への競争」が起こりました。各国は国境を自由に越えられない労働や消費を課税対象に選び、社会保険料(給与税)や消費税(付加価値税)を引き上げました。資本課税から労働課税へのシフトが進みました。
 米国の投資家ウォーレン・バフェットが述ぺています。「過去30年間、階級闘争が続いたが、勝利したのはわれわれの階級だ。われわれの階級が税率を劇的に引き下げたのだ」(2011年9月30日付米紙ワシントン・ポスト)と。
◆権利の引き下げ
―「底辺への競争」が資本家階級に勝利をもたらしたのですね。
 これは税の世界だけの出来事ではありません。各国はグローバル資本を優遇する経済特区をつくり、労働・環境規制の緩和、低賃金、減税、補助金などによる資本誘致を競っています。税収が減れば「財政均衡」を旗印に社会保障を切下げる「底辺への競争」が起きています。
 その結果、グローバル資本は高利潤を得て株価が高騰しました。資本家階級の所得が増加して富が累積する一方、労働者階級の所得は停滞して貧困が累積しました。グローパル化と新自由主義は相まって、グローバル資本が支配する世界をつくり出したのです。(つづく) 

【赤旗】11月11日 税と新自由主義②―勝者GAFAが総取り
―グロール化と新自由主義によって税制の具体的なあり方はどう変わりましたか。
 英国のサッチャー政権と米国のレーガン政権は新自由思想を本格的に実践した政権でした。1979 年に政権に就いたサッチャー首相は、83%程度たった個人所得税の最高税率を一気に40%に引き下げました。法人税率も52%から35%に下げました。81年に政権に就いたレーガン大統領も同様の大減税を行いました。
 これ以降、富裕層減税の競争が世界的な潮流となりました。現在、所得是の最高税率は、米国37%、英国45%、日本45%と、80年代のほぼ半分の水準になっています。法人税率(国税)も、米国21%、英国19%、日本23・2%と、80年代の半分程度に低下しました。
 法人税の減税は税引ぎ後の企業利益を増やし、配当の増額や株価の高騰を通じて、大量の株式を保有する富裕層の資産をさらに増やします。所得税の最高税率の引き下げと相まって、富裕層をますます富裕にしました。
 他方、逆進的な社会保険料(給与税)や消費税(付加価値税)の引き上げで、低・中所得層の所得に対する税負担率は重くなりました。税制が貧困と不平等を広げています。
◆一握りの富豪に
―平等の広がりを数値でみるとどうなりますか
 世界不平等研究所の『世界不平等レポート2018 』が最新動向を計測し、表にしています。1980年以降の約40年間で、世界の総所得の伸びのうち、どの所得グループがどのくらいの割合を得たかを示したものです。
 それによると、世界の所得上位0・1%の個人が13%を得ており、下位50%が得た12%を上回っています。わずか0・1%の冨裕者が、世界の半数の人々よりも多く所得を増やしたわけです。さらに、上位1%の個人は27%を勝ち得ています。世界の所得の伸びの4分の1以上を1%の富裕者が得たことになります。近年の不平等の特徴は、ごく一握りの富裕者に富が集中していることです。米誌『フォープス』の世界長者番付によると、1987年に10 億㌦以上の資産を保有する人(ビリオネア)は140人おり、資産総額は2950億㌦でした。2021年にばピリオネアが2755人と約20倍に増え、資窟総額は13兆1000億㌦(約1500兆円)と約44倍に増えました。世界の不平等の拡大は歴然としています。・
◆強大な権限手中・
 ―GAFA (グーグル、アップル、フェイスプック〈現メタ〉、アマゾン)など米国のIT(情報技術)企業の創業者が長者番付の上位に並んでいます。
 GAFAは市場を支配する現代の巨大独占企業として、異常な高収益を得ています。これらのIT企業はデジタル革命の成果を取り入れて台頭しました。デジタル革命は、あらゆる情報を0と1の列として記号化し、「完全・瞬時・無料」で複製・伝達することを可能にしました。IT企業はほとんど追加コストなしでサービスを無限に拡大できます。
 GAFA はこの成果を生かし、無数の売り手と買い手をインターネット上で結びつけるプラットフォーム(基盤)型ビジネスを創出しました。例えばグーグルは、無料の検索サービスを提供して膨大な利用者を抱え込む一方、これら利用者の関心に応じて表示される広告の枠を事業者に売り、収入を得ます。 
 囲い込む顧客が多いほど収益が増えるため、GAFAは10年ほどの間に数百社の競争企業を買収してきました。各分野で圧倒的なシェアを握り、その分野の情報を独占・支配・管理する強大な権限を得ています。
