消費増税された庶民が知らない法人税の不合理―大企業ほど税金を払わない
2019年10月19日
【東洋経済オンライン】10月17日 消費増税された庶民が知らない法人税の不合理―大企業ほど税金を払わなくてすむカラクリ(富岡 幸雄 : 中央大学名誉教授、名誉評議員)
10月から消費税が増税された。世界に先行する高齢化社会を迎え、社会保障に関わる財源確保が狙いというのが建前だが、グローバル企業がきちんと納税すれば財源はある。
税の第一人者である富岡幸雄氏の著書『消費税が国を滅ぼす』から、日本の法人税制についての部分を一部抜粋する。
なぜ日本の法人税制では、法律に書いてある税制と、実際に行われている税制との間のギャップが大きいのでしょうか。そして企業規模が大きいほど、税の負担率が軽くなるのでしょうか。
日本では、課税所得の平均2割強が縮小されている
順を追って説明しますと、税制ギャップの生じる理由として、まず挙げられるのが「タックス・イロージョン」(課税ベースの浸蝕化)です。
課税ベースが浸蝕されているため、本来、課税対象となるべき所得が、課税の範囲から脱け落ちているからです。要するに、現実の「課税所得」が虫食いになり、削られ、本来の姿より小さくなってしまっているのです。
私のマクロ的な分析によると、平均して課税所得の2割強が縮小されています。なかでも巨大企業グループが多いと目される連結法人の縮小率は40%を超えています。
一方で中堅企業の縮小率は3.9%です。企業規模によって負担率の格差が生じるのは、タックス・イロージョンの度合いに差があるためです。
では、なぜこうしたタックス・イロージョンが起きてしまうのでしょうか。
まず、租税特別措置による政策減税があります。多額の研究開発費を投入できる大企業にとって有利な特別控除などの優遇税制があるのです。次に法人が法人へ払う配当金は無税になる、受取配当金の課税除外があります。さらに、日本企業の収益構造が変化し、日本の税収が減少傾向にあるほか、国境を越える課税逃れも起きています。
また、「企業の自主的経理尊重」という建前のもとで、税務会計の変則的な弾力化・自由化が行われている点も指摘できます。納税は自主申告が原則ですので、こうした弾力化・自由化を利用して、税務会計を熟知した大企業のエキスパートが、いかに課税ベースを縮小するか腐心しているのです。
加えて現行の法人税制では、税制の簡素化を理由にして、期間損益計算が変則的に弾力化されていたり、減価償却資産の資産計上基準が緩和されていたりしています。これらも課税ベース縮小化につながっているのです。
こうしたタックス・イロージョン現象は、複雑な税務会計システムのメカニズムの中に埋没してしまい、公表される財務報告書から、その企業が駆使している会計テクニックを把握することは、ほぼ不可能です。税務統計上でも明らかになることはありません。
課税ベースを縮小させる手法を利用できる大企業や特定業種の企業と、そうではない企業との間に不公平が生じており、極めて重大な問題だと申し上げていいでしょう。(以下略)
10月から消費税が増税された。世界に先行する高齢化社会を迎え、社会保障に関わる財源確保が狙いというのが建前だが、グローバル企業がきちんと納税すれば財源はある。
税の第一人者である富岡幸雄氏の著書『消費税が国を滅ぼす』から、日本の法人税制についての部分を一部抜粋する。
なぜ日本の法人税制では、法律に書いてある税制と、実際に行われている税制との間のギャップが大きいのでしょうか。そして企業規模が大きいほど、税の負担率が軽くなるのでしょうか。
日本では、課税所得の平均2割強が縮小されている
順を追って説明しますと、税制ギャップの生じる理由として、まず挙げられるのが「タックス・イロージョン」(課税ベースの浸蝕化)です。
課税ベースが浸蝕されているため、本来、課税対象となるべき所得が、課税の範囲から脱け落ちているからです。要するに、現実の「課税所得」が虫食いになり、削られ、本来の姿より小さくなってしまっているのです。
