【赤旗】10月12日<主張>政府税調審議再開―消費税増税の準備は中止せよ
政府の税制調査会(首相の諮問機関、会長=中里実・東京大学大学院教授)が、昨年11月以来11カ月ぶりに審議を再開し、2019年度の税制改定の議論を始めました。最大の焦点は安倍晋三政権が19年10月から予定している、消費税率の8%から10%への引き上げです。消費税増税は消費を冷やし景気を悪化させるため、国民や中小業者の反対が強く、政府もそれを無視できません。食料品などへの「軽減税率」導入や駆け込み需要・反動減対策などに躍起になっていますが、反対の声は収まりません。国民の不安に応えるなら、増税の強行を中止すべきです。
▶増税実施に固執する首相
審議を再開した10日の税調総会では、「断固として(消費税の)増税をすべきだ」との委員の発言が相次いだといいます。政府税調は学識経験者やマスメディアのほか、財界や地方自治体の関係者が中心で、労働者や消費者の代表は少なく、政府に都合の良い発言が多くなります。財界団体の日本経済団体連合会(経団連)や経済同友会は、消費税増税の断行と、大企業などへの減税を要求しており、財界寄りの税調審議は危険です。
安倍首相は先の自民党総裁選で3選された後も、消費税増税は「予定通り実行したい」との発言を繰り返しています。12年末に政権に復帰した安倍首相は、14年4月に消費税の税率を5%から8%に引き上げ、「経済の底が抜けた」と言われたほどの消費不況を招きました。その影響は4年以上たった現在も、ぬぐい切れていません。政府が調査した家計の消費支出は、増税後ほとんどの月で前年比マイナスです。
安倍政権も増税後、15年10月に予定した消費税率の8%から10%への引き上げを2回にわたって延期せざるをえませんでした。現在は来年10月に予定している消費税増税を強行するために、食料品などの税率を8%に据え置く「軽減税率」の導入や、増税分の一部を使う「高等教育・幼児教育無償化」、増税前の駆け込み需要・反動減対策だと言って、住宅や自動車の減税を拡大することなどを検討しています。大型の補正予算をとの声もあります。
しかしどんなに対策を講じても低所得者ほど負担が重く、消費を冷やす、消費税増税の欠陥は埋め合わせできません。食料品などの「軽減税率」も逆進性の緩和には程遠く、自動車や住宅の減税はもともと購入力がない国民には何の恩恵にもなりません。「軽減税率」導入で、コンビニの店内で食べれば外食扱いの10%の課税で、持ち帰れば8%になるなど制度が複雑になり、日本チェーンストア協会なども増税に反対しています。
▶10%後の増税の動きも
政府税調は実施予定まで1年を切った消費税の増税について、その是非は検討せず、自民・公明の与党税制調査会と並行して「軽減税率」や反動減対策の詳しい内容について検討する予定です。消費税増税反対の国民の声に向き合う姿勢はありません。
財界などからは来年10月からの増税の着実な実行にとどまらず、10%を大幅に超える増税を検討すべきだとの声も出ています。消費税増税の中止とともに、経済財政政策の根本的な見直しで、消費税に頼らない税制の確立を求める声を広げることが急務です。
【文春オンライン】10月9日「湿気がひどくてマグロにカビが生える」開場目前の豊洲市場に不安の声が高まる
「本当に市場として機能するのか」、「死亡事故が起こりはしないか」、「魚の安全性は保てるのか」――。
豊洲移転が目前に迫る今、改めて市場関係者の間で不安が高まっている。総工費6000億円以上をかけた「最新設備」を誇る豊洲市場が開場するのは10月11日。本来なら、希望に満ちた華やぎに満たされていてもいいはずだが、市場関係者の表情は一様に固い。
地盤沈下によって引き起こされた巨大な「ひび割れ」
「ここにきて、移転推進派だった人たちまで、顔を曇らせていますよ」(仲卸業者・男性Aさん)
一体、何がそこまで不安視されているのか。築地市場に赴き、人々の声を拾った。
「築地を離れることの寂しさ、というような情緒的な話ではないんです。いい話がまったく聞こえてこない」(同前)