 競争は短期間で勝者総取りに終わり、独占が形成されました。GAFAはプラツトフォームを主宰する立場を使って自己を優先させ、略奪的価格を設定し、排他的な行為で独占を強めています。進出先の国々で巨額の税を逃れることも高収益の大きな要因です。
 グローパル化と新自由主義がもたらしたものは、公平な市場競争ではなく、不公平な独占と不平等な富の集中だったのです。(つづく)

【赤旗】11月12日 税と新自由主義③資本の支配打ち破る力
―グローバル化と新自由主義にどう対抗すればよいでしょうか。
 グローバル資本王裏の下で資本は簡単に国境を越えます。より低い税、より安い人件費を求めて移動し、諸国民に「底辺への競争」強います。多国籍企業やその支配的株主に応分の負担を求める課題は困難に直面しています。しかし巨大な力とたたかわずにあきらめてはなりません。
◆世界的な連帯を
 新自由主義の背後にグローバルな競争を利用した資本の支配があるならば、それを打ち破る力はグローバルな運帯の中かから生まれます。税の世界で始まった国際協力の取り組みは、新自由主義と決別する道へ踏み出した大きな一歩です。
―どんなんな変化が見られますか。
 税の国際協力は2012年に経済協力開発機構(OECD)の主導で始まりました。15年に最終報告書をとりまとめ、多国籍企業に国別報告書の提出を義務付けました。
 国別報告とは、事業活動を行っでいる国ごとの収入金額や税引き前利益、納付税額、利益剰余金、従業員数などの報告を求めるものです。多国籍企業と富裕者の隠された富を明るみに出し、失われた税収を取り戻すために活用できます。
 国別報告書は課税当局だけが保有し、一般には非公開です。しかし研究者や市民社会の強い要求を受け、OECDは20年7に企業名を匿名にして集計値を公開しました。国際NGOのタックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)はこれに基づいて税逃れの実態を調べましだ。
 TJN の分析によると、多国箱企業と富裕者の税逃れによる税収損失は毎生4270億㌦(約49兆円)。減税競争などの波及効果を含めると税収損失は9800億㌦(約112兆円)にのぽります。
◆2本柱の新規則
―しい国際課税ルールも決まりました。
 16年以隆OECDの主導で約140カ国が参加する「包括的枠組み」がつくられました。巨太IT(情報技術)企業などに課税するための新しいルールを検討してきました。今年10月に最終合意に達し、2本柱の新ルールを決めました。
 一つは、多国籍企業の世界利益を合算し、売上高に基づいて各国に課税権を再配分するルール。ユニタリー(合算)課税と呼ぽれます。配分される利益ば総利益のうちのわずかな部分だとはいえ、現行ルールを打ち破る斬新な方式でず。
 もうーつは、法人税に世界共通の最低税率を設定するルール。半世紀続いた減税競争に歯止めをかける画期的な性格を持ちます,
 ただし最低税率が15%という低水準に設定されるなど、内容は不十分です。抜本的な改革に向けた取り組みをさらに進めなければなりません。途上国の意見が十分反映されなかったとはいえ、約140カ国が参加する枠組みの下で税の国際協力が進められたことは今後も重要な意味を持つでしよう。
―米国でも犬きな変化が起こりました。
 バイデン政権は「米国雇用計画」「米国家族計画」という二つの中長期プランの財源を、大企業への法人税増税と富裕者への所得税増税でまかなうという税制改革を打ち出しました。最低法人税率の設定に向けた国際交渉にも積極的に関与し、「底辺への競争」に終止符を打つ考えを示しました。法人税減税競争の先頭を走っていた米国が方向転換したのは歓迎すべき変化です。」
 「底辺への競争」に歯止めがかかり、国際的な税の協力体制が強められれば、各国は他国の動向にとらわれず、自国の法人税や資本所得課税を強化することができます。世界的な公正税制の実現へ大きなチャンスが訪れているといえます。
一世界の変化の背景には市民社会の行動がありました。
 国際交渉で採用された画期的なルー ルは、TJN をはじめとする市民運動や有有識者が提起し、導入を求めてきたものです。国別報告書も合算課税も最低法人税率も、すべてそうです。市民社会が監視と行動をいっそう強めれば、新自由主義的な税制改革を逆転させ、労働課税から資本課税へのシフトを進ぬることができるでしょう。(おわり)