私のマクロ的な分析によると、平均して課税所得の2割強が縮小されています。なかでも巨大企業グループが多いと目される連結法人の縮小率は40%を超えています。
一方で中堅企業の縮小率は3.9%です。企業規模によって負担率の格差が生じるのは、タックス・イロージョンの度合いに差があるためです。
では、なぜこうしたタックス・イロージョンが起きてしまうのでしょうか。
まず、租税特別措置による政策減税があります。多額の研究開発費を投入できる大企業にとって有利な特別控除などの優遇税制があるのです。次に法人が法人へ払う配当金は無税になる、受取配当金の課税除外があります。さらに、日本企業の収益構造が変化し、日本の税収が減少傾向にあるほか、国境を越える課税逃れも起きています。
また、「企業の自主的経理尊重」という建前のもとで、税務会計の変則的な弾力化・自由化が行われている点も指摘できます。納税は自主申告が原則ですので、こうした弾力化・自由化を利用して、税務会計を熟知した大企業のエキスパートが、いかに課税ベースを縮小するか腐心しているのです。
加えて現行の法人税制では、税制の簡素化を理由にして、期間損益計算が変則的に弾力化されていたり、減価償却資産の資産計上基準が緩和されていたりしています。これらも課税ベース縮小化につながっているのです。
こうしたタックス・イロージョン現象は、複雑な税務会計システムのメカニズムの中に埋没してしまい、公表される財務報告書から、その企業が駆使している会計テクニックを把握することは、ほぼ不可能です。税務統計上でも明らかになることはありません。
課税ベースを縮小させる手法を利用できる大企業や特定業種の企業と、そうではない企業との間に不公平が生じており、極めて重大な問題だと申し上げていいでしょう。(以下略)
【赤旗】10月14日 在職老齢年金―廃止含む見直し案で65歳以上の99%給付減
安倍政権が在職老齢年金制度の見直し議論を急ピッチで進めています。高齢者の就労促進を成長戦略に位置付けるもと、在職老齢年金制度が高齢者の就労意欲を阻害しているという考えからです。9日の社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)年金部会で厚労省は、65歳以上について制度の廃止を含めた見直し案を示しました。
在職老齢年金制度は、一定以上の収入がある高齢者の厚生年金を減額するものです。65歳以上では月収(基礎年金含む)と厚生年金(報酬比例部分)の合計が47万円を超えると、超えた分の厚生年金が半額に減らされます。例えば月収35万円、厚生年金16万円の場合、合計の受取額は49万円になります。
厚労省の見直し案は、65歳以上について、減額の基準を47万円超から62万円超に引き上げるか、制度を完全に廃止するとしています。
◆廃止に4千億円
提案理由を説明した度山徹大臣官房審議官は、年金を自動削減するマクロ経済スライドによって今後年金給付が抑制されるので、減る分は就労期間を延ばすことで補う必要があると主張。これから現役世代並みの収入を得る高齢者が増えることも予想されるのに、在職老齢年金制度をそのままにしておくと「ワークロンガー(就労延長)でリカバリー(補う)するシナリオが一部成立しなくなる」と述べました。
しかし、見直しで年金が増えるのは、減額の基準引き上げで約18万人、制度廃止でも約41万人です。約2700万人の65歳以上の年金受給者の0・6~1・5%にすぎません。
一方、見直しに必要な財源は、減額の基準引き上げで約2200億円、制度廃止で約4100億円に上ります。年金財政が圧迫され、最終的に厚生年金の所得代替率(現役世代の手取り収入に対する年金の給付水準)は0・2~0・4%低下する見込みです。
マクロ経済スライドによってモデル世帯の所得代替率は最終的に2割削減されます。そのうえ在職老齢年金制度が厚労省案の方向で見直されれば、就労で一定の収入を得ている一部の高齢者は年金が増えるものの、その他99%の高齢者はさらに年金が減ることになります。同日の部会でも「就労可能な方とそれ以外の方との公平性、公的年金の所得再分配機能、将来世代にかかわる年金財政の影響を十分に踏まえた検討が必要だ」との意見が出ました。
