【朝日新聞】8月19日 消費税分969億円、国立大病院が負担 経営を圧迫
全国の国立大病院42カ所で、高度な医療機器やベッドなどの購入時に支払った消費税を診療費に十分転嫁できず、2014~18年の5年間に計969億円を病院側が負担していることがわかった。診療報酬制度の仕組みによるもので、病院の経営を圧迫しているという。
診察に使う機器やベッド、ガーゼなどの消耗品は、病院が購入時に消費税も支払う。一方、公的保険の医療は非課税のため、患者が支払う初診料や再診料などの診療報酬点数に消費税の相当分も含めることで、病院側に補塡(ほてん)する仕組みになっている。
だが、初診料や再診料はすべての医療機関でほぼ同額で、高額化が進む手術ロボットなどの先進機器を購入することが多い大学病院などでは消費税分の「持ち出し」が大きいという。
全国の国立大病院でつくる「国立大学病院長会議」の試算によると、1病院あたりの補塡不足は平均で年約1・3億円(17年度)。税率が8%になった14~18年の5年間で計969億円に上った。私大の付属病院などでも同様の傾向と見られるという。
医療の進歩にともない、高精度な放射線装置、全身のがんなどを一度に調べることができるCT、内視鏡手術支援ロボットなど、1台数億円する医療機器が登場した側面もある。ある大学病院の医師は「医療機器の更新ができなくなると、患者さんにしわ寄せがいく」と嘆く。
【赤旗日曜版】8月25日 <経済 これって何?> 米富裕層が「われらに増税を」
アメリカの大富豪が富裕層への増税を求めた公開書簡(6月24日付)が話題になっています。賛同者には投資家ジョージ・ソロス氏やフェイスブック共同創業者クリス・ヒューズ氏ら、19人が名前を連ねました。
この公開書簡は、「アメリカでもっとも裕福な0.1%のわれわれに適切な富裕税を課すことへの支持を要望する」と、来年のアメリカ大統領選挙を目指す候補者全員に出されたものです。「アメリカは、富裕層にもっと多くの税金を課す道徳的・倫理的・経済的責任を負っている」と呼びかけています。
具体的には、気候変動対策、子育て・教育、医療、格差是正のため、上位0.1%の超富裕層に10年で300兆円以上の富裕税を課税するという提案を掲げています。
アメリカの大富豪たちから増税支持の声が出される背景には、1980年代以来の新自由主義的な税制改革による所得格差の拡大があります。
グラフで見ると、顕著なのは、トップ1%の所得の伸びです。アメリカの税制から、格差是正と所得再分配の機能が失われていることが分かります。富裕層の最高税率は50年代から60年代半ばまでは90%で、70年代を通して70%を下回ることはありませんでした。
それが80年代のレーガン共和党政権によって28%へと大幅に引き下げられました。クリントン、オバマ両民主党政権の時代には引き上げが実行されましたが、共和党への政権交代によって再び引き下げられました。トランプ政権は37%まで引き下げています。
2017年には、アメリカの総所得のうち22.3%が所得上位5%に集中し、下位40%の占める割合はわずか11.3%にすぎない状態です。所得が一部の富裕層に極端に集中していることは、不公正を広げるだけでなく、アメリカ経済を脆弱(ぜいじゃく)にしています。
統計的には雇用と消費の拡大を示す今日のアメリカ経済ですが、中・低所得層の家計債務の増大によってけん引されているのです。
近年まで消費の拡大は所得上位の40%が担ってきたのに対し、ここ数年では所得下位の60%が消費の拡大をけん引していることが明らかにされています。
富裕層のあり余る所得が、貯蓄や投資の形態で金融市場を介して所得下位層への貸し付けに回っています。金融市場の膨張と家計部門の債務増大をもたらす格差拡大は、1920年代末の大恐慌や08年の金融危機の際にも、先行して見られた共通の特徴です。
富裕税の創設を主張する富裕層は、格差拡大のもとで好調に見える米国経済に危機の予兆を見いだしているのかもしれません。富裕層優遇の税制を推し進め、格差拡大が進む日本も人ごとではありません。格差是正と所得再分配の機能を税制と財政に取り戻す政治こそが求められます。
宮崎礼二(みやざき・れいじ明海大学准教授)