豊洲市場はこれまで土壌汚染問題が、度々、取り上げられてきたが、その汚染状況も改善されない中、ここへきて、建物そのものに対する問題が持ち上がっている。
そのひとつが、深刻な地盤沈下だ。
9月上旬、仲卸棟西側で、横幅約10メートル、段差約5センチという「ひび割れ」が発見された。地盤沈下によって引き起こされた巨大な「ひび割れ」である。
「豊洲の店舗にダンベ(魚や水産物を入れる業務用冷蔵庫)を入れたら、それだけで床が沈んでしまった、という話もあります」(仲卸業者・男性Bさん)
豊洲は、もともと地盤が非常に緩い。その上に重厚長大な建物を作った。先日は、工事を請け負った業者から、「地中に打ち込む杭が十分に支持層(固い地盤)に届いていない」という内部告発もなされている(『週刊現代』2018年9月1日号)。
「豊洲の床耐荷重は本当に、大丈夫なのか」
緩い地盤、偽装工事……。ただでさえ不安が募る中、9月下旬になって、突如、豊洲市場内に貼り出された紙が、業者の人々をさらに驚愕させた。
「貼り紙に、『2.5トンフォークリフト、800kg』と書いてあります。2.5トンフォークリフトといったら、2.5トンの荷を積めるリフト、という意味なんです。それなのに、800キロまでって。一度にそれしか運べないのでは仕事になりません」(仲卸業者・女性Aさん)
この貼り紙は、「豊洲の床耐荷重は本当に、大丈夫なのか」という不安を改めて市場関係者に与えることになった。ターレ(運搬車)は本体だけで800キロ、荷を載せれば2トン近くになる。フォークリフトはさらに重く、荷物を載せれば6トンに近い。築地は1階部分だけが売り場だったため心配する必要がなかった。だが、豊洲の場合、中卸棟の売り場は4階まである。床が抜けたりしないか、十分な重みに耐えうる設計になっているのか。不安の声は尽きない。
「とても臭くて白濁していたそうです」
9月23日には、汚染水がマンホールから噴き出すという、信じ難い出来事も起こった。仲卸業者のひとりで、「築地女将さん会」会長の山口タイさんが語る。
「仲卸業者が移転の準備のために、豊洲に行っていた時、偶然、見つけたんです。水は、とても臭くて白濁していたそうです。たまたま彼らが発見したから明るみに出ましたが、そうでなければ、都はこれも隠蔽したんじゃないでしょうか」
東京都は、地下水の上昇を抑えるために地下水管理システムを導入。地下水の水位が上昇した際には、速やかに浄化して、外に排出できると説明した。だが、そのシステムが機能せず、浄化前の地下水が、そのままマンホールから噴き出したのである。
地下水は言うまでもなく、汚染されている。
東京都は、この件に関して「地下水を汲み上げて排水施設に送るための送水管の空気弁に付着物が挟まったことが原因」として、「過去に同様のケースはなく、今後は再発防止に務める」との見解を示した。だが、この説明では仲卸業者の不安は少しも解消されない。
マグロの身にカビが付着したら……
湿気とカビは、より深刻な問題である。
「とにかく豊洲市場は湿気がひどいんです。地下水が水蒸気になって上がってくるのに、建物が密閉型で窓ひとつない。温度を冷暖房で常に25度になるよう設定しているので、特に夏場は、ダクトを通じて室内にも水滴が生じる。開店すれば、店内に冷凍庫やダンベといった冷蔵機器を入れ、冷凍食品を扱うわけだし、水も流す。益々、湿気が出るはずです。
開場前の今現在で、空調を24時間フル稼働にしても、湿度が70パーセント。高い時は90パーセントを超える。だから、ものすごくカビが出るんですよ。カビは生ものに付着して繁殖する。一番、心配なのはマグロです。マグロの身にカビが付着したら、3、4日後に発生する。豊洲で売る時は目に見えなくても、小売店に渡ってからカビが出ることも……」(仲卸業者・男性Bさん)
都も、ここまでの湿気とカビの発生は想定外だったのだろう。開場を目前にして、至るところに、大型の除湿機を断りもなく設置した。仲卸業者の女性が、憤慨しつつ語る。
「最近になって、突然、巨大な除湿機が無造作に通路にボンボン置かれたんです。カビ対策なんでしょうね。でも、こんなものがあったら、危なくてターレを走らせられない」
