インボイス制度と農家―9割占める免税農家を破壊する([赤旗日曜版」)
2021年9月4日
【赤旗日曜版】9月5日 インボイス制度と農家―9割占める免税農家を破壊する
売り上げ1千万円以下の消費税免税事業者の方は、「消費税なんて自分には関係ない」と思われているかもしれません。しかし、2023年10月から適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入されると、関係ないでは済まされません。
20年の政府調査では、販売農家107万戸のうち、販売金額1千万円以下は94・5万戸で約9割です。この9割の免税農家がインボイス制度導入で取引から排除されるか、新たに納税義務と煩雑な事務負担を伴う課税事業者にならざるをえなくなります。
消費税の申告・納税は「売上にかかる消費税額」から「仕入(経費)等にかかる消費税額」を差し引いた税額を計算して納付します。今は区分記載請求書等保存方式ですが、請求書等の発行義務はなく(裏返せば免税事業者も発行できる)、帳簿の記載金額に基づき「仕入等の消費税額」を計算できます。
一方、インボイス制度が導入されればインボイス(適格請求書)の発行が義務づけられ、その適格請求書等の保存をもってのみ「仕入等の消費税額」が認められ、控除できます(例外あり)。適格請求書等を発行できるのは課税事業者・登録事業者のみです。免税事業者は発行できません。
「仕入等の消費税額」が認められないとどうなるか、具体例でみます。
産直組織は、小さな農家がたくさん集まり、共同で生協や消費者グループに販売しています。例えば、ある産直組織が1
00人の会員で約3億円(消費税2400万円)の売り上げがあり、仕入れは2・4億円あったとします。課税農家は10人で仕入れ総合計は、約1・2億円(消費税960万円)です。
残り90人の免税農家からの仕入れ額は約1・2億円(消費税960万円)です。今までは「売上の消費税」2400万円から「仕入等の消費税額」(960万円+960万円)を控除して480万円の消費税を納めています。しかし、インボイス導入後は、免税農家はインボイスを発行できないので免税農家分の「仕入等の消費税額」が認められません。この産直組織は新たに960万円の消費税負担増となり、経営が成り立たなくなります。
こうした事態を避けるためには、免税農家に課税事業者になってもらうか、税負担分だけ値引きしてもらうかになってきます。家族農家とそれを支えてきた産直組織には大きな打撃です。課税事業者になれば新たな負担増になり、赤字でも消費税はかかってきます。
農民連として「課税事業者になってくれ」とも言えず、また、課税事業者と免税事業者で支払いに差をつけることもできずに困っています。インボイス導入は農家間に分断を持ち込み、産直組織と農家の間にも対立を持ち込みます。
消費税インボイス制度は、今までの増税とは全く次元の違う営農破壊税です。何としても中止に追い込みましょう。
吉川利明(よしかわ・としあき 農民運動全国連合会事務局長)