東北新社やNTTなどの接待政治問題で、【DIAMOND online】と【赤旗】計2本
2021年3月6日
【DIAMOND online】3月6日 首相の天領、総務省接待事件の源流は「菅総務相」時代の人事私物化
◎首相長男の宴席問題で13人処分-始まりは縁故主義と人事私物化
総務省で総務審議官や情報流通局長ら11人の幹部職員が処分を受けた。
菅義偉首相の長男、正剛氏が取り持った放送関連会社、東北新社の「連続接待事件」に参加し「公務員倫理法違反」を問われた面々だ。
総務省中枢をむしばんだ倫理崩壊の淵源をたどると「菅総務相」に行き着く。
菅氏は二つの「誤り」を犯した。一つは、息子を政務の大臣秘書官にしたこと。二つ目は、かんぽ生命の不正勧誘問題報道でNHKに圧力をかけたとされるあの鈴木康雄氏(元日本郵政副社長)を次官コースに乗せたことだ。
公私混同、縁故主義の人事という菅総務相の愚行が今日の事態を招いた。
首相は、人ごとのような顔をできる立場ではない。
◎長男を「商品」化した菅総務相―大臣秘書官に任命され人脈作り
正剛氏が勤務する東北新社による接待問題が表面化して以来、菅首相は「私と長男は別人格」と、繰り返してきた。「別人格」というなら25歳の長男が自分で進路を探すのを見守るのが親の務めではなかったか。
音楽演奏に興味を持ち、定職に就かず自分探しをしている若者は決して少なくない。長男もそんな若者の一人だったが、菅氏は総務相になると、長男を大臣の政務秘書官にしてしまった。
大臣秘書官は税金から給与が払われる公務員だ。また大臣の職務は広く深い。地元事務所の秘書ならまだしも、大臣秘書官は社会経験がない若者に務まるポストではない。
周囲の官僚や出入りの業者は「公私の区別が緩い」という菅氏の「弱点」を見てしまった。
首相は国会で、正剛氏が東北新社に入社した経緯を「長男が(創業者を)非常に慕い、二人で(就職の)話を決めた」と説明した。東北新社の創業者は秋田の同郷で菅氏の支援者だった。
二人を引き合わせたのも首相である。息子を役所の要職に就けた後、今度は許認可権限を持つ事業者に紹介したわけだ。
東北新社が、放送事業などに特段の経験や技術を持つわけではない若者をなぜ採用したのか。「総務大臣の息子」という無形の資産に価値があるからだ。
事業者にとって総務省は許認可を握る難攻不落の役所。正面から攻めても外で担当者と会うことなどできない。大臣の息子を雇えば「裏口」から出入りできる。
民間企業が天下りを受け入れるのと同じ構造だ。給与を払って役所への「特別アクセス権」を買っている。高いポストで退職した者ほど強力な「アクセス権」がある。
「総務相の息子」は計り知れない価値がある。長男を政務秘書官にしたのは「商品性」に磨きを掛けるためだろう。
役所で顔を売り、幹部職員になじみを作る。父親自身もその後、官房長官から首相にと大化けし総務省を天領のように仕切る存在となり「息子の資産価値」を膨張させた。今や菅正剛氏の誘いを断る官僚はいない。
◎「懇談の場」をセットする力―公私混同が行政に蔓延
二階俊博自民党幹事長の「会食は飯を食うためにあるものではない」という言葉はその通りである。その場で具体的な請託があったか、という問題ではない。
プライベートな場で会食をしたという「関係性の確認」が業者にとって大事になる。
酒の席で具体的な要求を口にするのは、やぼである。役人もそれは嫌う。業者が何を求めているか、役人は聞くまでもなく分かっている。一般的な業界話をすることで、役人は業者が置かれている事情を確認する。
そして業者は案件の進捗状況を探る。大事なことは「懇談の場」をセットする力である。
東北新社の接待攻勢は衛星放送の認可時期と重なり、結果として東北新社は将棋チャンネルなど、成果を得ている。
武田良太総務相は「行政をゆがめた事実は確認されていない」というが、東北新社だけが圧倒的な接待攻勢をしていた。他の事業者にはない「特別なアクセス権」を持っていた事実が、すでにゆがんだ関係ではなかったか。