湿気を除去する根本的な手段がなく、この巨大な除湿機を都は置いたのだろうか。
豊洲では「買い回し」ができない
市場機能を無視した構造上のミスをあげる声も数多く耳にした。
「豊洲は築地のようにコンパクトにまとまっていない。だだっ広いばかりで、まったく動線を考えて作られていないんです。これでは、仲卸棟で魚を買って、青果棟で野菜も買う、という『買い回し』ができません。それに、鮮魚は新鮮さが命。時間をかけないように機能的に運ばなくてはならないのに、築地の何倍も時間がかかる」(仲卸業者・男性Aさん)
卸、仲卸、青果棟と、これまでは三つの機能がワンフロアに集約されていた。階段やエレベーターとは無縁だった。
だが、豊洲は3か所に建物が分かれており、しかも、それぞれが幹線道路によって分断されている。また、仲卸棟の積込場や店舗は1階から4階まである。
「それなのに、エレベーターは6基のみ。4階まで買いに来てもらえるのか。本来、市場は築地のような平屋が理想なんです」(仲卸業者・女性Aさん)
「あれでは、ターレから荷が崩れ落ちてしまう」
漁港から大型トラックで運ばれる魚や水産物は、まず、大卸(水産卸)に持ち込まれ、セリや相対取引を経て、仲卸の各店舗に運ばれる。1日に扱う鮮魚や水産加工物は2016年度で1628トン、青果は1021トンにのぼる。
「築地では、すべての売り場が繋がっていたけれど、豊洲では、卸棟と仲卸棟は別の建物。地下道で荷物を運ぶことになる。ところが、その地下道は3本しかない上に、傾斜がきつく、ひどいヘアピンカーブ。あれでは、ターレから荷が崩れ落ちてしまう。それに、道幅が狭くて接触事故を起こしそうです」(仲卸業者・Aさん)
こうした初歩的な設計ミスは、いたるところで指摘されている。
大型トラックは、大卸のトレーラーヒットに横付けされ、横面扉が開いて、荷を下ろす。だが、豊洲の設計者は、コンビニなどを回っている一般的なトラックのように、縦付けして、後ろの扉を開き、荷を下ろすものと思い込んで設計していた。
また、排水溝が設計ミスで浅く、詰まりやすいという声もあった。
「大量の水で魚の血や鱗を洗い流すことができないようでは衛生を保てないのに……」(仲卸業者・男性Bさん)
市場の命は水だ。築地では真水と海水で流し清め、排水し続け、食の衛生を守ってきた。だが、豊洲は水を大量に使えば、構造上の不備で排水は詰まり、さらにはカビが出てしまう。大変なジレンマだ。
駐車場の数が圧倒的に足りない
アクセスの点でも、問題は広がっている。
最寄り駅はゆりかもめの市場前だが、始発でも競りの時間には間に合わない。
東京メトロ有楽町線の豊洲駅からでは、徒歩で20分。自動車を使う場合も、駐車場からの距離が遠く、さらには、駐車場の数が圧倒的に足りないことが判明し、追加工事が急遽行われた。開場すれば、約1800台のトラックやバスが早朝から押し寄せることになるはずだが、周辺の道路環境は整っておらず、橋を渡らなければならないため渋滞が懸念されている。
「豊洲は時間がかかるだけだと敬遠されて、誰も来なくなってしまうのではないか。市場の機能を理解せずに設計して、手直しもできないという状況だ」(仲卸業者・男性Aさん)
「このまま開場したらパニックになる。ターレの激突や床の陥没も心配だ。死亡事故が起こるんじゃないかと心配です。何より食品の安全性が保てるのか」(仲卸業者・男性Cさん)
こうした状況を受けて、一部の業者は9月19日、「移転差止請求」を東京地方裁判所に出した。
「よもや都知事が『安全宣言』を出したり、農水省が認可を下ろすとは思えなかった。私たちは最後の手段として司法に訴えたんです。都知事は2年前に移転延期を決めた。それから状況は何も改善されていないのに、今度は何の説明もなく強引に移転を決めた」(「築地女将さん会」会長・山口タイさん)
豊洲市場が抱える多くの問題を、どう捉えているのか。今、この状況で市場を開場することは正しい判断といえるのか。小池都知事は説明を求める市場関係者と真摯に向き合うべきである。(石井 妙子)