【東京新聞】9月21日 自民党総裁選 国民の不信 残したまま
◆政治部長 清水孝幸
「権力は腐敗しがちであり、絶対権力は絶対に腐敗する」。英国の歴史家、アクトン卿の有名な言葉だ。異例の長期政権を目指す安倍晋三首相は自民党総裁選で、国民が森友・加計問題で抱いた不信と向き合い、説明責任を果たすべきではなかったのか。
なぜ、権力は腐敗するのか。権力を利用しようと擦り寄る者が現れる一方、仕える者は権力者の顔色をうかがって意向を忖度(そんたく)し、そして、もの申せなくなる。すると、権力者が喜びそうな方向にばかり物事が進み、公平、公正が失われる。
モリカケ問題はその典型に映る。安倍首相の「腹心の友」が理事長を務める大学に五十二年ぶりの獣医学部が新設され、妻、昭恵氏が一時、名誉校長を務めた学校法人に国有地が有利な条件で売却された。首相は自らの関与を否定するが、少なくとも行政に首相への忖度が働いたのではないか。国民の多くは首相の説明にいまだ納得していない。
しかし、首相がこの問題を自ら語ることはほとんどなかった。東京・秋葉原の最後の訴えでは「批判だけしていても何も生みだすことはできない」と、批判を嫌う本音をのぞかせた。石破茂元幹事長も当初、この問題を念頭に「正直、公正」をスローガンに掲げたが、党内から「個人攻撃だ」と圧力を受け、「モリ」「カケ」の名を挙げた批判を控えた。議論は深まらず、国民の不信は解けなかった。
石破氏支持の地方議員が首相官邸の幹部から恫喝(どうかつ)されたと公表し、石破派の閣僚が辞任を求められたとされる問題も発覚した。自民党は報道機関に「公平・公正」を要請したが、総裁選自体はどうだったのか。
かつて似た構図の総裁選があった。一九七〇年、四選確実の佐藤栄作に小派閥の三木武夫が挑んだ。三木は「私は何ものをも恐れない。ただ、大衆のみを恐れる」と長いものに巻かれ、ものを言わない空気を批判した。石破氏は三木の役割を果たせたのか。
長期政権は強い権力を生む。首相はあと三年の任期を得た。政権が続けば来年十一月に歴代内閣で最長になる。「不公正」の疑いを残したまま「絶対権力」の領域に近づく。
【赤旗】9月20日《主張》リニア建設工事―広がる懸念、立ち止まるべきだ
2027年開業を計画するリニア中央新幹線の建設工事をめぐり、沿線の住民や自治体などから異論や不安が相次いでいるにもかかわらず、強引な推進姿勢を改めないJR東海に批判が上がっています。リニア工事が水資源に深刻な影響を及ぼすことを懸念する静岡県の意見にも、同社はまともに答えません。同計画を「国家的プロジェクト」と位置付ける安倍晋三政権はJR東海のやり方を容認しています。自然環境や住環境への打撃を危惧する声をかえりみず、巨大開発をごり押しすること自体、大問題です。リニア建設工事は凍結・中止こそ必要です。
水資源への深刻な影響
リニア中央新幹線は27年に品川(東京)―名古屋間で開業し、さらに37年に大阪までの延伸をめざしています。総事業費は9兆円にのぼり、今世紀最大の巨大開発事業といわれます。事業主体はJR東海ですが、安倍政権は財政投融資として3兆円の公的資金を投じることを決定し、事実上の「公共的」な巨大開発となっています。
品川―名古屋の8割以上にあたる区間は地下トンネルの計画です。南アルプスや中央アルプスの下を掘り進めることが貴重な自然の破壊につながり、災害も誘発させかねない危険があること、工事で発生する大量の土の処理先が決まらないこと、生活環境の悪化が想定されることなどについて沿線住民を中心に批判が広がり、国に対しリニア工事認可の取り消しを求める裁判が起こされています。
建設工事は品川や名古屋の地下駅、南アルプストンネルの一部などで着手されていますが、本格的な工事はこれからです。一方で、地元自治体とJR東海との間の矛盾の広がりも顕在化しています。その一つが、南アルプストンネル工事をめぐる静岡県の対応です。
南アルプストンネルの一部は静岡市内を流れる大井川上流部の地下を通ります。JR東海は工事で川の流量が毎秒2トン減ると予測しており流域住民の暮らしに大きな影響を与えることが明らかになっています。同社は、減った分の水は導水管とポンプなどで川に戻す対策をとるとしていますが、県側は納得していません。
同県の川勝平太知事は8月、リニア工事が南アルプスの自然環境や水資源に与える影響などを検証する「有識者会議」などを立ち上げ、その結論をもとに対応を求める姿勢です。ところがJR東海は、地元同意がなくてもトンネル工事に着工することを念頭に、準備のための宿舎工事などを今月開始しました。あまりに一方的です。疑問や不安を置き去りにして、「27年開業ありき」で建設に突き進むやり方に道理はありません。
推進は未来に禍根残す
リニア計画そのものに対する根本的な疑義は全く払しょくされていません。自然や住環境の破壊の問題だけでなく、超高速で地下を走ることなどをめぐる安全性への疑問は深まるばかりです。地震をはじめ大規模災害への備えでは、乗客の避難の仕組みをはじめ懸念の声が絶えません。人口減社会の中でリニアが事業として成り立つかどうかも議論を呼んでいます。ゼネコンが群がった談合疑惑も解明されていません。巨大開発の失敗のツケが回されるのは国民です。未来に禍根を残さないためリニア建設は中止すべきです。