その原因を作ったのは菅首相である。
「親心」といえば聞こえはいいが、公私混同の縁故主義が総務省の秩序をゆがめた。
情けないのは、こうした前時代的な政治が現在もはびこっていることだ。
菅氏が官房長官として支えた安倍政権では「夫婦愛」や「友人への思いやり」が政治の場に持ち込まれた疑念がいまも残る。
国有財産の格安売却、国会での偽証、公文書改ざん、国家戦略特区の獣医学部創設、政府行事である「桜を見る会」での地元支持者の接待…。
公私混同の縁故主義が行政に蔓延したのが安倍政権以来の政治状況だ。
(以下略)
【赤旗】2月28日 <主張>接待で相次ぐ処分―癒着を広げた政治の責任重大
菅義偉首相の長男・正剛氏が勤務する放送関連会社「東北新社」からの接待で総務省幹部ら11人が処分されたのに続き、農林水産省の幹部6人が鶏卵生産会社「アキタフーズ」からの接待で処分されました。いずれも利害関係者の接待を禁じた国家公務員倫理規程に違反したものです。官庁の主要幹部が立て続けに接待問題で処分されたことは、菅政権下のモラル崩壊の深刻さを浮き彫りにしています。行政がゆがめられた疑惑は一層深まっています。処分だけで幕引きすることは許されません。徹底究明が不可欠です。
▼行政ゆがめた疑惑深まる
アキタフーズ問題では、同社前代表から現金500万円を受け取った吉川貴盛元農水相(議員を辞職)が収賄罪で在宅起訴されています。元農水相には、家畜飼育の国際基準が業者の不利にならないようにすることや日本政策金融公庫からの業界への融資拡大で便宜を図った疑いが持たれています。
処分された枝元真徹事務次官ら農水省幹部6人へのアキタフーズ側の接待は、吉川元農水相が同席していました。同社からの現金提供が発覚し内閣官房参与を辞職した西川公也元農水相らが加わったこともありました。同社の接待は、今回処分されたケース以外もあると指摘されています。政官業の癒着の根深さを示しています。
ところが農水省は、吉川元農水相の収賄事件についても、幹部接待問題でも、行政にどんな影響を与えたのか明らかにしません。隠蔽(いんぺい)姿勢を即刻改めるべきです。吉川元農水相は昨年の自民党総裁選で菅氏の選対事務局長を務めるなど政権中枢にいた人物でもあり、疑惑はあいまいにできません。
東北新社の総務省幹部への接待が放送行政をゆがめた疑いは、ますます濃厚です。同社も加盟する衛星放送協会の要望に沿って人工衛星の利用料の低減が図られた可能性などが国会で追及されています。総務省は幹部の処分後、検証委員会を立ち上げましたが、同省任せでは、お手盛りの調査になりかねません。正剛氏ら東北新社関係者の国会招致が必要です。
官僚の接待問題が後を絶たないことは重大です。100人以上が処分された旧大蔵省接待汚職(1998年)後に、関連業者からの接待や贈与などを原則禁止にした国家公務員倫理法が制定され、同法に基づく倫理規程が2000年に施行されましたが、事実上骨抜きになっていることを、今回の事態は改めて示しています。
総務省でも農水省でも接待漬けの背景を徹底究明するとともに、関係者を厳しく処分することが重要です。総務審議官の時に一晩で1人7万4000円超の接待を受けた山田真貴子内閣広報官を続投させる菅政権の姿勢は大問題です。山田氏は辞任しかありません。
▼政権中枢の姿勢問われる
問われるのは菅首相ら政権中枢の責任です。安倍晋三前首相の「森友」「加計」「桜を見る会」をはじめとする一連の国政私物化疑惑では、官僚が首相の意向を忖度(そんたく)し、情報隠蔽や国会での虚偽答弁など、政治と行政のモラルを崩壊させました。官房長官時代などに人事権をふるい官僚を従わせた菅首相の手法が、官僚組織に与えた負の打撃も計り知れません。「安倍・菅政治」を一掃し、公正・公平な政治を取り戻すことが必要です。