◆議論前提に疑義
同日の部会では、在職老齢年金制度による就労抑制効果が65歳以上では確認できなかったとの分析結果も示され、複数の委員から議論の前提自体に疑義が出されました。
また、内閣府の「高齢社会白書」によれば、日本の男性の非正規労働者の割合は55~59歳では12%ですが、60~64歳では50・5%、65歳以上では7割超です。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の調査では、継続雇用者の60歳直前の賃金を100とした場合の61歳時点の賃金水準の平均値は73・5。66歳時点では65歳直前の87・3とさらに低下します。
現役世代並みの収入を得る高齢者が増えるという厚労省の見通しも、実態から大きくかけ離れています。
安倍政権が在職老齢年金制度の見直し議論を急ピッチで進めています。高齢者の就労促進を成長戦略に位置付けるもと、在職老齢年金制度が高齢者の就労意欲を阻害しているという考えからです。9日の社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)年金部会で厚労省は、65歳以上について制度の廃止を含めた見直し案を示しました。
在職老齢年金制度は、一定以上の収入がある高齢者の厚生年金を減額するものです。65歳以上では月収(基礎年金含む)と厚生年金(報酬比例部分)の合計が47万円を超えると、超えた分の厚生年金が半額に減らされます。例えば月収35万円、厚生年金16万円の場合、合計の受取額は49万円になります。
厚労省の見直し案は、65歳以上について、減額の基準を47万円超から62万円超に引き上げるか、制度を完全に廃止するとしています。
◆廃止に4千億円
提案理由を説明した度山徹大臣官房審議官は、年金を自動削減するマクロ経済スライドによって今後年金給付が抑制されるので、減る分は就労期間を延ばすことで補う必要があると主張。これから現役世代並みの収入を得る高齢者が増えることも予想されるのに、在職老齢年金制度をそのままにしておくと「ワークロンガー(就労延長)でリカバリー(補う)するシナリオが一部成立しなくなる」と述べました。
しかし、見直しで年金が増えるのは、減額の基準引き上げで約18万人、制度廃止でも約41万人です。約2700万人の65歳以上の年金受給者の0・6~1・5%にすぎません。
一方、見直しに必要な財源は、減額の基準引き上げで約2200億円、制度廃止で約4100億円に上ります。年金財政が圧迫され、最終的に厚生年金の所得代替率(現役世代の手取り収入に対する年金の給付水準)は0・2~0・4%低下する見込みです。
マクロ経済スライドによってモデル世帯の所得代替率は最終的に2割削減されます。そのうえ在職老齢年金制度が厚労省案の方向で見直されれば、就労で一定の収入を得ている一部の高齢者は年金が増えるものの、その他99%の高齢者はさらに年金が減ることになります。同日の部会でも「就労可能な方とそれ以外の方との公平性、公的年金の所得再分配機能、将来世代にかかわる年金財政の影響を十分に踏まえた検討が必要だ」との意見が出ました。
◆議論前提に疑義
同日の部会では、在職老齢年金制度による就労抑制効果が65歳以上では確認できなかったとの分析結果も示され、複数の委員から議論の前提自体に疑義が出されました。
また、内閣府の「高齢社会白書」によれば、日本の男性の非正規労働者の割合は55~59歳では12%ですが、60~64歳では50・5%、65歳以上では7割超です。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の調査では、継続雇用者の60歳直前の賃金を100とした場合の61歳時点の賃金水準の平均値は73・5。66歳時点では65歳直前の87・3とさらに低下します。
現役世代並みの収入を得る高齢者が増えるという厚労省の見通しも、実態から大きくかけ離れています。